第37話 ハプニングと、突然の再会 7
雨宮はすぐに見つかった。というのも、どうやら俺を見失ってしまったため道の端で待っていたらしいのだが、例のごとくチンピラ風の集団に声をかけられていたのだ。ただのチンピラならば今の雨宮の敵ではないのだが、一人で突っ立っていた雨宮の身を本気で案じるというただの善意だったため、雨宮も強くは拒絶できなかったのだ。
――ちょっと、あの、本当に大丈夫ですから……!
という雨宮の声が路地から聞こえ、何かに巻き込まれたかとその場所に走り出す。「雨宮!」と少し声を張り上げ路地裏に飛び込んだ俺が見たのは……
チンピラ集団に囲まれるようにして真ん中で顔を真っ赤に染める雨宮という、なんとも不思議なもの。雨宮には背を向けているため、危害は加えようもない。危害どころか、むしろ雨宮を護衛するSPのような印象さえも受けた。
目に映る、どう考えても配役ミスだろうと突っ込みたくなる光景。
「…………どゆこと?」
そんな言葉が出たのは、仕方なかったはずだ。
俺が来たことで、彼らは相好を崩し雨宮から離れていった。人さらいが頻繁に起こることから心配されての、ただのおせっかい。そのときの状況に大笑いし、雨宮に少々キツめの仕返しをされたことはここでは割愛する。
「結局、どこに行ってたの?」
「あの婆さんに呼び止められて、これ渡された」
お守りを取り出し雨宮に渡す。文科系の書籍を読み漁っていた雨宮にはその知識があったようで、あの老婆の説明を補足してくれた。
「これはお守りの一種で、相手の安全とか、願いの成功を祈願するものだったと思う。このお守りの中に、何か相手が必要になると思った品物を入れるんだって」
「へえー……けっこう硬いけど、何入ってるんだ? これ」
「開けちゃだめだよ。ボロボロになって壊れて出てきたときに初めて、その品物を使うんだって。開けると効力がなくなるって言われてるから」
中身を空けようとする俺の行動を察し、雨宮が回り込んでくぎを刺す。それから、「神谷くんの行動は読みやすいから!」と、自慢気な顔をしてこちらを見る。なぜだろう、それが無性に癪に障る。
「…………中身見ないように開けて、俺も何か入れよっかな」
「一部ではそんな風習もあるみたいだけど……縁起の悪いものを入れるのはダメだからね? 何を入れるつもりなの?」
「さっきの写真」
「消して‼」
取り出した端末を、雨宮が奪い取らんと手を伸ばす。そうはさせまいと、腕をくねらす。道の端では、そんな奇妙なケンカが勃発していた。一分近く取り合いしていた時だろうか。
雨宮の手が、俺の端末を握ろうとしたその時――
「樹‼ 晴香‼」
「「⁉」」
聞き覚えのある声が、背後から響いた。
数週間前に、雨宮の次によく話した相手の声。忘れるはずもない、俺が兄のように感じた青年の声。
「「後藤さん⁉」」
作業着のようなものを身に着け青年――後藤 竜也が、目を大きく見開き立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます