第159話 潜む悪意
カラパスの村の とある家屋の中で、
「おい、お前は見たか? 」
「ああ。」
「おれは見てないが、本当なのかよ……」
村を囲う木の
「本当に黒髪がいて……」
「ロスティ様が、まさかなぁ……」
「うぅむ……」
村の寄合所の一角でヒソヒソと、
「良い女になったよなぁ。」
「ああ……」
「村長が……って、そうだなぁ……」
年頃が下は二十から 上は四十の五、六までの、
年齢も髪の色も様々な男達が、
「あの黒髪、気に入らないな。」
「……」
ソーマとロスティに関しての話題をしていた。
毛虫の魔物の毒で苦しんでいた
その毒を
あの場面を見て、ソーマに対し同情的な村人も居れば、
そうでない者達がいるのも当たり前であった。
*
日の光が入らない石壁の部屋の、
壁に接置されたロウソクの灯かりだけが頼りの室内で、
数人の黒い人影が、おれの目には見えていた。
大人の人影たちは部屋の中心に集まって、
集まりすぎて一つの塊のようなものになり、
彼らが中心で何をしているのか、おれには わからなかった。
ただ、跳ねるような水音と、くぐもった女性の声が聞こえて、
なんとなく、部屋の中で行なわれていることに おれは察しがついた。
おれは――
――
「――っ!? 」
見た事のある天井と、
心配そうに顔を覗きこむ バーントさんの顔、
夜になっているからか、すでに暗い部屋の中、
「ソーマ……うなされていたぞ……」
バーントさんの声を聞いて、
おれは先ほどまで、夢を見ていたことを知った。
「……嫌な夢を……」
「そうか……」
体調を崩すと気持ちも落ち込んでくるし、
悪夢も見やすくなっているんじゃないだろうか。
この世界に来てから、夜は ぐっすりと眠ってしまって、
夢を見ないことの方が多いんだけど、
夢を見る時は、あまり良い夢を見ないんだよね……
うなされていたらしいし、全身に じっとりと汗をかいてる。
風呂、入りたいなぁ……
温泉とか、足をのばして じっくりと浸かりたい……
風呂がないんだよね、この世界は。
「汗でビショビショ……」
「背中、拭こうか? 」
ベッドサイドの椅子に座ってるバーントさんが
そう提案して、おれは のっそりと上体を起こした。
うー……しんどい……
水をぶっかけられた時は、
こんなに体調を崩すことになるとは思わなかったんだよなぁ。
本来なら ジョンが使っていたはずのベッドで、
かすかな灯りを頼りに上着を脱ぎながら、
「……バーントさんは、寝ないの? 」
おれの看病をしていたであろうバーントさんに尋ねてみた。
いつから おれがうなされていたのか知らないけど、
じっとこちらを見ていた気がするから……
「もうしばらくしたら、ミザリーと交代するから。」
その時に寝る と、バーントさんは言っていた。
水に濡れたタオルは結構 冷たかったし、
背中を拭くバーントさんは
でも、こういうことをしてくれる その気持ちは凄い嬉しかった。
「ソーマ。」
汗を拭いて新しい服に着替えて横になると、
「今でも、村の中で嫌な感じはするのか? 」
それをバーントさんは聞いてきた。
嫌な感じと聞いて、
おれは さっき見た夢を思い出して、
「うん……」
と だけ、答えた。
先ほど見た悪夢が、本当に村の中での嫌な感じと結びつくかは、
おれにも正直わからないけれど……
*
バーントは穏やかになったソーマの寝顔を見て考えていた。
(この村の、どこに……? )
ソーマやヴィラックが嫌な感じを覚えたのかを。
バーント自身は、
(
と、カラパスの村については そう考えていて、また、
(ジョンも、同じように何も感じてはいなかった。)
そのことを思い返していた。
昨夜もジョンは散歩に出かけており、
その時にも、ジョンが何かを感じ取ったことはなかった。
(もしかして、またミミズの魔物が潜んでいるのか? )
唐突に、バーントの頭の中で、その発想が生まれた。
ジョンたちが住んでいたノースァーマの街は、
街の地下に大量に潜んでいた
南側の区画を除いた、他 全ての区画が地中へと沈んだ。
(そもそも、魔物が潜んでいるかどうかなんてわからないし、
この村のどこに地下へ行く場所がある? 地下蔵はあるかもしれないが。)
そこでバーントは考えるのを辞め、
「……おれが……」
ソーマの寝顔に何かを言いかけて、その言葉を飲み込んでいた。
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