第67話 イリアの受難(後編)

「リコ、あの子またトラブルに巻き込まれているわよ」

「……そう見たいですわね」

 はぁ、どうして私の友達になる子こうもよくトラブルに巻き込まれるか。


 会場内の騒ぎが気になり、もしやアリスがこっそり来ているのではないかと心配してみたが、来てみれば騒ぎの中心にいるのは友人であるイリア本人。

 近くのご婦人に尋ねれば、どうもイリアは母親達の口論を止めに入っただけ。元を正せばアストリアが情報収集の為にイリアの母と姉に話しかけたのがキッカケで、そこにデイジーの母親が割り込んだのが騒ぎの原因らしい。


 アストリアとジークには、このパーティーでさり気なくご婦人方に話しかけ、ドゥーベとの情勢がどれだけ貴族の間に伝わっているかを探るはずだった。

 それがあの軽い性格のせいかイリアの母親に勘違いでもされたのだろう。元々ご令嬢達からも人気があったせいで、自分の娘に興味があるとでも思えば、母親としては必死に娘を勧めるのは同然の事。その過程で第三者が乱入すればトラブルになるのも必然だ。

 アストリアには日頃からその軽い口調を直すようにとは言っているが、肝心のミリィやアリスがあの性格なのだから仕方がないのかもしれない。


「まったく、以外とイリアってトラブルに巻き込まれやすいのよね」

 まるで自分はトラブルとは無縁だと言っているようだが、ミリィもアリスもトラブルメーカーである事は間違いない。

 例えるならアリスはトラブルの発生元で、ミリィに至っては自らトラブルに向かおうとする。するとさしずめイリアはトラブルに巻き込まれやすい体質か。


 しかし、今回の原因は貴女の想い人なのだから何ここで眺めているのよと、文句の一つも言いたところではあるが、これでも仮に一国の王女様。むしろ自ら顔を突っ込み、騒ぎを大きくしないだけマシと思った方がいいのかもしれない。

 いや、できれば関わって欲しくないという方が本音か。

 これ以上騒ぎを大きくしてもらっては、他国からの来賓の方々にどんな目で見られるか分かったもんじゃない。

 とにかく今は早急にこの騒ぎをおさめた方がいいだろう。


「とりあえず騎士やメイド達には手を出すなと言っておいたわ。こんな事でイリアの社交界デビューを台無しにされるのもなんだしね」

 気づけば隣でミリィが使用人の一人を捕まえ、騒ぎを傍観するようにと手配をしてくれている。

 確かに注意するだけで騒ぎが収まればいいが、騎士が出動するような事態になればイリアも一緒に会場から退場を言い渡されかねない。それが例え止める為に入ったからとは言え、騒ぎの原因は原則全員退出が通例。

 例え後日の聴取で無関係と判断されても、騒ぎの現場では細かな調査までできないから。

 だから皆んな退場を恐れて止めようとはしないのだろう。もちろん女性同士のいざこざ程厄介な事はないので、誰だって関わり合いたくないというのが本音。もしここに爵位持ちの貴族でも居れば話は別だが、生憎公爵家のアストリアがいるせいでそれも恐らく期待できない。

 口ではイリアの事が嫌いだとは言っていたが、ミリィは以外と天邪鬼あまのじゃく。どうせ嫌い嫌いと言っているのも、アリスがやたらとイリアの事を気にしているせいであろう。

 現に今もイリアの事を気にしての行動なのだから、案外二人は似た者同士。それでも私にとって二人は大切な友達には違いない。


「はぁ……、仕方ありませんわね。私が行ってまいりますのでミリィは……、って何一人で行こうとしてるんですの!」

 気づけば一人騒ぎの中に足を踏み入れている親友の姿が目に入る。

 思わず慌てて声を掛けたが時すでに遅し、とても今からじゃ止められないだろう。


「……私としたことが、うっかりですわ」

 先ほど自分でも言っていたじゃない、ミリィは自らトラブルに顔を突っ込みたくなるトラブルメーカーだと。

 もう、誰がこの騒ぎの後始末をすると思っているのよ!


