2章14話
ちらりとこちらを見やり、ドーラさんは少し困った顔をしました。あんぐりと大きく開けていた口を閉じ、咳ばらいを一つします。
「えーっと、良かったらお分けしましょうか。猫の分は少なめで大丈夫ですよね」
「猫も一人分として計算してやれよ! ってそうじゃない。そんなトカゲいらねーよ」
「ショウ殿、それも違うのではないか。何が起きたかを聞くのが先決だろう」
何が起きたのかは勿論知りたいところです。しかし翔くんが黒助を一人分の仲間だと認めていることを知れて、それはそれで嬉しくもあります。
「話せば二言三言で終りますけれど聞きますか」
「そこは詳細にきっちりしっかり語りやがれっ」
階下にいたはずの彼が床を突き破って現れたのですから、ここはしっかりと理由を聞きたいところです。
「実はですね……」
ドーラさんは五階層の小部屋で魔法装置を調べていました。いくつかのレバーを同時に動かせば歯車の回転速度に変化のあることは分かったのですが、それ以外の構造は分からなかったらしいのです。
長時間その作業に没頭してお腹の減った彼は、這っているトカゲを捕まえ、火を起こして素焼きにしました。さて食べようと壁に寄りかかった時、壁面に設置されてあったスイッチのどれかを押したらしく、あれよあれよという間に部屋が上昇を始めたと、それが私なりに彼の言い分を短くまとめた話です。
「絶対に負けられない戦いで絶対に負けるようなやつだな」
「面目ありません」
「しかしこの小部屋と装置群がここに現れたのは、最初からそう設計されていたからだと私は推察する。ならばこのパプニングにも何か意味があると思えるのだが」
それもそうですね。さすがにドーラさんが少し弄ったくらいで小部屋が予定外の動きをするとも思えません。コリーさんはとても残念な方ですが、同時に思慮深くもありますね。
「そうだとしても俺達には関係ないけどな。相田さんが倒れないうちに、さっさとここから出るぞ」
翔くんの心遣いにはいつも感謝しています。男の子なのですから、本当はこの謎を解き明かしたくてウズウズしているはずなのに。
「僕も同行させていただいて構いませんか。この装置は理解を超えるものなので、後日ゆっくり調べにこようと思います」
「そんなに面倒くさい装置なのか」
「例えばこのレバーですが、どのレバーとも連動していません。いくら動かしても変化が起こりませんし……あれっ」
ドーラさんが得意気にレバーを弄ると部屋全体が揺れだし、天井が崩壊を始めました。そこからゆっくりと巨大な檻が降りてきます。
「今度は天井かよっ」
「おかしいですね。五階層で弄った時は何も起こらなかったのですが」
ゆうに五メートル四方はあると思われる檻は、床に着くや否やその全方位が開け放たれ、中に伏せていた赤黒い巨大生物がゆっくりと目を開きました。
「あー、やっちまいやがった。あんたが現れた時点で嫌な予感がしてたんだ」
「期待にそえて光栄です」
「二人とも、少しは慌てたほうが良いぞ。奴は普通の魔物とは格が違う」
四肢を伸ばし、長い首をもたげた姿はまさしく恐竜と呼ぶに相応しい風貌です。魔物はこちらを視認するといっそう目を見開き、部屋全体を振動させるほどの嘶きをもって檻から出てきました。
「見るからに強そうだな。【昏き塒で微睡むペンドラゴン】って名前もヤバイ。これだけデカいと縫いぐるみの域を超えてるわ」
そうなのです、見た目は恐竜の縫いぐるみなのです。しかしその迫力はかつて森で襲われたウサギとは桁が違い、一時でも気を抜くのは危険に感じられました。しかもペンドラゴンの動きは緩慢ですがその巨体ゆえに歩幅はとても広いのです。
それを見た私は、いえ翔くんと黒助にコリーさんとドーラさんを加えた四人と一匹は、目の前の強敵からは決して逃れられないと直感で悟っていました。
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