第94話 報告


「我がベゴニア騎士団の皆よ! 今こそ踏ん張る時だ! 俺に続けえぇ!!」


 威厳あるその声に、この国の兵士達が顔を向ける。


「へ、陛下! なぜここに!?」


 そんな声が上がるのを聞いて、陛下は味方だけじゃなく敵にも聞こえるような声で叫ぶ。


「ここで勝たなければこの国は終わる! お前らの腕に、この国の命運はかかっているのだ!」


 兵士の皆を鼓舞するように叫び敵を斬りつけるその姿を見て、聞いて、倒れ伏していた兵士達が力を振り絞って立ち上がる。


「友を、家族を、愛する者を! 守るためにお前らは兵士になったはずだ! その心を思い出し、敵を斬り伏せろ! 吹き飛ばせ!」


 魔力の枯渇で顔色が悪く、後ろに下がっていた者達が前に進み出る。


 やはり、レオナルド陛下は王の器ですね。

 このような鼓舞は私がやらないといけないのですが、陛下がやるとより一層効果があります。


 そんなあなただから、私はこの国に仕えているのです。


 こんな状況で、私の滅多に動かない口角が上がることを認識してしまいました。

 すぐに引き締めて、目の前の敵を睨む。


 兵士の数は同じぐらいだが、相手には魔物使いがいて数としては圧倒的にこちらが不利。

 しかし、兵士の質はどう見てもこちらが上。


「イ、イェレ団長……!」


 前線で戦ってしまっている陛下の元に近づいていく私を見て、兵士の一人がそう呟いたのが聞こえた。


 目の前から敵が斬りかかってくる。

 そいつと共に狼のような魔物が下から飛びかかるように突撃してくるのも見える。


 私は、いや、俺は――本気の戦闘意識に切り替える。


 敵の兵士が剣を振り下ろすより先に、相手の額に剣を突き刺す。

 魔物は足に喰いついてきたのを確認し、ギリギリで足を上げて避け、そのまま踏み潰す。

 額から剣を抜き、足の下にいる魔物の首を斬り裂く。


「戦えねえ奴は下がってろ! まだ戦える奴は、俺と陛下についてこい!」


 俺は敵と戦いながら陛下の元へ駆けつける。


 陛下と俺の言葉を受けて、兵士達が雄叫びを上げながら敵に突っ込んでいく。


「陛下! 俺の後ろにいろ!」

「ふっ、舐めるなよイェレ! 昔はお前と一対一で勝ち越していたんだぞ!」

「何年前の話してんだ!? 今は俺の方が強いに決まってるだろ!」


 そんな会話をしながら陛下の前に行こうとするが、陛下も俺の前を取ろうとする。

 その間にも敵が襲いかかってくるので、陛下と一緒に相手を斬り伏せる。

 最終的には陛下と背中合わせの形に落ち着いた。


「陛下と団長に続け!」

「この国は、俺たちが守るんだ!」


 俺と陛下の周りからそんな声が上がり、敵の軍勢を倒し始めた。


「なんなんだこいつら! なんで倒れねえんだ!」


 敵の兵士が恐れるように声を震わせて叫んでいるのが聞こえる。


「はっ、そんなの決まっているだろう!」


 その兵士の後ろに、陛下が回り込む。


「倒れたら、守れないからだ!」


 そう教えるように告げてから、敵を斬った。


 陛下と俺の鼓舞でベゴニア王国の兵士達が押し返し始めた。

 だが、ここに決定打が足りない。


 相手も最初はこっちの勢いに押されていたが、今は冷静さを取り戻して対応してきている。

 これではこちら側がどんどんと不利になっていってしまう。


 だが、これでいい。

 今はまだ決定打はないが、こちらには切り札の存在がある。


 それは――。


「『火炎弾スターフレア』」


 上から、そんな詠唱の声が聞こえた。


 と同時に、敵が固まっているところから爆発が起こったような衝撃が走った。

 そこを見ると何十という敵の兵士や魔物が身体を炎で焼かれている。


 そのような攻撃が、十数個も空から降ってきた。


「お待たせしましたー。正門での戦闘は終了したので、援護しにきましたー」


 先程の詠唱と同じ声が、また空から聞こえる。

 その声に釣られて空を見る敵の兵士を斬り、そちらを向かずに答える。


「ビビアナ! 良いタイミングで来たな!」

「あはっ、イェレさん本気だー」


 俺の口調を聞いて、なぜか嬉しそうに笑いながらそう言った魔法騎士団副団長のビビアナ。


「味方に当たらないように、敵を殲滅しろ!」

「はいはーい、じゃあいきますねー」


 その後、上空から敵の兵士や魔物にだけ当たる魔法を次々と空から放たれる。


 敵も魔法を使える者がいるだろうし、弓という武器は持っているだろうが、そのような敵は地上にいる俺達が早めに対応して倒す。

 たまに空にいるビビアナに攻撃が行くが、苦し紛れに放たれる弓や魔法が当たるわけもなく、余裕で躱して魔法を放つ。


 ビビアナが来てからすぐ、正門で戦っていたこちらの兵士達がやって来た。

 これで数の利もこちらが上になった。


 数十分後には、形勢は完全に逆転していた。


 もう相手の兵士は逃げようとしかしておらず、主人を失った魔物達が時々襲ってくるのに対応する。


 そろそろ……大丈夫ですね。


 私は深く深呼吸をし、戦闘態勢に入っていた身体や頭を冷やしていく。


 そして周りを見渡し、陛下の姿を見つける。

 なぜか上を睨むようにして見ている陛下に近づいていく。


「陛下、ご無事ですか?」

「――ピンクか……ん? ああ、イェレか。俺は大丈夫だ」


 ピンク……?

 私の質問に答える前に呟いた一言に疑問を持ちながら、陛下が睨んでいる空を見上げる。


 空には、ビビアナ副団長がいる。

 彼女は、スカートを履いていた。


「……陛下」

「なんだ」

「王妃様に報告させていただきます」

「すまん、それだけはやめてくれないか」


 王妃様に報告することを頭に留めておきながら、戦場だったこの場の後始末をしに行った。

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