 騒ぎを抑えるだけならミリィ一人で十分だが、物事にはなんでも後始末という物が付きまとう。

 この場合、イリアだけをこのパーティーに留め、他のメンバーを退出させればいいのだが、それでは後々イリアだけを特別扱いされたと捉える者もでてくるだろう。

 イリアが私たちと友達関係であるという事はかなり有名な話なので、その辺りを穏便に、しかも誰もが納得が出来るように処理しなければならない。


 これはアストリアや、アストリアの行動を放置したジークにも責任を取ってもらわなきゃ割に合いませんわ。

 ルテアは見かけによらずしっかりしてはいるが、こういった情報操作は大の苦手。下手すれば、うっかり作戦を暴露した上アリス以上の被害が予想される。当然本人であるミリィは使えないし、エスターニア様はご婚礼の準備で大忙し。

 唯一ユミナが悪知恵を駆使して助けてくれそうだが、年齢が若いせいでご婦人方への効果は薄いだろう。


 はぁ……、やはり私がやるしかありませんわね。

 どっと疲れた気持ちを一人抱きながら、ミリィが消えていった人垣の方へと向かうのだった。






 私の名前はカメリア、クリスタータ男爵家の(元)次女。

 人からは可憐だ美人だなどと羨ましがられ、学生時代は男性たちから常にモテ囃されていた。


 そんな私の人生が変わったのは今から約3年前、母の浪費に義父が激怒。それが不服だった母は私たち姉弟を連れて男爵家から出た。

 当初母は不条理に叱られた事に対してのささやかな抵抗だったのだろう。すぐに謝り、迎えに来てくれるだろうと思っていたが、義父から送られてきたのは一通の離縁状。

 そこで素直に謝れば許してもらえたのかもしれないが、普段からプライドの高い性格から母も頑として引かず、届いた離縁状をその場で破り捨てた。


 まぁ、この時母も義父が本気だとは考えていなかったのだろう、なんだかんだと再婚同士の二人が結婚したのは10年以上も前の話。こんな些細な喧嘩などいつもの事だし、母の贅沢も今に始まった事ではない。

 いや、たかがドレスや装飾品を何十点買ったからと言って、これを贅沢だ浪費だと言われたら母も辛いだろう。

 私もまだまだ欲しいものあるし、オシャレもいっぱい楽しみたい。


 だけどその結果、母の主張を無視しての離縁成立。

 この国では貴族裁判の判決によって、片方の主張が通った場合に限り離縁が成立出来るんだとか。

 そんな話、聞いた事がないわよ!


 さすがの母もここに来ては大慌て。

 すぐに謝罪の手紙を出すも、返ってきたのは金貨100枚というほんの僅かな生活費と、間もなく入学するイリアの入学費。

 当然そんなお金などすぐに底を付き、イリアの入学費もあっと言う間になくなった。

 だって仕方ないじゃない、男爵家を出たからといってパーティーやお茶会大忙し。

 ドレスにアクセサリー、新作のお化粧品だって買わなきゃいけない。年頃の女性には当然の責任だと思わない?


 幸いイリアは私と違い何の特徴もない女の子。新しいドレスも必要ないし、学園だって大した学力もないんだからスチュワートで十分。

 前々から私も弟も、妹のイリアだけが義理の姉達から可愛がられていたのが気に入らなかったので、二人揃ってイイザマだと笑っていた事はよく覚えている。


 ……そんなイリアが今私の目前に現れた。

 数ヶ月前、フェリクスが起こした事件によってイリアが置かれている事情が元義父にバレ、母親不適合との判断からイリアだけが男爵家に引き取られた。

 ちょっと、なんでイリアだけなのよ!


