第140話 王子と王女の会話
イレーネ王女は、やはり綺麗な女性だ。
漆黒の髪は腰まで届いていて、黒なのに光を反射しているのではと思うほどの綺麗さ。
身長はそこまで高くないが、顔が小さくとてもスタイルが良い。
目はつり目で美人だが怖い印象などはなく、微笑を浮かべて美しい。
前に会ったときは目立たないように普段着だったようだが、今日は正式な場なのでとても豪華で綺麗な服を着ている。
俺のように服に着られている感じはなく、とても優雅に着こなしていた。
「お久しぶりです、イレーネ王女。先日はありがとうございました」
俺は手を差し出して、親父とセレドニア国王のように握手を求める。
彼女は流れるように俺の手を握って、挨拶をしてくれる。
「いえ、困った時はお互い様です。ベゴニア王国が無事で良かったです」
「これもイレーネ王女のご尽力のお陰です。今日はそのお礼でこちらに参りました」
「わざわざありがとうございます。ごゆっくりしていってください」
挨拶を済まし、手を離す。
やはりこの国の人や、他国が噂をするぐらいの美女というだけある。
俺も好きな人がいなかったら、惚れていたかもしれない。
手を離して彼女と少し離れると、隣から視線を感じる。
そちらを見ると、アリサが俺のことを半目で睨んでいた。
「なんだよ」
「いえ、なんでも。少し目の動きがおかしかったなぁ、と」
「……なんのことだか」
本当に一瞬だけ、イレーネ王女の開かれた胸に目がいっただけなのに……。
いや、男ならしょうがないだろ。
むしろ視界に入っただけで、やましい気持ちなんて……ほとんどない。
アリサが胸が少し小さいのを気にしていることを知っているから、下手な言い訳はしないでおこう。
俺とイレーネ王女の挨拶は終わったが、親父とセレドニア国王の挨拶はまだ続いているようだ。
というよりも、もう雑談をしている。
俺も国王に挨拶をしたいし、イレーネ王女も親父に挨拶をしたいのに入れない。
少し気まずい沈黙が続いた後、彼女がおそるおそる話しかけてくる。
「その、クリストファー王子。一つ聞きたいことがあるのですが……」
「なんでしょう? それと、私の名前は長いので、クリストで大丈夫ですよ」
「ではクリスト王子。その……」
少し歯切れが悪く、イレーネ王女は恥ずかしそうに問いかけてきた。
「エリック・アウリン様は、本日はいらしてないのでしょうか……?」
まさかの質問に、俺も言葉が一瞬出てこなかった。
「いえ、その、前にエリック様にお会いしたときに、『会いに来る』とおっしゃっていたので……その、気になって……!」
俺の様子を見て何か勘違いしたのか、慌てて弁明しだした。
頰が赤くなっていて、恥ずかしそうにしている。
「申し訳ありませんが、エリックは今日の護衛としては来ていません」
「あっ、そうなのですか……残念です」
慌てていたのが嘘のように、落ち込んでしまったイレーネ王女。
しかし数秒するとハッとして、また俺に言い訳をするように慌て出した。
「残念というのはその、エリック様に前のお礼がしっかりと出来なくて残念ということで、決して殿方にお会いしたかったわけでは……! あ、いえ、お会いしたかったのですが、そういう意味でお会いしたいというわけでは……!」
「イ、イレーネ王女、大丈夫ですか? 落ち着いてください」
先程よりも凄い早口で言い訳をし出したので、とりあえず深呼吸をするように言う。
彼女は深呼吸をし、自分が言った言い訳を思い出したのか、さらに顔を真っ赤に染めてしまった。
「も、申し訳ありません、みっともない姿を……!」
「いえ、とても好感が持てる姿でしたよ」
「お、お恥ずかしい限りです……!」
軽くからかうように言ったが、可愛らしい反応が返ってきた。
だがイレーネ王女がこんな慌ててる姿は初めて見たな。
エリックはイレーネ王女のことが好きなのはわかりやすかったが、彼女も少なからず意識しているようだ。
しかし彼女にはエリックはいないと言ったが、この国にすでにエリックはいる。
護衛としてここにはいないというのは本当なので、嘘はついていない。
おそらく姿は見えないが、この近くにいると思う。
そういう手筈になっているのだ。
流石にここでは話せないが、外に声が漏れないところに行ったら話そう。
……隣ではまた俺のことを睨んでいるアリサ。
「なんだよ」
「いえ、楽しそうで何よりです」
「……どうも」
ふてくされてる……。
いや、親交深い国の王女様と少し話しただけだろ。
しかも親友のエリックの話題だし、特別仲良くもしていない。
俺が王宮にいると、アリサ以外の女性と話すことは本当に少ない。
せいぜいメイド長や、魔法を教えに来る副団長のビビアナぐらいだ。
だからアリサは俺が知らない女性と話していると、すぐにいじけてしまう。
そのような耐性がないからだろう。
はぁ、めんどくさい女だ……。
だけど、そういうところも可愛いと思ってしまうのは、惚れた弱みだろうか。
俺がそう思って薄く笑うと、アリサの目がさらに鋭くなってしまった。
「クリストファー王子、どうしたのですか?」
「いや、俺の専属メイドは嫉妬深いと改めて思っただけだ」
「っ! な、何を言って……!?」
とても驚いた様子のアリサ。
そんな姿を久しぶりに見たので、思わず声を出して笑ってしまう。
「ははっ、悪い悪い。からかいすぎた」
「……帰ったらお仕置きです」
「それは勘弁願いたいな」
アリサのお仕置きは厳しいものはないが、ただただ恥ずかしいものばかりだ。
一時間俺の膝を枕にしてアリサが寝て、ずっと頭を撫でるというお仕置きが前にあったが、あれはキツかった。
「……すいませんが、お二人は恋人関係なのでしょうか?」
「っ! えっと、その……」
やばっ、イレーネ王女の目の前だということを忘れていた。
とても純粋な目でそう問いかけてきた彼女に、何も答えられない。
恋人関係ではないが、普通の従者と王子という関係でもないのは確かだ。
「い、いえ、そんな、一従者の私が、クリストと恋人関係など……!」
アリサも混乱しているのか、俺のことをいつもの呼び方になってるし。
その後、イレーネ王女がそういう話が好きなようで、親父たちに呼ばれる前で問い詰められた。
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