第20話 力不足
――ティナside――
私がエリックに近づくと、エリックは力尽きたように倒れかかってきた。
私の名前を呼んで礼を言ったあと、すぐにエリックは気絶してしまった。
「エリック!」
私はこんな疲弊しきっているエリックを初めて見た。
私は小さい頃からエリックの訓練とかを見てきたけど、ここまでになっているのを見たことがない。
もしかしたらこのまま、目を覚まさないんじゃ……!
私は最悪の想像をしてしまう。
どうすればいいの……!?
「あ……回復魔法!」
私は自分が出来ることを思いついて、すぐにエリックをその場にゆっくり寝かせて私は魔力を溜め始める。
今日は私も何回も魔法を使って疲れているけど、エリックに比べればこんなの……!
魔力を溜めるのにも体力が必要になる。
私は少し息を荒くしながら魔力を溜め、魔法を行使する。
「お願い、生きてエリック……! 『治癒キュア』!」
私は自分の身体から体力や気力が一気に抜け落ちるのを感じる。
今まで生まれてきて一番力を込めて魔法を使ったので、これだけの疲れを感じるとは思ってもみなかった。
「うっ……!」
一瞬、意識が薄れかけたがなんとか持ちこたえる。
エリックの身体の傷がどんどんと治っていく。
多分エリックは外傷は足を斬られている程度しかないけど、内臓へのダメージが大きいのだと思う。
エリックは口から血を吐き出している。
つまり、完全に内臓のどこかから血が出ているということだ。
私の回復魔法は光魔法で、外傷の傷は治るのが早いが、内臓の傷は治りが遅い。
内臓の傷は水魔法の回復魔法じゃないといけないと、前にエリックが言っていた。
今までエリックがこんなに内臓に傷を負ったことをないから、私は水魔法の回復魔法を覚えていない……!
自分の力が及ばないのをとても悔しく、泣きそうになりがらも少しでもエリックの傷を癒すために魔法を使い続ける。
「はぁ……はぁ……!」
息切れが激しくなってくる。
横になっているエリックの姿が時々霞んでくる。
「エリック……! 死なないで……!」
私がギリギリな状態で魔法を使っていると、村の中の方から声が聞こえてくる。
「ディアンさん! あなたはまだ動いちゃダメだ!」
「息子が戦っているのに俺が倒れてちゃいかんだろ……! そんなの漢じゃねえ!」
どうやらさっきの狩人の二人の引き止めを振り払って、ディアンおじさんがここまで来たようだ。
「エリィィィク! 俺はまだ戦えるぞぉ!」
声がする方へ顔を向けると、大剣を持ったおじさんが破られた壁のところに立っていた。
「ん……? あいつはどこだ……?」
「ディアンさん、エリック君倒れてますよ!」
「なにぃ!? エリック、大丈夫か!?」
「ティナちゃんも大丈夫か!? こんな激しい戦闘の跡見たことない……!」
三人は私とエリックを見ると寄ってくる。
私は魔法を使い続けたまま三人に頑張って説明する。
「もう、男の人は倒した……! だけどエリックが、危なくて……!」
「っ! そうか、わかったぞティナちゃん」
ディアンおじさんは私たちから少し奥の方に目をやると、そこで倒れて死んでいる男の人を目にして状況を大体察してくれたらしい。
「ティナちゃん、魔法ありがとうな。もう休んでいいぞ」
ディアンおじさんは私の頭を乱暴に撫で、そう言ってくれる。
おじさんには私が無理して魔法を使ってることがわかっているのだろう。
「だけどエリックが……!」
「エリックは大丈夫だ。俺の息子はこんなんじゃ死なんぞ。だから安心して眠るんだ」
私はおじさんの言葉を聞いてまだエリックが助かってもないのに、なぜか安心してしまった……。
そのせいか、一気に疲れと眠気が襲ってくる。
「エリックを……お願い……」
思ったより小さな声が出たけど、しっかりとディアンおじさんに聞こえるように、心から頼み込む……。
「任せろ、ティナちゃん……よく頑張ったな」
その声が最後に聞こえてきて、私もエリックと同じように力尽きたように気絶してしまった。
――ディアンside――
俺は、弱い。
今俺の目の前でティナちゃんが気絶してしまい、地面に倒れ込まないように支えながら考える。
さっきまで魔族だとかいう男と戦っていたが、あいつと互角に戦えていたのはエリックだ。
俺はあいつと戦っても手も足も出ずに倒されてしまった。
ティナちゃんがいなかったら俺は死んでいただろう。
あれだけ大きな傷が出来たのに治っているのは、ティナちゃんが魔法で治してくれたからだ。
そして俺がいなくても、エリックは一人で……いや、多分ティナちゃんも一緒だったんだろう。
二人で、あの強い男を倒してしまった。
なにが漢の中の漢だ……!
俺は、自分の息子一人も護れない……!
目の前で顔が真っ青になって倒れているエリックを見て、俺は悔しさで拳を強く握りこむ。
「おいお前ら! 二人を運ぶぞ! 俺はエリックを運ぶ!」
「ちょ、ディアンさんも重傷なんだから無理しないでください!」
「そうですよ! 二人は俺たちが運びます!」
狩人仲間のこいつらにも心配されるとは……。
だがこいつらが言った通り、俺はまだフラついてしまう。
エリックは筋肉もついてきて、重くなっているから今の俺が運んだら万が一でも転んでしまったら大変だ。
仕方ない……。
「じゃあ俺はティナちゃんを運ぶ! 二人でエリックを運んでくれ!」
軽いティナちゃんぐらいなら今の俺でも運べるだろう。
「え……ディアンさん、そういう趣味があったんですか?」
「ディアンさん、あんな綺麗な奥さんがいるのにまさか……」
「ふざけたこと言ってんじねえよ! 死にてえのか!?」
「「す、すいません!」」
俺がキレ気味に叫ぶと二人は即座に謝ってくる。
ったく、俺はセレナ一筋に決まってるだろ。
ティナちゃんを横抱きにして持ち上げる。
軽い……こんな小さい子に俺は、気絶するまで魔法を使わせてしまったのだ。
俺が村の中に歩いていくと、後ろから狩人仲間がエリックの腕の下に身体を入れ二人掛かりで支えて運んでくる。
しかし――。
俺はようやく落ち着いてきたので、今まで少し疑問に思っていたことを考え始める。
なぜエリックが、魔物の大群が押し寄せることやこの男が来ることを知っているかのように行動していたか、だ。
村の全方位を囲った壁だってそうだ。
こんなの、絶対に事前に知らないと準備できないことだろ。
エリックは村での誕生日会の時にいなくなり、魔物の大群が押し寄せた時にはもうすでにこっちに来て戦っていた。
魔物の大群が来る方角がわからないと、あんなに早く対処できないだろう。
エリックは、なにを知っているのだ……?
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