 正直、母やフェリクスの事なんてどうでもいい。事件を起こしたのだって所詮自業自得、母も親不適合と言われればそうなのだろう。

 だったら娘の私も一緒に引き取りなさいよと抗議したが、向こうの言い分は私も一緒にイリアの学費を使い込んだとかの理由で相手にしてもらえなかった。


 結局残された私たちは今まで通りの生活を送る事になるのだが、ここに来て更なる悲劇に見舞われる。

 毎月届いていた生活費が送られて来なかったのだ。

 予定や約束には厳しい義父だ、生活費を送り忘れるなんて事は考えられない。

 母はどうやら事前に聞かされていたようだけれど、この日を迎えるまで本気にしていなかった。

 母は義父に何度も抗議の手紙を送るも、返事一つも返ってこない始末。

 どうせ一人男爵家に戻ったイリアが、あらぬ理由を義父などに言いふらしているに違いない。あんなに可愛がってあげたっていうのに、自分だけいい思いをして姉の私までも落とし入れるなんて。


 まぁいいわ。男爵家に戻ったからと言って、どうせ直ぐに化けの皮が剥がれるに違いない。あの子は私のように美人でもなければ、秀才でもない。

 やれば出来る子と言われ続けていた私とは違うのよ。

 どんなにドレスで着飾っても、どれだけ必死に努力しても、私の足元には一生及ばない。

 今に見てなさい、金持ちで、カッコよくて、爵位も地位もある男性をGETして見せるわよ。

 私はフェリクスのように自分自信に自惚れてなんかない。正真正銘、美人で可憐で美しいのよ。そんな私を放っておくなんて有りえないわ。

 決して結婚適齢期と呼ばれている20歳を超えたからと言って、誰からも相手にされなかったなんて事はないと断言出来る。そうよ、今はまだ私ほどの女性を受け入れられる男性がいなかっただけ。

 ほら見なさい、現に今も公爵家のご子息であるアストリア様が自ら話しかけてこられたじゃない。ちょっと母までもアストリア様から話しかけられた事で勘違いしているみたいだけれど、年齢と見た目の関係で相手にされないだろう。


 それなのに……。


 再び私の前に現れたイリアは豪華なドレスに身を包み、その隣には今まさにエスコート中であろう元義理の兄。

 あの子が持っていたドレスなんて1着しかなかったのだから、恐らく男爵家の出資で買った物なのだろう。私たちがこんなにも生活に苦労しているというのに。


「イリアの事が心配になってね。それに妹が困っているのに僕だけ見ているだけなんて出来ないよ」

 くっ……、何気なく紳士的な対応をする元義理の兄。

 元々容姿的には私の許容範囲。ただ年上の男には興味なかったのでそれほど相手にはしていなかったが、こう正装した姿を見るとあたらめてカッコイイと思えてしまう。


 ちっ、こんな事ならもっと前に手を出しておくべきだったわね。

 ま、まぁいいわ。それより今はアストリア様よ。少々邪魔が入ったが、アストリア様が私に興味を抱いて話しかけて来られた事には間違いない。

 近くの男爵家より、興味を抱かれた公爵家の方が余程いいじゃない。


「すまんなイリア、何だかお前まで巻き込んじまったようで。この埋め合わせはまた今度何かするわ」

「……」

 な、ななななな、なんですってぇーーーー!!!

 イリアがアストリア様から話かけられてる!? しかも前々から知っている間柄のように、こんなにも親しげに!?

 おまけに『この埋め合わせは今度何かするわ』ですって? 私なら即答で結婚してと迫るわよ。


「ちょっとイリア! 貴女アストリア様とどういう関係!?」

 落ち着きなさい私、イリアは只ドレスのお陰で可愛く見えてるだけ。

 大人の魅力なら間違い無く私の方が遥かに上よ。


 そんな私の問いかけにイリアは何とも言いにくそうな表情で最後は顔を反らす始末。

 って、もしかして既に二人はそう言う関係!?

