良い仲間になれるさ

某所


扉を開け、現れた空間。

日差しが厚いカーテンにより遮られ、部屋の明りは限られている所為か廊下よりも暗く夜の闇を思わせる。

そんな中でも目が行くのは、左右両端に存在する本棚であり、貴重なものから、どうでもいいものなど様々な種類の本が棚に並べられている。

また床には多数の書類が散らばっており、部屋の主は足場すら、考えていないのではと思わせるほどだった。


「やぁ、こんにちは」


そんな部屋の中心にて、机に腰掛けて軽やかに手を振り自分達を迎える青年の姿があった。


「やぁ、待っていたよ」

「…アーネストさん」


アーネストと呼ばれた青年――――アーネスト・ウィンコットは、読んでいた本を片手で閉じて立ち上がる。

右目に僅かに掛かる栗毛色の髪が揺れる。


「久しぶりだね、朔姫ちゃん」

「五日ほど前に会ったばかりです」

「おや、そうだったかな?」


無表情で淡々と話す朔姫と、笑みを浮かべたままのアーネスト。

二人が会話をしているとは思えないほど、温度差がある。


「ジョエルさんはどこですか?」

「彼なら出掛けて行ったよ」

「だからって何でアンタがここにいんのよ。不法侵入じゃない」


アーネストがいた事が気に食わなかったのか、苛立ちを隠さずに辛辣な態度を示すギネヴィア。

ジョエルの知り合いで、かつ見知った相手で出入り許可をされているから、不法侵入ではない。と思いながらも、事の成り行きに身を任せる朔姫。


「不法侵入とは酷い言われようだ。ジョエルに許可は取ってあるから、ここにいていいはずだけれど。それにしても、あまり拒絶ばかりされると逆に期待してしまうよ」

「ハァ!?」


今にも逆上しそうなギネヴィアの勢いに、おどけながら両手を前に出すアーネスト。


「おっと冗談だよ。私がここにいる理由はある。彼に頼まれていた依頼の報告さ」

「依頼ってなーに?」


今まで口を挟まなかった陸人が、口を開く。

依頼の内容が気になるのかと思うのと同時に、朔姫は不思議にも思った。

ジョエルは異能者達の中でも、人脈も幅広く力もある。

なのに一介の……しかも無所属の目の前にいるこの男に、依頼をするのだろうか。

依頼内容も気にならないわけではないが、朔姫にとっては、何故アーネストに依頼するのかが気になっていた。

そんな彼女の思惑を余所に、アーネストは変わらない笑みを浮かべている。


「陸人は知りたがりだね。けれど今回は個人情報でもあるし、あまり詳しく言えないかな」

「えー。一つくらい教えてよ」

「一つか……じゃあ、新しくこのチームに入ってくる女の子の事とか、ね」


陸人は口元に笑みを浮かべる。


「へぇ?アーネストも知ってたんだ」

「一応ね」

「どういう子か分かりますか?私と同い年と話を聞いたので、少し気になって」


自身が知るのはギネヴィアから聞いた情報だけで、情報が少ない。

所属だけなら新しい仲間と言う程度の認識で済むが、同年の少女となれば普段から平静を忘れない朔姫とて気になってくるものである。

そんな彼女の心情を察したかのように、アーネストは自分の知る情報を話し始める。


「直接見たわけではないけれど、とても可愛らしい子だと思うよ。それとジョエル曰く、素直な子だとか」

「そうですか……」

「だから心配ないよ。良い仲間になれるさ」

「そう言って頂けて少し安心です。ありがとうございます」



過去の経験の所為か、朔姫は同年の少年少女が正直苦手であった。

けれどいつ来るか分からない、ましてやまだ会ってもいない人を勝手に決めつけるのは時期尚早とも言える。

もしかしたら、新しく仲間になる同年の異能者に淡い期待を込めてもいいのかも知れない。

そう思えば、朔姫の心は幾分か軽くなる。


「さて。話に区切りがついたところで、外出中のジョエルから伝言があるんだけど」

「伝言?」


聞き返せば、アーネストは笑顔で頷く。


「――私が留守の間、暇そうなら書類の整理なり作成なり、何でも押し付けてやれ――ってね」

「随分勝手ねぇ」

「勝手どころか、自分の仕事を押し付ける自己中心最低野郎じゃんそれ」

「……私ですら気が重い」


伝言を伝えた途端、三人はそれぞれ思うままに率直な感想を述べた。

その様子が可笑しかったのか、アーネストは腹を抱えて笑った。


「くくっ……あははははっ!ここまで率直な意見が聞けるなんて、思わなかったよ。確かに君達の気持ちは分かるけどね」


どこまでも自分主義な旧友だとアーネストは密かに思う。

そしてそれが彼らしいと。


「それで、ジョエルさんはどこに出掛けたんですか?」

「さて、場所までは聞いていないけれど……確か、例の女の子に会うと言っていたかな」


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