第83話 再会 -New place, meet again-
・1・
「フフフ、見てたよカイン君」
「あ?」
何故か妙にウキウキしているレイナ。彼女のキラキラした瞳に良からぬ気配を感じたカインは思わず一歩後ずさる。
「もー、分かってるくせに~♪ シルヴィアさんとシーレちゃんだよ!」
「? どういう意味だ?」
「ズバリ、どっちが本命なの!? やっぱりシルヴィアさん? 幼馴染……憧れるよねぇ。でもでもシーレちゃんも天使みたいに可愛いし――」
「馬鹿言ってないでさっさと行くぞ」
「あ、待ってよカイン君!?」
呆れたカインはレイナの横を素通りして旧海上都市跡地行きのジェット機に搭乗する。機内にはすでに飛角が座っており、後ろにいるレイナを合わせればこれで全員が乗り込んだことになる。
「お、来たなわんぱく少年」
「その呼び方、止めてくれませんかね? 歳もそんなに変わらないでしょ?」
カインは現在18歳。直接聞いたわけではないが、彼女との年齢差は片手で数えられるくらいだったはずだ。記憶が正しければ吉野ユウトや
「おい、乙女の年齢をむやみやたらに詮索するな」
「……」
無意識に指で数えるような仕草をしていたようだ。急にドスの利いた飛角の声が突き刺さり、カインはそれを渋々引っ込める。
「フフ、お前も大概ユウトに似てるよなー。いや、似てきた、か?」
「俺が? あいつに?」
「アハハ、仮にも上司なんだから『あいつ』呼ばわりは止めてあげなって」
彼の反応が面白かったのか、飛角は笑いながらそう言った。
「そうだな……普段はクールぶってるけど実は計画性とか全然なくて、けどここぞって時には周りの想像以上に動くもんだから頼りになる反面、見てるこっちは危なっかしくてしょうがない所……とか?」
「それ分かります!!」
カインの後ろからレイナが勢いよく賛同した。そして彼女はカインの前に回り込むと、眉間に皺を寄せる。
「今回の件、カイン君全部一人で片付けようとしてたでしょ?」
「……」
カインは答えない。しかしそれを肯定と受け取ったレイナは念押しするように人差し指をピンと立てた。
「今度は絶対、私とマキにゃんに相談すること。いい? 日本のことわざには三人寄ればもんじゃの知恵って言葉があるんだよ」
「あー、いい話風に言ってるとこ悪いけどそれ、文殊の知恵な」
「……ッ」
横から飛角に訂正され、恥ずかしさで仄かに頬を赤らめさせるレイナ。しかし彼女はそれでも頭を振りかぶって強引に説教を続けた。
「と、とにかく、一人で思い悩むより三人で考えた方が絶対にいいの! これ、
「あー、そういえばそんなのあったな。すっかり忘れてたぜ」
「もーッ! 素直にはいって言えないの!?」
「わかった、わかったよ。ったく……」
半ば押し切られる形で了承したカインは、そのまま倒れるように座席に腰を下ろした。
「副官様の仰せのままに」
「……そこはかとなく馬鹿にされてる気がする」
「レイナ、そろそろ出発するよ。準備しな」
不満そうな表情のレイナはそのまま飛角からスーツを受け取り、その想像以上の重さに目を疑った。
「重……ッ、ってこれ……もしかして……!?」
「ほら、さっさと着用する。耐Gスーツ……ん? どした? 急にそんな青い顔して」
「あのぅ……もしかしてこの飛行機って……」
「?
「……」
笑顔のまま、ダラダラと嫌な汗を流し始めるレイナ。数ヶ月前、彼女はその無茶苦茶な空の旅を経験してからというもの、もう絶対に乗らないと心に誓ったばかりだった。
「おいおい、まさか降りたりしないよな? 副官様よぅ」
「……ッ!!」
しかしそんな誓いもカインの言葉で泡と消える。
それは同時にこれより十数分後、青い空を切り裂く機内の中で少女の絶叫が木霊することが確定した瞬間でもあった。
・2・
——アメリカ合衆国、ニューヨーク。
ロンドンに並び経済、金融、文化、そして技術。その全てが一堂に集約する最大の世界都市。目まぐるしく行き交う人々が発する熱量は、この街が今もなお成長している証と言えるだろう。
そんな活気溢れる街の中に一人、地図を片手に歩く少女がいた。
「えっと、地図だとここ……ですよね」
遠見アリサは端末に投影された現在地を表すマーカーと目的地のマーカーが交わったのを確認すると周囲をぐるりと見渡した。するとまず最初に視界に入ったのは壁が白一色で統一されたいかにも研究施設ですと言わんばかりの巨大な建物。その壁に『
数時間後にユウトと真紀那がここに到着する予定になっている。アリサは彼らを迎えるために一足先にロンドンからこちらへ渡って来たのだ。護衛に新たな眷属、真紀那がいるとはいえ、ワーロックの力を失ったユウトを狙う者がこのタイミングで現れないとも限らない。念には念をということで単独での行動が多くフットワークの軽いアリサが抜擢された。
ただ、アリサにはユウトとは別にもう一つ気がかりな事があった。
(本当に、大丈夫でしょうか……)
数日前に起こった
(やはり、
アリサはロンドンを発つ前に夜白と交わした会話を思い起こす。
=========
『本当に大丈夫なんですか?』
『ハハ、メディカルチェックでは問題なかっただろう?』
倒れてから半日も経たず、夜白は職務に復帰した。まるで何事もなかったかのように。
『それは、そうですが……顔色、悪いですよ?』
『今も絶えず頭の中に膨大な情報が流れ込んでくるからね。全くもって不思議な感覚だよ』
正直に現状を白状した夜白はお手上げとでもいうように両手を胸の高さまで上げる。
『それ、全然大丈夫そうに聞こえないんですけど』
『問題ない。解析と処理は僕が用意した
どこからともなく送り込まれてくる謎の知識。
それは一人の人間が修めるにはあまりにも膨大かつ難解すぎる。
そもそもこの世界の法則から完全に逸脱しているものなのだ。
そう判断した夜白は、数年前に彼女自身が立案した『ワイズマンズレポート』、その被検体の一人――レヴィル・メイブリクの実験で生まれた擬似人格発現例を基に、即席で複数の『
『ハハ、心配してくれてありがとう。やっぱり君は僕にとって特別だ』
『……ッ、その言い方は止めてください』
クスクスと悪戯っぽく笑う夜白。しかしふと、そんな彼女の顔から笑顔が消えた。
『もし……もしもだよ?』
『?』
『もし、僕がこの叡智を全て解読したとして……僕は今の僕でいられるだろうか?』
何の冗談だと言おうとしたアリサ。だがそのあまりに真剣な眼差しに彼女は言葉を飲み込んだ。
『……どういう、意味ですか?』
『ううん、何でもない。今のは忘れてくれ』
=========
最後のあの言葉。あれは果たして何だったのか?
夜白の真意は定かではない。それが彼女にしか到底理解できないものだという事も分かっている。それでもこのもどかしい感情をアリサはどうにかしようと額に皺を寄せた。すると――
「あれ、もしかしてアリサ?」
「え?」
突然自分の名前を呼ばれ、アリサは我に返る。振り返ると懐かしい顔が見えた。思いがけない再会に彼女はついその人物の名前を呟いた。
「ミ、ミズキさん!?」
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