第62話 いつか見た記憶《もの》のカケラ 1

「諸君、今回の攻略は、かなり厳しいものになるだろう」


 広間直前の安全地、陣形を作ったところで、隊長が口を開いた。


「つい先ほど、二体目の迷宮主が見つかった。そのことはもうすでに知っているだろう」


 緊張が走る。なぜなら、ここにいる者は皆、そのことの恐ろしさを知っているからだ。


「すでに、迷宮の拡大は我々が対処できる限界に達している。これ以上広がれば、セルシオもろとも、この地域一帯を飲み込んでいくだろう」


 迷宮を作る核は、増殖を続ける。そしてそれは、迷宮の拡大を表す。

 核をつぶさなければ、迷宮は止まらない。攻略隊が対処できない事態になってしまえば、もうそれは国土の一部を放棄することと同義だ。そんなことは、騎士にとって許されない。


「言っておくが、戦力は足らない。そして、援軍を呼ぶ時間もない。それほどに差し迫っている」


 この攻略で、決して少なくはない人数が死ぬだろう。十分な偵察をするための、薬品、人材、時間、全てが足りない。精霊が視えるレオ自身はなんとかなるかもしれないが、それ以外の命など保証できない。


 普通に考えれば、無謀な賭け。この数で二体の迷宮主を攻略するのは、どう考えても無謀だ。士官学校での試験なら、こんな作戦を取った時点で落第必至。


 それでも――、


「だが――、それでも我々は勝たなくてはならない」


 負けることは許されないのだ。

 攻略隊が負けるとは、この国土を――民草の命を見捨てることに他ならないのだから。


「命を賭して、全身全霊をもって、戦え!」


 横を見れば、その目はまるで狩人。

 負けることなどみじんも考えてはいない、ある意味狂人と言われてもおかしくないほどぞっとする目つき。


「王国のために、この地に住まう民草のために、お前たちの守るもののために――――」


 ――戦えッ‼


 迷宮が、震えを上げた。鼓膜を裂くほど張り上げられるは、騎士の咆哮。迷宮主にも引けを取らない、守る者たちの覚悟。


「総員――続けぇぇぇぇええ‼」


 猛者たちが、広間へと流れ込む。荒々しく、それでいて規則正しく、広間の中に陣形が展開される。レオたちが踏み込んだと同時に、広間には明かりが灯る。ひとつ、ふたつと増えていく緑黄色の光が、広間の迷宮主の姿を写し出す。


 そこにいたのは、斥候の報告通りの怪物。

 なぜ、この迷宮にこいつが? と、全員が疑問と驚きを持ったことだろう。

 そいつの存在を知ったあの時、攻略隊には少なからずの動揺が生まれていた。なぜなら、誰もがその存在を知っていたからだ。もちろん、レオでさえも。


 発光石の光を反射し、その巨体が鈍く光る。身体中には青く光る魔力線が走っており、それは、身体のあちこちに刻まれる魔法陣へとつながっている。しかし、魔法陣の複雑さゆえに、駆動原理は全く解析不能。専門家でも、意見が分かれている伝説上の怪物。


 学術名は『ゴーレム』。遥か昔に創られた、いまはなき大帝国の負の遺産。

 硬い鉱石に覆われた人工魔獣が、レオたち攻略隊へと牙をむいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る