 いやいや、好意を抱いて私にアストリア様が話しかけて来たんだ、これはイリアが一人迫っているだけに決まっている。

 まさか元カノって訳はないだろうが、今のイリアの姿のように一時的に騙された可能性は否定できない。


 あまりのショックに脳内処理がフル活動している時、現れたのは一人の女性。


「おい、ミリアリア王女様だぞ」

「王女様も今日のパーティーに来ておられたのか。後でご挨拶に伺わなければ」

「抜け駆けは許さないぞ、私が先にお見かけしたんだ。先に王女様にご挨拶するのは私の方だ」


 周りからザワザワと話し声が聞こえて来る。

 ミリアリア王女様? そういえばこの国に聖女と呼ばれる王女がいたわね。

 王子様の事は一時期調べた事はあったが、その時はすでに婚約者が決まっていたせいで諦めた。

 するとこの王女が国を代表する聖女様? なんだかピンとこないわね。


 まぁいいわ。どうせこの騒ぎを止めに来たのでしょうけど、これは私にとって最大のチャンス。

 私はただアストリア様に好意を抱かれ話しかけられただけであって、騒ぎを起こしたのはこのオバさんで、大きくしたのはイリア自身。

 ちょっと自分が男爵家の人間で、アストリア様の元カノかもしれないが、既に心が離れているのであればこの状況、逆上したイリアが私に嫌がらせをしに来たという理由が成立する。

 よし!


「ミリアリア王女様、いえ、聖女様。初めまして、カメリア・クリスタータと申します」

 ピクッ

 一瞬こちらを睨むような素振りをされたが気のせいであろう。

 巻き込まれた身とは言え、騒ぎの原因は私にもある。事情を知らない聖女様が、多少不機嫌になるのも仕方がないのかもしれない。


 ここはしっかりと説明して、事情を分かって貰う事の方が先決ね。


「実はここにいる妹が……」

「悪いわねイリア。せっかくの社交界デビューだって言うのに、アストリアのいざこざに巻き込んでしまって」

 私の言葉を遮って……いや、私の事など完全無視し、横を素通り過ぎた上に誰かに話しかける聖女様。

「……」

 へ? 今なんて言った? 私の聞き間違えじゃなければ『悪いわねイリア』って言わなかった?


「ミリアリア様、その……騒ぎを止めようとしたのですが、止めるどころか逆に大きくしてしまって……申し訳ございません」

「いいわよ別に。原因を作ったのはアストリアなんだから」

 ブフーーーッ!

 ちょっ、なんでイリアが気安く聖女様と話し合ってるのよ!!

 聖女様と言えばこの国で……以下省略。

 一体この子は今まで何をして来たって言うの? ……以下省略。

 おまけに何? この親しそうな間柄はまるで以前から知り合いのような……以下省略。


「わりぃなミリィ、こんな事になるとは思ってなかったんだ。ちょっと話を聞くために話しかけただけだったのに、気づけはこんな状況になっちまってよ。

 イリアもわりぃ、今日が社交界デビューだったとか知らなくてよ。こんな事になるんだったらジークと一緒に行動するんだったわ」

「へっ? ただ話を聞きたかっただけ? 私への好意は?」

 余りと言えば余りの言葉に、完全に部外者になってしまった私から思わず言葉が漏れる。


「ん? なんだそのって、俺なんかしたか?」

「……」

 まさに言葉をなくし、惚けた私の耳に届くくすみ笑。

「ぷっ、只の勘違いですって。貴女のような小娘を誰が相手にするもんですか。それにこの方は……いえ、貴女には関係のない話でしたわね」

 見れば隣でオバさんがクスクス笑い声を漏らしている。 って、なに母さんまで笑ってるのよ!


