では渡しておきますね


調停局 調停部



「お疲れ様でーす」

「お疲れ……ああ、いらっしゃい。あかねちゃん」


笑顔で出迎えた人物は、調停局調停部職員の高月(タカツキ)であった。


「こんにちは。高月さん。これ良かったら」


顔馴染みである彼に、あかねは買ってきた差し入れを手渡す。


「いつもありがとう。佐倉なら、もうすぐ来ると思うから。適当に座ってて」

「お邪魔します」


近くにあった椅子に腰かける。

調停部は元々人の少ない部署であるが、辺りを見渡しても、高月以外の局員の姿は見当たらなかった。


「もしかして今日、忙しい感じですか?」

「そうでもないよ。今日は巡回日だから出払ってるだけで。あかねちゃんこそ入学説明会だって聞いたけど、楽しかった?」

「はい。友達もできて、さっきまで話してました。なんかお姉さんがここに勤めてるみたいで」

「へぇ。その子の名前は?」

「香住昶くん」

「香住?聞いたことあるな…」

「ただいま戻りました」


聞き慣れた穏やかな声に振り返れば、スーツ姿の青年が立っていた。


「おかえり」

「おかえりなさい。佐倉さん」


高月に続いて声をかければ、佐倉は途端に目を丸くした。


「もう終わってたんですね。連絡くれれば、すぐ迎えに行ったのに」

「高月さーん、ここに堂々と仕事さぼる宣言してる方がいます」

「いけないね。部長に報告しようか」

「賛成でーす」

「やめてください」


苦笑する佐倉に対し、あかねと高月は笑みをこぼす。


「はは。冗談はともかく、最近この辺りも物騒だからね。変な人に声かけられなかった?」


高月の問いかけに、先ほど遭遇した男が脳裏に過るが、搔き消すように首を振る。


「…大丈夫でしたよ」

「それならよかった。あかねちゃんなら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」

「ありがとございます」


返事をして、あかねは佐倉へ向き直る。


「今日は何時に終わります?」

「6時頃には…多分ですけど。僕のやることは、報告書くらいなので。どうしますか?」

「んーじゃあ先に」

「なら渡しておきますね」


佐倉は慣れた手つき鍵を渡す。


「ん。リクエストあったりします?」

「好きなもので。あ、それかあるものでも」

「了解でーす」


鍵を受け取ると、あかねは荷物を持って立ち上がる。


「じゃあ帰りますね。お仕事頑張ってください」

「また来てね」


手を振る高月に一礼した後、あかねは調停部を後にした。

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