認められない
朔姫が聞き返したのを皮切れに、あかねについて語り始める結祈。
その言葉を耳にしながら、昨日初めて会った彼女思い出す。
変わった名字が印象的だったのは事実だが、それより前に、彼女が男子と仲良さそうに教室に入った時から、その存在を認知していた。
緊張しているのか関心が無いのか、どこか境界線を引いて妙な静寂を保っていた教室。
その空間を壊すように、友人であろう少年と共にやってきた彼女。
少年の方は既に教室にいて、浮き足立ったように出入りが激しかったためして目立っていたが、彼女が来た事が余程嬉しかったのだろう。
一人でいた時とは、、まるで違う溌剌とした声が響いていた。それだけ仲が良いのだろう。
またホームルームにて行われた自己紹介では、まるで他人など関心がないかのように、彼女は名上辺だけの社交辞令の一言だけ言ってあっさりと終わっていた。
しかし続いて行われた少年の紹介の時だけは、楽しそう笑っていた。
教室では一度たりとも言葉を交わしていないはずなのに、どうしてだろうか。
彼女に妙な親近感を抱いていた。
不思議に思いながら、館に帰って再び会った時、その親近感が何を指すのか理解できたのだが。
「悪い子ではないと思う」
自分に笑顔で話し掛けてきた彼女に、悪い印象は無かった。
むしろ折角話し掛けてくれたのに会話は途切れ、ろくに話すことのできなかった自身の不甲斐なさに後悔の念を抱いていたくらいだ。
「だけど――」
新たに仲間になる、友人となる同年の少女としてなら良かった。
あの話を聞くまでは。
「リーデルとして、認められない」
朔姫の結論はそれだった。
現在のオルディネの状況を見かねて、選ばれたのかも知れないが、突然やってきた実力さえ不確かな少女が、自分達の頂点な立つなど、まず考えられることではなかった。
彼女が自分達異能者が尊ぶべき純血の方であっても、それは同様だ。
結果としてジョエル以外の所属している全員が反対したためことなきを得たが、彼女をリーデルに推すジョエルからして見れば、自分達の行いなど、ただの俗事にしか思っていないだろう。
そして誰がなんと言おうといずれは彼女を――桜空あかねをリーデルにするだろう。
少なくとも朔姫には、そんな予感がしていた。
「ジョエルさんが決めた事でも、私は……」
考えはまとまっているものの、断言することができず口を閉ざす朔姫。
「朔姫がそう思うなら、それでいいと思います」
その続きを問い掛ける事も責める事もせずに、結祈は意志を尊重するよう促す。
「私も昨日署名したように、あかね様がリーデルに就く事は反対しています。ですがそれはあくまでリーデルとして。個人としては何ら変わることなく接していこうと決めました」
「個人として…変わらずに?」
朔姫は意図が掴めていない面持ちで、言葉を繰り返す。
「リーデル以前に、あかね様はあかね様です」
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