第149話 明日へ夜中

 カラパスの村の外からアルテナ達が帰ってきて、


「今のところ、周辺に魔物がいるような感じはしないわね。」


 という報告をしてくれた。


 元々この世界の魔物って、

ゲームとか別の世界みたいに そこらじゅうにいるわけじゃなくて、

犬とか虫とか、普通の母体母親から生まれた子供の中に、

魔力の影響を強く受けて、毛とか皮膚とかが緑色になった生物を

この世界の人達は『魔物』って呼んでいるんだよね。


 バッタとかカメムシとか、元から緑色の生物の場合は

どうなのかはわからないし、おれの目で確認したわけじゃないんだけど、

生き物たちの中でも『魔物』って敵になるらしいのか、

魔物が小さいうちに他の生き物が襲うことがあるらしい。

 魔物そのものも、気性が荒くて攻撃的らしいんだけどね……


 今まで見てきた魔物だって、

そんな環境の中で生き抜いてきたんだから、

その強さを考えると、おれは驚かされる思いになってしまう。



 ……そんな魔物たちが、どういうわけかわからないけど、

全身が黒く、ファンタジーに出てきそうな魔物に変わる。


 グリフォンみたいだったりケルベロスみたいだったり……


 黒い魔力に影響されて、らしいんだけど、

おれには よく理解してわかってないんだけどね……



 アルテナ達が この家に帰ってくるまでの間、

ちょっと村の中を散策してみようかとも思ったんだけど、

自分一人だけとか、ミザリーさんやヴィラックを連れてとか、

それもなんだか嫌な予感がしそうだったので、

ずっと借りた家の中でゴロゴロしていた。


 ミザリーさんとヴィラックと一緒に床をゴロゴロと。

退屈だけど、何もしなくていいのは楽だよねぇ……



 あ、そういえば、

ミザリーさんがちょっと どこかに行ってた間――



「ねぇ お姫様ー。」


 行儀悪く一緒に床に寝転がっていたヴィラックが


「お姫様って魔法使えるよな? 」


 とか言いながら くるりくるりと

仰向けに寝ていた おれの胸元に指をなぞらせていた。


「使えるなら、とっくの昔に使ってるよ。」


 そう答えてコイツの腕を払いのけた。


 なんかくすぐったいし、

ヴィラックにやられるのは生理的に嫌な感じがしたんだけど……



 でも魔法か……


 シアンさんが魔法を使った時の様子を思い出してみる。


 なんか緑色だったり白色の粒子が

ふわぁって浮かび上がるんだよなぁ……スカートも。


 ……異世界こっちに来てすぐ以降には

もう考えることもなくなっていたけど……


 おれは本当に魔法とか 何かが使えないのかな……?





(はぁ……なんだよ、ずっと家にいるのかよ……)


 村に戻り、ソーマ達の借りた家を見張っていたバルトは、

変化のない状況に失望し、自宅への帰路についていた。


 村の外に出ていた者達の後をつけ、

幼馴染である薄い赤色髪のラルレや茶髪の少女ピアと別れ、

ヨートルに狩りを教わりに行くのもやめた結果であっただけに、

バルトがガッカリするのも当然であった。



(明日はどうするかな……明日は出てくるのか? )


 落胆に肩を落としながらもバルトは少し考えた。


(明日は たぶん森の方へ行くんだろうし、

森の中だと後を追いかけるのは難しいかもだけど、

その分、こっちも見つかりにくいだろ。)


 そう考えて、明日再び尾行することを決めたバルトであった。




(ふむ、夜の散歩も悪くないね。)


 ジョンは夜中、村の中を歩いていた。


 現実世界とは違い灯りにとぼしい この世界、

外敵から村を守る門番の所以外では、すでに灯りは消され、

夜空の月と星明かりだけが 常人の目には頼りであった。


(ボクとミザリーと、恐らくヴィラックは、

この夜でも困ることなく歩けるんだろうな……)


 髪と同じ黄色の目、しかし左だけ赤くなった目で

村の中を見て回りながら、ジョンは静かな散歩を楽しんでいた。


(あぁ、こんな夜なら、ソーマ君も連れて行きたかったな。)


 そんなことを考えながら、ジョンは歩き続けていたが、


「よっと。」


 風に吹かれながら跳躍し、


(村人の家々と、村長の家と教会と……)


 四方を木の柵に囲われたカラパスの

村の中を俯瞰ふかんしたジョン。


「彼らは この村に何を感じたんだ? 」


 ざっと見回しただけでは何も感じることもなく、

ジョンは首を傾げつつも、散歩を続けることにした。





(うーん、目が覚めたなー……)


 アルテナたちと違って、家に居ただけだったから、

みんなが寝静まっているのに おれは目が覚めていた。


 ハニカ村とかでは、家に居ても運動する機会があったからなぁ……


 室内―― リビングでは みんなが雑魚寝してるんだけど、

ジョンがベッドを使うために寝室で寝て、

バーントさんもジョンの寝るベッドの横の床で寝ている。


 外の探索に出ていたアルテナとシアンさんが

おれの両隣で寝て、ミザリーさんはシアンさんの隣、

ヴィラックも そこらへんで寝ていた。


 マルゼダさんは壁の端っこで座るように寝ていた。

よくあんな態勢で寝れるなーと思うけど、

野宿してる時と あんまり変わらないことに気づいた。


 まぁいいや。



(ちょっとのど渇いたな……)


 この時間から何か飲むのも、トイレに行きたくなるから

あんまり飲みたくない気持ちもあるんだけど、

どうしても喉が渇くから、起きるしかないよね……


 トイレとか洗面所とかは、やっぱり元の世界のがいい……

衛生面とか、ちょっと気になっちゃうし……


 手とかお尻とかが汚れた時に、

どうやって清潔にするかで困るんだよなぁ……



 そんなことを考えながら、飲み物のありそうなキッチンへ行き、

明かりがなくて暗いキッチンにある数本の酒ビンの中から

手探りでテキトーに一本を開けて喉を潤した。


 あ、このお酒 美味しい。

果実酒みたいなジュースと全然違うね。

 この世界で飲んだ酒……というか飲み水の中で一番甘い感じ。

ある意味眠れなくなりそう。



「あれ、バーントさん? 」


 一本飲み干して喉の渇きを潤して、

寝に戻る途中で、廊下に出てきたバーントさんに遭遇した。


「ソーマか、ジョンを見なかったか? 」

「いいや? 」


 この時間に、ジョンは一人でどこか出掛けたのか?


 おれも不思議に思いながらも、


「まぁ、そのうち帰ってくるかもね。」


 そう言うと、バーントさんは無表情ながらも

おれと同じことを少し考えていたようで、

あまりジョンを心配している素振りを見せなかった。



「バーントさんは寝ないの? 」

「ん? ああ、いや、ちょっと眠れなくてな。」


 バーントさんもか。

おれも、このまま戻っても すぐには寝れないし……


「じゃあ、ジョンが戻ってくるまで、おれも待とうかな。」

「待つ……? 」


 おれは寝室で、バーントさんと一緒にジョンを待つことにした。


 ジョンはどこに行ったのかなー?

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