俺以外の前でそう言うなよ

佐倉宅


「うそ!高月さん異動しちゃうの?いつ?」

「具体的にはまだ。話が出てるくらいで」

「やだー。他の人にしてよー」

「難題だな」


とあるマンションの一室のリビングにて。

項垂れるあかねと、夕食を食べながら談笑している青年--佐倉司郎(サクラ シロウ)

彼は幼少の時からの知り合いで古い馴染みである。


「俺になったらどうするの」

「え、なるの?その年で?」

「年は関係ないだろ」

「左遷おめ」

「こらこら」


軽口を叩くあかねの頬をつつく司郎。


「調停部って基本異動ないんじゃないの?」

「普通はね。上の意向らしい」

「なにそれやだー。しろちゃんいいの?」

「良くないさ。個人的にもお世話になってる人だし、何よりうちの部署には必要な人だから。けど、上から言われたら仕方ないだろう。それに南雲さんが掛け合ってるみたいだし、結果待ちだよ今は」


そう言って司郎は手を合わせる。


「ごちそうさま。今日も美味しかったけど、味付け変えた?」

「あ、わかった?今日は少しアレンジしたんだ」

「どこアレンジしたの?」


訊ねる司郎に、あかねは誇らしげな表情を浮かべる。


「秘密。今度食べたときに当ててみて」

「はは。そうするよ。今日の入学説明会はどうだった?」

「んー特に何も。教科書配布とか校舎案内とかだったし。あ、友達できた」

「なら良かった。入学式は僕も行くから。それと」


そう言い掛けて、司郎は有無を言わさぬ威圧的な笑みを浮かべる。

--あ、これはまずいヤツ。


「今日、誰に声かけられたの?」

「なんのこと?」

「惚けても意味ないよ。高月さんに聞かれたとき、間があったろ」


高月に聞かれた時、躱したつもりであったが、幼少からの付き合いだろうか。

司郎を欺くことはできなかったようだ。

あかねは半ば諦め白状する。


「…母さんの知り合いって言ってた。で、私のことも知ってた。多分、異能者」

「特徴は?」

「全身黒づくめ。サングラスもかけてて怪しい感じ」

「黒づくめの怪しいサングラス?」


特徴を答えると、司郎は怪訝な表情を浮かべる。


「その人と話せば話すほど、苛ついた?」

「うん。はっきり言わないからイライラした」

「…なるほど」


司郎は一人でに納得し、溜息をこぼした。


「確かに変質者だな。全く、何を考えているんだあの人」

「しろちゃんも知ってる人?」

「仕事で何度か。彼はチーム所属者だ」

「チーム……それってちょっと常識足りてない異能者集団だっけ」

「間違ってはないけど、俺以外の前でそう言うなよ」


司郎は立ち上がって食器を片付け始める。


「君が今日会った男は恐らく、五指の一人であるジョエルだろう」

「ジョエル……」


導き出された人物の名を呟く。

彼と会った時の奇妙な既視感。

加えて彼の顔を見たときに呟いた言葉。

何を言ってたのか自分でも分からないが、どことなく彼の名前を呟いていたような気がした。


「五指っていうのは、近年の異能者の中で五本指に入る実力者達のこと。人によって認識は異なってたりするけど、その中でもジョエルは、必ずと言っていいほど名前が上がる強者だ」

「……私と同じ?」

「いや。純血ではないよ。俺も会った時そんな気配はしなかったし」

「そう……」


異能者のルーツとして、定説では古代種という種族を祖としている。

彼らは異能者と同様に人離れした能力を有していたが、その能力は現代の異能者と比べることが出来ないほど、優れていたという。

古代種が存在したのは遥か昔ではあるが、その血を今世まで穢すことなく、保っている一族が僅かに存在している。

あかねはその中の一つ、桜空一族の出身である。


「君に声を掛けた目的は分からないけど、何かあったら俺に言うんだよ。と言っても、彼が危害を加えることはないだろうけど」

「わかるの?」

「ヨシ様とは顔馴染みだからね。君に何かあれば黙ってないだろう」


司郎の言葉に、あかねは曖昧な笑みを浮かべる。


「どうかな。私に何かあっても、母さんは気にも留めないんじゃない」

「そんなことはないさ。君は愛されている」

「しろちゃんだってそうだよ」

「君だけにね」


断言する司郎の顔を見れば、嬉しそうに見えつつも、どこか寂しそうに見えた。


「…私だけじゃないよ?」

「分かっているさ。でも俺は…君に愛されていれば、それでいい」


言い終わると同時に、司郎は蛇口を止めて、洗い終わった食器を拭き始める。


「さて、そろそろお風呂に入って来たらどうだい」

「そうだね。明日は何時に出る?」

「んー…11時くらいかな」

「遅くない?」

「君が早く起きれるなら、もう少し早めでもいいよ」

「無理。11時で」

「……正直、11時も怪しいと思うけど」

「ちゃんと起きるし」


あかねは頬を膨らませると、洗面所へと向かって行く。その姿を見送る司郎。


「…あれはまた起こすパターンだな」

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