第176話 彼女は思う
ソーマがミザリーを連れて家を出た後で――
ロスティは一人、ソーマ達が借りている家の中で、
彼らが帰ってくるのを物
(どうして彼は……)
居間の
家を出て行く前のソーマの様子を思い返し、
ロスティは何回目かの ため息を吐いた。
「私、どうしてこんなに気にしてるんだろう……」
そう呟きながらも背をのばし 姿勢を正し、
「ちゃんと……みんなで帰ってきますように……」
ロスティは、ソーマ達の無事を祈った。
強引に家を出たソーマの 覚悟を決めたような、
追い詰められたかのような態度から、
ロスティは
ソーマ達がバルトや ラルレとピアを連れて、
ヨートルも含めて全員で家に帰ってくるのは、
それからしばらく経った後のことであった。
*
ソーマ達が村を抜け出した
ヤギの群れと、その主である
それらは その夜の内にカラパスの村中へ伝わった。
翌朝、空に白みが混じり始めた頃に、
「ここが外の奴らが言っていた……」
「うぉぉ……血の匂いが酷いな……」
「早く血の匂いを消さないと、
匂いに釣られた獣とかが
村の者達が その
村に危険が迫っていたことを改めて知った。
村人たちは もしもを思い 恐怖をし、
また解決した希望に喜び合っていた。
大量のヤギの肉や毛皮、骨や角を手に入れられ、
しばらくは狩りへ出掛けずに済むようになったことも、
村の者達の喜ぶ原因の一つと なっていた。
ただし――
「あの何人かで群れを一匹残らず
「この土、どうやれば こうなるんだ? 」
「あの夜の光も凄かったよな……」
ヤギの群れ達の死の様子と、
「村に近い これが魔物の主か……」
「確実に、とは 思うんだが……」
「ヨートルが言うには、黒髪と 二人の仲間が
「あの小さいのが、なぁ……」
原型を留めていない魔物の死体とを見た村の者達は、
ソーマ達への恐れを、少なからず抱く結果となっていた。
あれから――
「どうして家を抜け出したんだ!! 」
「村のみんなが探しているんだから、
あれほど家でおとなしくしているように言ったのに!! 」
「よりによって魔物の群れが来ている時だなんて!! 」
「外の人達がいなかったらどうなっていたことかっ!! 」
バルトを探しに 二人で村を抜け出したラルレとピアは、
二人それぞれの両親からキツく
村の近辺でなら、村から抜け出すことを叱らず、
黙認していた二人の家族だったのだが、
今回の場合、命の危険に
二人とも それを理解しているし、
ソーマが死にかけた場面も、ジョン達の戦闘も見ている二人は、
自分たちが無事であることに安堵しながら、
それぞれの両親からの叱りの言葉を聞いていた。
バルトの場合は もっと酷く叱られることになった。
村中を騒がせたこと、ヤギの魔物と群れを呼び込んだこと、
ソーマに対しての無礼を謝ることができていなかったこと、
それらを知っているバルトの両親の怒りは、
それを見ていたアルテナ達とヨートルが止めに入るほどであった。
村に迷惑をかけ、村に危険を招き、
その迷惑も危険もなくなったとはいえ、
他の村人たちから どんな反応が来るか わからないのである。
カラパスの村の中だけで(村人全員で)生活をしているので、
仲間外れにされれば生きていけなくなる。
そういう不安と恐怖があるからこそ、
バルトの両親の怒りは凄かったのであった。
そのバルトの両親の怒りを目の当たりし、
狩りを
村に魔物の危険を招いたことに対し、自責の念に駆られていた。
バルトの事情を聴いていたにせよ、
出会った時に追い返さず、狩りに連れて行った責任があった。
バルトの両親の怒りが ひとまず治まった後、
「もし、村の中で何かあれば、必ず
ヨートルは二人へ助力を申し出ていた。
そして、
(
それも良いだろう……)
今回のことがあって、ヨートルの考えも変わった。
(何をするにしても、あいつに狩りを教えておいたほうが良いかもしれん。)
バルトが、また何かあれば 村を抜け出す可能性が高いことは、
人付き合いの少ないヨートルでも よくわかったからだった。
(それにしても……)
家に一人で住んでいるヨートルは、
(どうして あの家に……)
ソーマ達が借りている家に居たロスティを、
(……、……、……)
ロスティの、ソーマを心配する様子を思い出して、胸が痛んだ。
その痛みを振り払うようにして、焼いたヤギの肉を噛みちぎり、
肉の臭みや苦みを感じて 顔をしかめながらも、
今度は 今回の魔物のことを思い返しているヨートルは、
もしバルトがいなかったら、もしソーマ達がいなかったらを考えた。
狩りに自信のあるヨートルは、
(おれだけなら、矢を射掛けてたかもしれない……)
ヤギの群れを見て、バルトがいなかった時を そう考え、
(あの黒髪たちがいなかったら……考えたくもない……)
どうなるかが簡単に思い浮かび、肝が冷える思いでいた。
*
(結果として、ソーマの行動が正しかったのよね……)
アルテナは、居間で寝かされているソーマの寝顔を見て、
果実酒の入った
アルテナ達の借りている家の居間には、全員が揃っていた。
シアンはソーマの右側で添い寝をし、
ソーマの左側ではミザリーが床に座り込んでいた。
ソーマの左側の壁にヴィラックが もたれながら立っており、
シアンの後方では バーントが
ジョンとマルゼダは、アルテナと同じ
ヴィラックは別として、マルゼダも他の者も、
死にかけたソーマが心配だったからだ。
ソーマの寝場所が寝室から居間に戻ったのも、
本人を除いて、全員が その提案に賛同したからだった。
ヤギの魔物を討伐した後、
ジョンにお姫様抱っこされながら眠って以降、
ソーマの睡眠時間が、かなり長くなった。
診察した村の医師の見立て では、
「精神面での負担が大きかったのに、今回の事で、
肉体的にも、かなりの負担が かかったのだろう。」
ということだし、魔物の角で壊れた胸鎧を見て、
「骨が砕けて内臓が破裂していても おかしくない……」
医師も、それを見た時には 顔を青ざめさせていた。
酷く押し潰され歪んだ鎧を見て、
アルテナも他の者たちも同意見だし、
ミザリーの証言で、ソーマは血を吐いたことも知っていた。
「なのに なぜ、彼は こうも無事なのだろうか……? 」
正常に呼吸し眠っているソーマを見て、
医師は無事を喜びながらも首を傾げていた。
一日の睡眠時間が長くなった他は目立つ変化もなく、
ソーマに関しては見守り続けるしか、手は なかった。
シアンとミザリーが親身にソーマの世話をするため、
アルテナ達は それを任せて様子を見守っていた。
(死にかけるのは、これで二度目なのよね……)
アルテナは、ソーマが剣で胸を刺され、
死にかけたけれども傷跡もなく今に至ることを思い出した。
ジョンの目の色が変わり、ミザリーの耳の形が変わり、
ヴィラックが体から黒い魔力を噴き出すようになった。
けれど ソーマには変化が見られず、
だけれど 彼への疑念が周囲の者たちに浮かんだが――
(例え魔族であったとしても、
彼が彼のままなら それで
アルテナは果実酒をゴクリと飲みこんで、
穏やかに眠るソーマの顔を見つめていた。
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