第84話 裏門の戦闘
「『炎光線ヒートレーザー』!」
指先から炎が直線上に放たれる。
目の前の魔物の群れ、そして敵の兵士にその指先を向ける。
この魔法は出してる間、指を向ける方向に熱光線を出すことができる。
極限までに凝縮された炎の光線は貫通性にとても優れていて、魔物や人の身体を簡単に切り裂く。
炎の光線を少し傾けるだけで、魔物や人の身体が裂かれていく。
味方に当たらないように注意しないといけないし、建物にも当たったら火が上がってしまうからさらに注意が必要だが、とても強い魔法だ。
前に、アンネ団長に教えてもらった技だ。
「ティナ・アウリン、良くやった! 後ろに下がれ!」
「はい!」
魔力を溜めてからこの魔法を放ったので、結構魔力を失った。
すぐに下がって先輩達に次の魔法を放ってもらう。
私はすぐに魔力をまた貯め始める。
今、私がいるところは王宮の裏門。
ここには魔物や敵の兵士が多く来ていて、王宮に侵入させないために戦っていた。
さっき起こった爆発で、敵が一気にここまで迫ってきてしまった。
王宮に入る門は二つ、正門と裏門。
正門の方が大きく、敵が侵入しやすいということであちらにはアンネ団長がいる。
こちらは団長や副団長は誰もいない。
イェレ団長がどこにいるかは私にはわからないけど、こんな状況だ。団長にしかできないことをやっているに違いない。
私も、私ができることをしないといけない。
今はこの裏門を死守をしないと、このベゴニア王都が堕とされてしまう。
王宮に入られ、レオナルド陛下を殺されたらこの国は負けたと同じだ。
まだこちらからは魔物一匹、敵の兵士一人も王宮の中に入れていない。
しかし、時間の問題かもしれない。
こちら側の兵士より、敵側の兵士や魔物の方が多くなり始めている。
まだ質で勝っているけど、量で押し切られたらまずいと思う。
こっちには魔法を使える兵士が多いけど、相手には近接戦を得意とする人が多い。
今は遠くから魔法を放って押さえているが、魔力が尽きてしまってる人が多くなっている。
まだ私は余裕があるけど、どんどん魔法を撃つペースが遅くなってくると、近づかれてしまう。
近接戦になったら相手に分がある。
こちらも少しは剣を使う兵士はいるが、敵の魔物や兵士より数が少ない。
魔法騎士団ではなく、騎士団の方の兵士の援軍を呼ばないとこのままじゃ……!
「『光爆発サンバースト』!」
私は後ろで魔力を十分に溜め、魔法を放った。
指先から小さい光の玉が敵に向かって飛んでいく。
三人の兵士と何匹かの魔物の側まで行くと、その玉は爆発した。
兵士達と魔物達は爆発に巻き込まれて肉片となった。
さっきから私は魔法で魔物、そして人を殺している。
初めて人を殺しているけど、あまり実感がない。
まだ戦いの途中だし、魔法で殺しているから実感が湧かないだけかも。
だけど後悔なんてない。
逆に、人を殺せて良かったと少し思ってしまっている。
なぜなら、エリックに少しでも近づけるから。
エリックは村を襲ってきたあの男を殺した。
私達の村を守るために殺してくれた。
何かを守るために、人を殺す。
エリックがそれをしたのなら、私も早くそれを経験したかった。
これが、前にエリックが経験した人を殺すという感覚。
まだ実感はしてないけど、これからどうなるんだろう。
前に先輩兵士に、人を殺した兵士が精神を病んで辞めていったという話を聞いた。
そうなるのが私は怖かった。
エリックと離れるのが、怖かった。
だけど、今回の戦いで人を殺して、その心配はないとわかった。
私は、人を守るために人を殺せる。
エリックと同じようにそれができることが、少し嬉しかった。
さっきより相手の兵士や魔物の大群が近づいてきている。
こちらの近接戦をする兵士達も応戦しているが、数が違いすぎる。
本当にまずい、このままじゃ……!
「次! 魔法を放て!」
「す、すいません、もう魔力が……!」
私が魔法を放って後ろに下がった後、それに続く人達がもう魔力切れを起こしてしまっていた。
「くっ! 魔力が溜まったものから放て!」
指揮ってる兵士の人がそう言うが、全然魔法が飛んでいかない。
ほとんどの人が魔力を切らしているのだ。
私はまだ魔力を溜めれば打てるが、打った後すぐなのでまだできない。
そして――遂に均衡が崩れる。
「オラァ!」
「がっ……!」
指揮っていた兵士は前の方で、後ろを向いていた。
その隙を狙われて、後ろから頭を武器で殴打された。
「俺に続けお前らぁ! 王宮を落とすぞ!」
「おおおおぉぉぉぉ!」
指揮っていた兵士を倒した魔族の男が声を上げると、後ろから魔族の兵士達が雄叫びを上げて迫ってくる。
「くっ……! 『氷壁アイスウォール』!」
私は溜まった魔力を解放し、魔法を放った。
敵の兵士達とこちらの兵士の間に、デカイ氷の壁を作った。
これは相手を殺すための魔法ではなく、相手の進撃を止める魔法だ。
「あ、ありがとうティナさん!」
「今のうちに体勢を立て直せ!」
他の兵士達がそう言うが、ここにはもう魔法を放てる兵士がほとんどいない。
近接戦闘ができる兵士も相手より少ない。
今は氷の壁で止めているが、すぐに突破されてしまうだろう。
「援軍はまだなのか!?」
「もうダメだ……死んじゃう」
隣の女性の兵士が腕で身体を抱えて、震えてうずくまっている。
このままじゃここは突破されて、王宮の中に侵入されてしまう……!
それに、私も近接戦はそこまで得意じゃない。
私もこの壁を突破されたら……!
まだ、絶対に死にたくない!
エリックと最後に会ってから、もう三日経った。
生まれて初めて、こんなにエリックと離れている。
エリックに会うまで、死んでたまるか……!
もう一度魔力を溜めて、魔法を放とうとしたとその時。
「ティナ、よく頑張った」
後ろから聞き慣れた声がして、肩に何か暖かいものが置かれた。
それが手だとわかり、声の人物もすぐにわかった。
後ろを振り向きながら、その人物の名前を嬉々として叫ぶ。
「――エリック!」
「ああ、待たせた。あとは俺に任せろ」
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