ええっ!?年上だったの!?




「と、言いますと?」


意図が理解出来てないのか、質問を質問で返されてしまう。


「ほら、あなたと私って年近そうでしょ。敬語は不自然というか」


そこまで言うと、結祈は目を丸くする。


「自分は誰に対しても敬語ですので、これが自然なのですが。あかね様は敬語がお嫌いですか?」

「いや、好き嫌いとかの問題じゃなくて……うーんと」


なかなか言葉が思い付かず、あかねは悩むが、とりあえず例えをあげてみる事にした。


「例えば、その様付けなのとか!簡単に言うと、堅苦しいのが苦手なの」

「堅苦しいのが苦手……ですか」


結祈は言葉を繰り返すと、少し思案して口を開いた。


「分かりました。呼称は善処致します。ですが、その……敬語は」

「あ、敬語はいいよ。元からなんでしょ?」

「はい。ご理解頂けてなによりです」


頷く結祈だったが、途端に不安そうな表情に変化する。


「それで、その…」


今度は結祈が控えめに尋ねてくる。


「あかね様の事を、何と呼べば宜しいのでしょうか?」

「何って、普通にあかねでいいよ」


あかねからしてみれば、普通に言ったはずの言葉だった。

それなのに、誰が見ても明らかな程に、結祈は動揺していた。


「なりません……!仮にも主となられるお方を敬称なしで呼ぶなど!」


結祈の慌てぶりに驚いた所為か、それと同時にとんでもない事を聞いた気がしたはずなのに突っ込む気になれず、あかねは率直に自分の言い分を貫くことにした。


「変なこと言われても困るよ」

「そんな……敬称なしで、呼ばなければいけませんか?」


――ただ堅苦しいだけなんだけどなぁ。

内心で否定しつつも、このままではいつまで経っても平行線のような気がしたあかねは、思ってもない事を口にする。


「駄目ね。名前で呼んでくれないと、すっごい駄目」


跳ね除けるように言い放てば、結祈は暫く沈黙した。

様子を伺うように待っていると、結祈は困ったように、はたまた降参したかのように苦笑に近い笑みを向けた。


「……分かりました。慣れませんが、あかねと呼ばせて頂きます。その代わり、私の事も結祈とお呼びください」

「分かった!よろしくね、結祈!」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します」


納得して満面の笑みを浮かべると、結祈もまた照れたように顔を綻ばせ自然な笑みになる。


「ところで結祈はいくつなの?」

「自分は19です」

「ええっ!?年上だったの!?」


幼い顔立ちとは裏腹に意外な事実を知る。

そして先程まで年上に様付けで呼ばれていたという、何とも言えない後ろめたさに襲われる。


「これは失礼しました。結祈さん」

「か、畏まらないで下さい。自分のことは結祈とお呼びください…!」


複雑な心境のままあかねは黎明館へと続く道を歩いていった。

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