第132話 蜂の魔物

 ハニカ村の北の森の中で、

安否のわからなかった冒険者たちと、

彼らや村の人を襲ったはちの魔物がいるのがわかった おれ達は、

魔物討伐と冒険者たちの救助のために急いだ。


 森の中の地面のデコボコで、

荷車の車輪がガタゴトと物音を立てているけど、

魔物には まだ聞こえていないのか

襲ってくる気配は ないみたいだった……


「人の声のところ、もう近くなってます! 」

「わかった! 」


 ミザリーさんの言葉に おれは返事をした。


 風の音、葉のこすれる音、車輪の音、

おれ達の足音など、多くの物音がしている中で、

彼女には、助けを求める彼ら冒険者たちの声が聞こえているようだった。



「いたっ!! 冒険者たち! 」


 先頭を走るアルテナが、木々や草葉に隠れて

苦しんでいる冒険者生存者たちを見つけ出して駆け寄っていた。



 彼らのそばで おれは足を止め、

冒険者の人たち四人を寝かせるため、

シアンさんとミザリーさんには荷車の上から降りてもらった。


「おい、しっかりしろ! 」

「助けに来た。死なせはしない。」


 マルゼダさんやバーントさんが声をかけながら

彼らを荷車に乗せ、


「まだ魔物に気づかれていないのか? 」

「……皆さん苦しそう……」


 蜂の魔物をジョンは警戒し、

シアンさんは彼らを見て同情していた。


 アルテナやヴィラックも、

いつ魔物が飛んでくるか わからないのを気にかけていて、


「……ソーマ様? 」

「……」


 おれは お腹を押さえて苦しんでいる、

荷車に運ばれ寝かされている冒険者たちの様子に、

不吉な、それでいて嫌な感覚に襲われていた。



 蜂の魔物が近くにいるから……なのだろうか?



「一度 村に戻るわよっ!! 」


 生きている彼ら冒険者たちを助けるため、

魔物の討伐を二の次にと判断したアルテナの言葉に

おれ達は特に拒む理由もなく、元来た道を急いで引き返していた。



 なんで、蜂に刺されて彼らはお腹を押さえているんだろう?

全員、お腹に刺されたってことのなのか? 全員?


 そんなことを考えながら荷車を押していると――


「―― 羽音がっ!? 魔物が来ましたっ!! 」


 ミザリーさんの声とともに後方から、

蜂の魔物が迫り来ていた――





(は、腹が……腹が痛ぇよ……)


 お腹を押さえ、苦しみ悶えている『蜂蜜採り』のセイは、


(ど、どこに行ったんだ……キエラ……)


 苦痛に耐えながらも、

朝から姿を見せない彼女を心配していた。


(腹の痛みが……ぐっ……どんどん……ぅぅ……)


 魔物に刺され ズキズキとした痛みが大きくなっていくことに

セイの苦しみも大きくなっていき、



「こ、殺してくれぇぇ……」


 痛みに耐えながらも、かすれた声で助け救いを求めていた。


 そんな彼を嘲笑あざわらうかのように、

腹の痛みはドクンと脈打つように、更に強くなっていった――





 うわぁっ!? 蜂 気持ち悪ぃ!!


 後方から追いかけてきた緑色の蜂の魔物を見て

そう思わずにはいられず、来た道を戻りながら、

おれ達は荷車を押して村の方へと逃げ続けていた。


 戻る最中だったし 走り続けているから、

シアンさんは魔法を使えないし、ミザリーさんも弓を担いでいない……


 時々 後方の様子を見て、村の方へと逃げていると――


「――っ!? 」

「きゃっ!? 」


 ――木陰から飛び出した人影と ぶつかりそうになった。



 突然の妨害に動きを止めてしまったのも あって、


「ソーマっ!? 」

「来るぞっ! 」

「やっと戦えるねぇ。」


 アルテナが、マルゼダさんが、

ヴィラックが魔物の方を向いて剣を抜き、



「お怪我はないですか? 」

「村の人間か? 」

「森の中で……くわ? 」


 ジョンとバーントさんが飛び出してきた女性に近づき声をかけ、

シアンさんは、森の中や彼女に不釣り合いなくわを見て首を傾げていた。



 黄色く長い髪の女性から緑色の魔物へと おれは意識を向け、


「……ミツバチやスズメバチじゃないな……」


 大顎をカチカチと鳴らして滞空している魔物の姿を見て

思わず そんなことを呟いていた。


 ミツバチやスズメバチは、時期によって TVでも良く見かけるから、

それらじゃないのは おれだってハッキリとわかるし、

この蜂は全体的に細長い感じの蜂だった。凄いキモい……



 ん? ミツバチやスズメバチじゃない――?



 蜂にも色々な種類がいて、

花の蜜を集める蜂や 獲物を狩る蜂が――


「―― あっ……」

「どうした? 」


 バーントさんが心配そうに声を掛けてきたけど、

 おれの心中は それどころじゃなく、

顔が青ざめ手足も震えてきていた。



 おれよりデカい緑色の蜂の魔物が両前足を掲げ、

黒板を爪で掻いたような鳴き声をあげた。



 蜂には色んな種類がいる――


 この魔物に刺された人達は、お腹を押さえて苦しんでいる――


 この蜂の魔物はミツバチ 花蜂 スズメバチ 狩り蜂 じゃない――


 ――って、ことは――



「この魔物―― 寄生蜂だっ!! 」


 その、おれの上げた声とともに、


「はっ!? 腹があがぐわああああぁぁぁぁっっ!? 」

「うっ、ああがあがあああがががぁぁぁっっ!? 」

「いぎっ!? ぎげげげがあああああぁぁぁぁっっ!? 」

「ぐっ!? ぎぎゃああああぁぁぁぁっっっ!? 」


 荷車の上で苦しんでいた冒険者たちの腹を食い破って、

人間の幼児ほどの大きさの蜂の魔物たちが、宙に飛びあがった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る