第167話 子供を探しに
シアンさんに優しく抱きしめてもらって、
時間が経つたびに自分の心も、だいぶ落ち着いてきていた。
アルテナ達も心配して様子を見に来てくれるし、
ロスティさんもずっと この家にいるらしく、
寝室の外でアルテナ達と何かを話している声が聞こえることがあった。
何を話しているかまでは聞き取れなかったけどね。
右手に手の感触を感じながら、
ベッドサイドにいるミザリーさんを見上げた。
ミザリーさんは おれの手を握り返し、
口元に優しく笑みを浮かべていた。
彼女の耳は長く
このエルフ耳も もう見慣れたものだった。
むしろ、以前の耳の形がどうだったか が、
もう思い出せないんだけどね。
「そういえば、村に来てからずっと家に居てもらってるね。」
「えぇ、でも私は……」
ミザリーさんは自分の変わってしまった耳が気になるみたいで、
「おれは好きだよ。エルフ耳。」
「え、エルフ……? 」
顔を赤くしながらも、彼女は おれの言葉に首を傾げていた。
そんな かわいらしいミザリーさんを見上げながら、
木窓の外で夜になろうとしている空模様を見て、
「暗くなってから、一緒に外を歩いてみない? 」
おれは
「えっ……」
「ジョンが夜中に散歩をしているみたいだしさ、
この村の中でしょ……明るい内は どうもね……」
「で、ですが……」
「まぁ何があるかわからないから、
他に誰かについてもらって、
でも、みんなに内緒で 二人っきりなのも良いかもね。」
自分でも心持ち にこやかに言ってみると、
ミザリーさんの握り返す手の力が強くなったのがわかった。
*
ソーマ達の借りている家に、
バルトの父が駆け込んできたのは、
空に赤みと薄暗さが増し始めた頃であった。
居間へ通して早々に、
「うちのバルトが来ていませんか!? 」
心配と不安に彩られた父親の顔を見、声を聴いて、
(また あの子供か……)
そんな感情を抱きながらも応対しているアルテナは、
「来てないけど、また村の外へ出たの? 」
わずかばかりに
「また? 」
「森で毛虫の魔物に――」
「あぁ……」
バーントやジョンは シアンの言葉で、誰のことか理解できた。
もし、バルトがソーマに毒を
ソーマに感謝の言葉も告げずに逃げたと 二人が知れば、
二人の反応も また違ったものになっていたであろう。
バーントとジョンの二人は、
魔物の毒でバルトが激しい痛みと
ソーマがアルテナやシアンに大量の水を用意させ、
その痛みと痒みを緩和させたことは聞き知っていた。
けれども、バルトが二度もソーマに背を向けたことは知らず、
ソーマが村の中で黒髪を見られたことも知らされていなかった。
アルテナもシアンも ソーマのことを想えば、
言うのをためらわれ、家に居続けていたミザリーにだけは話していた。
ロスティに歓迎の宣言をされた場面を見ていたマルゼダも
進んで話すこともせず、ソーマ自身も話したがらなかったのである。
「あれ? ロスティ様? 」
バルトの父親は 居合わせたロスティを見て軽く驚いていたが、
「村の中では今、手分けをして捜索しているのですか? 」
「は、はい……村の中を探してもらっているけど、
どうやら また外に出たらしく……」
バルトの父はロスティに聞かれ、
悔しさと情けなさで表情を変えながら、
バルトがいなくなったことに気づいた経緯を説明した。
普段通りに、幼馴染であり同年代の友達である子供たちのところへ
遊びに出かけたと思い込んでいたが、いつまで経っても家へ帰ってこないため、
子供たちの家へ行くと、バルトは来ていないと返事をされた。
今日は大人たち数人が狩りに出かけている日で
村の中にいる大人たちで探してもらっているが、
未だに姿を見つけることができていない。
まさかと思い、この家へと駆けこんできたわけだが――
「バルトの友達のラルレ君が、
村の北にある山に咲く『花』を採りに行ったかもと言うんだ。」
肩を落としうつむいたまま、
バルトの父は続けて それを言った。
「花を? 」
マルゼダは疑問を抱いたが、
「髪の黒い あの人に謝るために……」
「ほぉ……」
その答えを聞いて、軽く目を見開いていた。
「北の山へは誰が狩りに出かけているのです? 」
「北の山の方へは、ヨートルが狩りに行っているはず……」
続けてのロスティの問いに父親は答え、
「彼は単独で狩りをしているから、もしバルトを見つけても……
狩りを諦めるのか、それとも連れて狩りをしているのか、
そもそも まだバルトと出会ってないかもしれないんだ……」
バルトの父親はアレコレ考えながら、
不安に心を
「じゃあ、北の山の方へ探しに行けば良いのね。」
だが、それを聞き、アルテナは事も無げに言った。
「あの髪の青い子供に、家でおとなしくしてるように
「……」
「それと、花を採りに行くより、さっさとソーマに謝るように言わないとね。」
そういうと、父親は嬉しさと申し訳なさから頭を下げ、
アルテナ達は武器の手入れをし、鎧を着込みだした。
バルトの父が家を出た後、
「ソーマ君とミザリーはどうするんだい? 」
「この家に置いていきましょう。
あんなことが遭って、夜に連れ出すこともないでしょ。
ミザリーも一緒に残るんだし。」
ジョンの問いにアルテナは そう答えた。
しかしアルテナも ジョンもみんなも、
ソーマとミザリーが夜の散歩の話をしていたことを知らずにいた。
「あなたはどうするんですか? 」
「私は……もうしばらく、この家に居てもいいですか? 」
シアンは まだ居残っていたロスティに尋ね、
ロスティはシアンとアルテナとに視線を向けていた。
「……」
シアンは無言でアルテナに視線を向け、
「ん……いいけど、帰らなくていいの? 」
「独り暮らしですから……」
「ふぅん……ソーマは まだ寝てるかもしれないし、
ミザリーが出てくるまで、そっとしておいてね。」
「はい。」
アルテナはロスティと話をすると、
ロスティに後を任せ、バルトを探しに家を後にした。
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