第189話 違い

 シアンの笑顔を見て、内心 安堵あんどしていたバーントは、


(改めて、出会った時からの事を思い出すと、

ソーマが魔族だろうと、いや、だからこそ 守らないと。)


 その思いが強くなり、

ソーマとの約束を守ろうと、改めて誓っていた。



 その一方で、


(それにしても、ソーマは……

時々、驚くような行動を見せるんだよな……

身の危険を考えないような……)


 今までのことを語る内に、

そんなことも バーントは考えていたのであった。





 バーントがシアンに、

ソーマとの出会いを語り始めていた頃――


  ソーマとアルテナの待つ家へと帰る途中の、

ミザリー、ジョン、マルゼダ、ヴィラックの四人は

並んで歩いており、


「ジョン様。」


 ミザリーが、隣を歩くジョンに小声で話しかけていた。



「ソーマ様って、その……」


 ジョンにだけ聞こえるよう話すミザリーに、


「彼が何者だとしても、ボク達と『同じ』だろう? 」


 同じようにジョンも、

共に歩くマルゼダやヴィラックに聞こえないように、

小声で返していた。


「……そうですね。私達と『同じ』ですね。」


 ちょっと時間が かかったものの、

意図を理解したミザリーは口元に笑みを浮かべていた。


(私が黒魔導教団の人間であることを明かしていない ように、

ソーマ様が魔族であろうと、どこから来ようとも同じ事……)


 内心を悟られないように、

ミザリーは一歩後ろから ジョンの後をついて歩いていた。





 バーントとシアンが別行動を始めた時、


(ソーマ君ではなく バーントと話を……か。)


 ジョンは、シアンが何について話そうとしているのか、

なんとなく察しがついていた。


(まぁ、無理も ないか……)


 ジョン自身も、フローマ達にりつかれたソーマを見た時、

魔物以上の脅威を、理屈抜きで感じていた。


 まるで肌が凍りつき、

心臓を手で握られているような恐怖を感じながら、

 それでもジョンが、

他の者たちに比べて平静を保っていられるのは、


(ボク達も、もはや 魔族と呼ばれる側になってしまった。)


 そう思ったからであった。



 ミザリーがソーマの事で話しかけてきた時、


「彼が何者だとしても、ボク達と『同じ』だろう? 」


 と、ジョンは言い返したのには――


 左目が赤くなったジョン。


 耳の形が長く尖った形に変わったミザリー。


 黒い魔力を体から放出できるヴィラック。


(他の者たちから見れば、ボク達も、ソーマ君と『同じ』だから。)


 であった。



 返事に満足したミザリーが一歩遅れて歩くのを、

ジョンは目で追い、視線を前を向け直して歩き続けているが、


 かつて、パプル家の屋敷の敷地内で、

衛兵士のシェンナがソーマを殺そうとした時の、


 ――あの黒い煙に巻き込まれたこいつらは 魔族になったっ!!


 その声が、思い起こされていた。



 また ジョンは、ソーマとアルテナの待つ家へと帰る途中、


(ヤギの魔物を相手にしていた時、ボクもミザリーも……)


 今まで使えなかったちから

使えるようになっていたことについて考えていた。



 技術も知恵もない。ただ、肉体の持つちからで もって、

ヤギの魔物を殺したジョン。


 今まで通用しなかった矢に魔力をまとわせ、

深い傷を負わせたミザリー。


(ヴィラックは今 どうなっているのか わからないが……)


 ソーマははちの魔物に寄生された男を正気に戻し、

今回、フローマ達にりつかれ、復讐を遂げさせた。


 剣や槍などの攻撃は素通りし、

けれども、彼らを掴んで拘束するほどのちからを見せたことを、

ジョンはアルテナから聞いていた。


(幽霊という存在を、ボクは初めて見た……)


 幽霊を信じていないわけではないが、

今までジョンは見たこともなく、


(まるで魔力や魔法のようじゃないか……)


 ふと、そんなことを考えていた。





 ジョンやミザリー、ヴィラックと一緒に歩きながら、

マルゼダは、浮かない表情をして、


(ソーマやジョン達は魔族なんだろうがな……)


 ちらりと 三人の様子に視線を走らせた。



 ――あの黒い煙に巻き込まれたこいつらは 魔族になったっ!!


 ――人を魔族に変えてしまうような存在は生かしてはおけないっ!!


 パプル家の屋敷の敷地内で、

ソーマを殺そうとした衛兵士のシェンナの言葉を思い出し、


(あの時、おれもディールたちも、あの黒い煙を吸ったはずだ……)


 剣で刺されたソーマの体から黒い魔力が噴き出た時、

屋敷の外へ逃げながらも黒い煙を吸ってしまったこと、

その場に居続けていたジョン達に 外見に変化が出たことを思い出し、


(もしかして、気が付いていないだけで、

オレも どこか変わってしまってるんじゃないのか? )


 その不安で、青白い顔色に たらりと冷や汗がつたい落ちていた。

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