第163話 蘇る悪夢

 みんなの看病のおかげで体の調子が戻って、

これからどうしようか なんて、色々と不安に思っていたら、

ロスティさんに村の案内をしてもらうことになった。


 最初、初めて姿を見かけた時より、

『あの時』よりも、彼女は親しく村の中を案内してくれた。


 案内されている時に会った村人たちの中には、

ロスティさんと同じくらいに優しくしてくれる人と、

露骨にではないけど、嫌ってる素振りを見せる人がいた。


 まぁ、そういう人がいるのは、

もう わかりきってるんだけどね……


 それに このカラパスの村は そもそも、

おれみたいな余所者よそものが入ってくるのを避けているんだから……



 ロスティさんの村の案内は、

村のあちらこちらから墓地へ、墓地から教会へと続いていた。


 墓地には 盛り上がった土を石で包んだような墓が並び、


「私が産まれた時に、ママは亡くなったらしいの。

パパも、それより昔に流行りやまいで死んだらしいし。」


 と ある墓の前に立ったロスティさんは、


「でも、私と同じ境遇の人、この村では珍しくないのよ。」


 そう言いながらも少し寂しそうな笑顔をしていて、

次に訪れた教会では、


「私、いつもここで お祈りしているの。」


 パルステル教っていう宗教を信じている彼女は、

建物内部にある三体の石像に向かって お祈りをしていた。


 パルステル教の お祈りでは、

左手の平はパーに、右手はボールを掴むような感じで、

Pの字を作るような作法をしていたのが おれには珍しかった。


 そういえば教会の、礼拝堂? っていうんだっけ?

元の世界にも、外国に教会や礼拝堂があって、

なんだろう……こういうものって似通にかよるものなんだろうか?


 まぁ、剣とか鎧とか家とか、色々似てる物がいっぱいあるんだし、

元の世界と比べて明確に違う物があることだけ わかってればいいか……


 魔物とか魔法とか、あと すっごい高い柱みたいな山とか、

それから この世界の人って、目とか髪の色とかカラフルなんだよね。

赤とか青とか黄色に茶色とか紫とか色々。


 緑色の髪の人と黒色の髪の人が、

おれの他に いないくらいで……



 薄い水色の髪のロスティさんから、視線を石像に向けた。


 ロスティさんが祈りを捧げている石像は、

真ん中にフードで顔を隠した人が両手を広げて、

その人から一体分こちらの位置で向かい合う男女の像があった。


 一神教? 多神教かな?

この世界での宗教の話って、少し好奇心が刺激されるね。


 神話とか、創作では よく起用されているし、小説とか……


 あぁ……小説とか本が読みたいなぁ……

……ゲームとかもしたいし、漫画とかアニメとか見たいなぁ……


 この世界の文字って、何かごちゃごちゃした文字で

本とか読んでも、何を書いてるのか読めないんだよね……



 でも、神様かぁ……本当にいるの?

魔物とか魔法はあるけどさ。魔族とか――



 ――


 石壁の部屋、集まる人影、声にならない悲鳴。


 痛み、吐き気、こみ上げる嫌悪感。


 体中に虫がいずりまわるような気持ちの悪さと、

無数の腕に引っ張られて 体が引きちぎられそうな恐怖――


 ――



「ソーマっ!? どうしたのっ!? 」


 ふらつき、崩れ落ちそうだった体をアルテナが抱きかかえ、

心配そうに見つめている。


 今すぐ吐きそうな気分で おれは口を手でおおったまま、

おれは なぜ今この場で それを感じ、

この前見た夢を思い出したのかが不思議だった。



 それに――



 炎が上がる森の中で、『母さん』と自分へと振り上げられた殺意――


 薄暗い廃屋の中で、自分に向かって伸びる男達の悪意――


 魔物の被害に遭い、行き場のない思い怒りをぶつけてくる人々の目――


 勝手に好きになって、勝手に殺そうとしたシェンナさんの言葉想い――


 ―― それらもが ムリヤリ思い出させられて、

頭の中と胸の中がズキズキと酷く痛くて泣きそうだった。





 ロスティにソーマと共に案内されていたアルテナは、

ソーマに対して敵意を向ける心無い者達への反感と、

親しみを向ける者達への感謝の気持ちを感じながら、

ソーマの様子を逐一ちくいち気にかけていた。


 村のあちらこちらで、寄合所で、墓場で、

ソーマの、ソーマに対しての反応を見続けていたアルテナは、

教会に来てからのソーマの異変に驚いていた。


 アルテナに抱きかかえられているソーマは、

顔色が蒼白になり、片手で口元を覆い、

もう片方の手で胸元を押さえ、体は小刻みに震えていた。


「な、なんともないよ……」

「こんな状態で何言ってるのよ!? 」


 強がるソーマに対し 心配しているアルテナは言葉を返し、


「ま、まさか、まだ体調が良くなかったのでは……? 」


 ソーマの急変に、ロスティも慌てていた。



 ソーマの体調が良くなっていっていたのは、

順繰じゅんぐりに看病を担当していたアルテナが わかっていた。


 自力で立ち続けることもできずに抱きかかえられ、

吐き気があるのか 口元を押さえているソーマの様子を、

 ソーマの顔を、髪色と同じ黒い目を、


(また、あのくらい目をしている……)


 かつて、たびたび目にしたことがある、

ソーマの昏い目を、アルテナは見つめていた。



「ど、どうなされた!? 」

「あ、教祖様……」


 礼拝堂へとやってきた教祖――村長は、

彼らを見て異常事態に気づき、

ソーマを村の医師のところへと運び込むこととなった。


 ソーマは立つこともできず、動けないため、

アルテナに横抱きに抱え上げられ、

医師の家へと駆ける時には、村の者達への注目も浴びていた。


 この事をシアン達が知るのは、

ソーマが運び込まれてから二、三時間ほど経った後からであった。

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