第49話 魔法騎士団の挨拶


 ――ティナside――


 エリックとユリーナと別れてから、私は一人で魔法騎士団の訓練場に向かった。


 昨日案内してもらったので、特に迷うことなく行くことができた。


 騎士団の方の訓練場とは結構離れていて、こっちのは魔法を使うので壁などがとても硬くできているらしい。


 訓練場に着いて周りを見渡すと、何千人という先輩方がいる。

 ほとんど女性だけど、ちらほら男性の姿も見える。


「ティナちゃーん!」


 遠くの方で私の名前を呼ぶ声が聞こえたのでそちらの方向を見る。


「あっ、ビビアナさん!」


 私に向かって手を振って近づいてきてくれたのは、昨日案内してくれたビビアナさんだった。

 ビビアナさんは一緒の部屋に住んでいて、とても優しい人だ。

 笑顔がとても可愛くて、こっちまでつられて笑顔になってしまう。


「昨日ぶりだねー。朝起きたときにもういなくてびっくりしたよー」

「すいません、朝早く起きて朝食を作りたかったので」


 あんなに気持ちよさそうに寝ているビビアナさんを、起こすことはできなかったよ……。


「そうなんだー、自分の分作るなんて偉いねー」

「あ、私の分も作ったんですけど……昨日話した、エリックの朝ごはんを作りたかったんです」

「あー、ティナちゃんの彼氏君だっけ?」

「か、彼氏じゃないです! 家族です!」


 そう、私とエリックは彼氏彼女なんて曖昧な関係じゃない。


 姓の名前が一緒……つまり、もうそれは家族、夫婦っていうこと!


 ……とまではさすがにいかないかもしれないけど、それでも彼氏彼女なんてものより強固な絆で繋がっている。


「へー、エリックちゃんって可愛くてカッコいいんでしょー?」

「はい、もちろんです!」


 昨日案内をしてもらいながら、ビビアナさんにはエリックのすごさをいっぱい喋った。

 強くてカッコいいところから、泣いた顔とか寝てる顔がとても可愛いところまで。


「そんな子が家族なんていいなー。私も家族になりたいなー」

「本気で言ってるなら、どういった方法でなるのか問い詰めたいですがどうしますか?」

「ん? なんでそんな怒ってるのティナちゃん?」

「……なんでもないです」


 この人は何も考えずにこういうことを言うから本当に心臓に悪い。

 昨日も話している途中にエリックを彼氏にしたいなど言っていたけど、本気で言ってるわけではないから大丈夫だと思う。


 だけどいつ本気になるかわからなから、油断は禁物。


「みんな並び始めたから、ティナちゃんも並んでねー」


 そう言われて見渡してみると、いっぱいいた人達が整列をしだしていた。


「はい、わかりました……って、ビビアナさんは並ばないんですか?」

「私は前に行かないといけないからねー」


 そう言ってまた私に手を振って前の方に行ってしまった。


 前ってどういうことだろう? ビビアナさんは前列に並ばないといけないってことかな?


 そう思いながら先輩方に混ざって並んでしばらく経つと、前で台のようなものに上がってみんなを見渡す人が来た。


「おはよう」

『おはようございます! アンネ団長!』


 昨日私が挨拶をしに行った、魔法騎士団団長のアンネさんだ。

 とても凛々しく、綺麗な人だ。


「研鑽なさい」


 ただ一言、そう言ってから台から降りる。

 たった一言でとても短いのに、心を打たれるような言葉だった。


『はい! ありがとうございます!』


 整列しているみんな、特に女性の声が訓練場に響き渡る。


「ああ、今日もアンネ様はとてもお美しい……」

「その美貌を朝から見れて光栄です……」


 私の両隣に並んでいる女性の人が惚けた顔でそう呟いているのが聞こえた。

 確かに女性から見ても、アンネさんはとても綺麗でカッコいいと思う。


 私もあんな女性になれたら、エリックにもっと頼られるのかな……頑張ろう!


 そう思いながら前を見ていると、さっきまで喋っていたビビアナさんが台に上がった。


「おはようー」

『おはようございます! ビビアナ副団長!』


 えっ……副団長?

 ビビアナさんって副団長だったの? 知らなかった……。

 あの人って二十歳じゃなかったっけ?

 周りにいる女性の人達より明らかに歳下なのに、副団長だったなんて……。


「今日も頑張ろうー」

『はい! ありがとうございます!』


 ビビアナさんがそう言うと、今度は男の人の大きな声が響いてきた。

 男の人の方が人数少ないのにこんなに聞こえるんだ……。


「ああ、ビビアナちゃんまじ天使……」

「あの笑顔を毎日見るためだけに、俺は魔法騎士団に入った……」


 後ろやら前からそんな男の人の声が聞こえた。

 確かにビビアナさんは可愛いけど……そこまでする人がいるんだ。


 ビビアナさんが台から降りると、すぐさま訓練が始まる。


 最初はランニングから始まった。

 魔法を使うから体力は必要ないと言われるらしいけど、そんなことはない。

 魔法をいっぱい使うととても疲れるから、体力向上は大事だ。


 ランニングは村にいたころからエリックとやっていたので、あまり辛くなかった。

 騎士団は魔法騎士団の二倍以上走るらしい。


 エリックも多分今頃走ってるんだろうなー、とか思いながら走り終えた。


 そしてそれから何人かのグループに分かれて訓練をするらしいが、私はビビアナさんに呼ばれたのでそっちの方へ行く。


「ビビアナさん、なんで副団長だってこと教えてくれなかったんですか?」

「言ってなかったっけ?」

「言ってませんよ!」

「そうだっけ? じゃあ私、副団長なんだー」

「今言っても遅いですよ!」


 本当にマイペースな人で、振り回されてしまう……。


 ビビアナさんについて行くと、団長のアンネさんのところまできた。


「アンネさーん、ティナちゃん連れてきたよー」

「ご苦労様。では、ティナ・アウリン。これから試験を始める……って、なんでニヤニヤしているの?」

「あっ……す、すいません」


 アウリンと呼ばれるとエリックと同じ名字だということを思い出して、ニヤニヤしてしまった。

 だめだ、しっかりしないと……。


「よろしくお願いします!」

「この試験で私が魔法騎士団に入る実力がないと判断したら、見習いからやってもらうわ。心して受けるように」

「はい!」


 エリックの隣に立つために、ここで魔法騎士団の入団を認めてもらわないといけない。


 絶対に受かってやる!

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