「ミリアリアおうじょ……」

「聖女様! 初めてお目に掛かりますわ。私はクリスタータ男爵家の……」

 オバさんが聖女様に話しかけるも、それを遮って母が先に声をかける。

 この状況、先に事情を説明して、相手に責任を押し付ける為に必死なのだろう。私は未だショックで立ち直れないが、今となっては被害者である私には関係のない話。

 精々醜い争いを二人ですればいいわ。

 だけど……


「まだいたの? 貴女達は邪魔だからさっさと会場から立ち去りなさい」

「「……へ?」」

 邪魔くさそうに聖女様から出た言葉に二人は絶句する。

 それもそうだろう、事実上パーティーから帰れと言われているのだ。しかもこの場合、家名に泥を塗った挙句、他の貴族達から笑い者となる事が決定。

 事実上、貴族社会からは当分の間相手にされないであろう。もしかして二度と何処のパーティーからも呼ばれない、なんて事もあるかもしれない。


「お、お待ちください私はただ……」

「聖女様、私は被害者なんです。少しで構いませんので私の話を……」

「黙りなさい! 貴女達が騒ぎを起こした事は間違えようのない事実。言い訳をしたいなら後日、正式に手続きを踏んでから行いなさい」

「そ、そんな……」

「私はただ……」

「もう一度言うわ、今すぐここから立ち去りなさい!」

 これだけ大勢の前でキッパリを言われてしまえばどうする事も出来ないだろう。相手はこの国の聖女様だ、例え年下の小娘であろうが母達には逆らう事が出来ず、何度も悔しそうに振り向きながら会場を後にする。


「で、アストリアも退場」

「って俺もか?」

「当然でしょ、騒ぎの原因なんだから諦めなさい」

「……はぁ。まぁ、今回ばかりは俺も悪かったからな。すまんなイリア」

「い、いえ。私の方こそ母達が……」

 それだけ言うと、アストリア様も足早に会場を後にする。


「で、なんで貴女だけが残っているのよ」

「……へ?」

 キョロキョロと、辺りを見渡すけれど、既に巻き込まれるのを恐れて近くにいる人は誰もいない。

「貴女の事よ」

「わ、私ですか!?」

「他に誰がいるっていうのよ。大体一番の騒ぎの原因である貴女だけ、見逃して貰えるとでも思っていたわけ?」

「ま、待ってください。私はただ巻き込まれただけで……」

「言い訳はいいわ。これでも妥協してあげてるのよ、私の友達の社交界デビューを台無しにしていればこんな事ではすまなかったわよ」

「へ? 友達?」

 前半は普通のトーンで、後半は少しトーンを落として話してこられる。


 どういう事? 聖女様の友達って言えばアストリア様?

 周りを見渡せば、いつの間に現れたのか呆れ顔の一人のご令嬢。

 あぁ、この子の事ね。私とした事がイリアの事を言っているんじゃないかと思って勘違いしちゃったじゃない。


「まったく相変わらず厄介な性格ですわね。素直にイリアを虐めるなと仰ればいいものを」

「う、うるさいわね、私の勝手でしょ」

 えっ、イリアを虐めるな?

 これが『何バカな事をいってるのよ』、と履き捨てればスッキリしたのだろうが、聖女様の態度は何処か照れ隠しをしたような仕草で顔を反らす始末。

「ちょっ、イリアって聖女様どどういう関係!?」

 思わず声を大きくあげるも、周りの反応からは『今頃何を言っているのよ』と冷たい視線が注がれるだけ。


「別に驚くような事でもないでしょ。私たちが友達関係なのは有名な話よ、もしかして自分の妹の事も知らなかったの?」

「……イリアが聖女様と友達?」

 いやいやいや、聖女様と友達ってありえないでしょ! そもそも幾ら爵位持ちの子だとしても、公爵家や王族と友達ってだけでその子の価値は一気に上がる。

 もし子供が男児なら将来引き抜きや引き上げが期待できるし、女児なら上級貴族から自分の息子の嫁にと欲しがる家も多いだろう。

 アストリア様と知り合いってだけでも驚きなのに、そのうえ聖女様とまで友達なんて……


「さっきから勘違いしているようだけど私は聖女なんかじゃないわよ。聖女は姉様、そしてイリアが王女わたしの友達である事は変えようのない事実よ。わかったら貴女もさっさと消えなさい」

「またったく、ミリィの頑固さにもやれやれですわ」

「う、うるさいわよリコ」


「そ、そんなぁ……」


 その後、自分がどう家へと戻ったのかはよく覚えていない。

 ただ分かっているのは私とイリアとの埋めようのない大きな格差を見せつけられ、動けなくなった私を数人の男性の手によって連れ出された事ぐらい。


 こうして私と母は二度と男爵家に関わることはおろか、何処のパーティーからも招待される事はないのだった。




 後日……

 女の人って怖いんだね。シャロン姉さんも怒ると怖かったけど、結局僕は何もできなかったよ。

 っと、ますます女性嫌いになった一人の男性が居たとか、居なかったとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る