第95話 バーントの怒り 守りたかったもの
バーントは、剣を構えて囲んでいる者達から
ソーマを守るために、掴み合っていた彼から離れた。
「……お前ら……何者だ。」
ソーマより前に出て、彼らに声を掛けたバーントだが、
(こいつらが黒魔導教団の連中か? )
異様な、とも 受けとれる雰囲気の男達を見て、
そう考えていた。
だが――
「あいつか……」
「黒いな……」
「奴だ……」
「……っ……」
ぽつりぽつりと声を漏らす彼らの
(ソーマを……連れ去りに来たんじゃないのか……? )
と、バーントは直感したのであった。
「おいおい、どういうことだこれは……? 」
先ほどまで掴み合いをしていた かつての
バーントの、ソーマの背中を守るような位置で呟いていた。
彼の取り巻きの二人も それに
ソーマを中心に円陣を組む形となっていた。
「パンプ。」
バーントは彼に声を掛け、
「なんだよバーント? 」
「ソーマを連れて逃げろ。」
「バーントさん……」
「は? お前はどうするんだよ。」
バーントの言葉にソーマもパンプも心配そうな表情をしていた。
「ソーマは、おれが守る。」
そう言って、バーントは剣を鞘から抜いた。
「あの黒いのを殺せぇっ!! 」
囲んでいた者たちの中から声があがり、
「おおっ!! 」
「ぶっ殺せぇっ!! 」
それに呼応して、彼らは一斉にソーマへと襲い掛かった。
*
(こいつら……冒険者じゃないのか? )
橙色の髪をした男―― パンプは武器を持ち歩いていなかったが、
最初に自身へ剣を振りまわしてきた男から
自ら踏み込んで行って数人を斬り捨ててから、再びソーマを守る位置についた。
パンプの取り巻きであるオーカーとカーキーも傷を負うことなく対処し、
隙を見て パンプが斬り捨てた相手から剣を拾い上げて、それを使っていた。
(バーントは……)
最初から武器も持ち 鎧も着ていたバーントは、何人も斬り捨て殴り飛ばし、
襲ってきた者達もさすがに 迂闊に攻め入ることができないでいるようだった。
(ソーマとか言ったか……)
今、パンプたちが守り、彼らが殺そうとしている彼女。
(確かに黒い髪が目立つといえば目立つ……)
と、その後ろ姿を見てパンプも思ったが、
―― 何があったかは知らないけど、こいつを諦めるんじゃねぇよっ!!
(命を狙われるほど、悪い奴とも思えねぇよな……)
はぁ、と ため息を吐いて、パンプは気を張り直していた。
(連れて逃げろと言われたが、こうも囲まれてたらな……)
状況はまだ、不利であった。
*
あまりにも剣を振るのに慣れていないのがわかる剣の振り。
集団で動くことも、単独で戦うことにも慣れていない彼らの動きを見て、
「お前ら、街の人間だろ……なぜソーマを狙う! 」
彼らが何者かがわかって、声を張り上げた。
「う、うるさいっ! 」
「そいつさえ街に来なかったらっ!! 」
「街がこんなことにはっ!! 」
「おれの家族は……」
「きっとそいつが魔物たちを呼び寄せたんだ!! 」
(酷い言いがかりだ……)
次々と
バーントは ちらりとソーマの様子を見た。
「……っ……そんな……」
彼はいきなり
目の前で広がった戦闘と彼らの言葉に動揺し、
体を震わせ怯えていた。
思い込みで『彼』を、複数人で囲んで殺そうとした。
そう思うとバーントは、無性に怒りがこみ上げてきていた。
「髪が黒いのは、そいつも魔物だからだっ!! 」
「―― っ!? 」
それを聞いて、ぎりぃ と、歯ぎしりの音が鳴らし、
「お前らがソーマを殺そうとするのなら!!
おれがお前らを殺してやる! 死にたいヤツから かかってこいっ!! 」
バーントは剣を構え直し、彼らに向かって怒声を上げた。
「わああぁっ!? 」
バーントの鬼気迫る声と
「ち、ちくしょうっ!! 」
「くそっ!! 」
「っ……仇を……」
バーントを相手にできないと察して、男達は皆 我先にと逃げていった。
バーントは、彼らが戻ってこないことを確認して、
「……」
ソーマの方へと振り向いて、彼の正面、すぐ傍へと近寄った。
「っ……」
「「ひぃっ!? 」」
「おい、顔! 」
バーントの憤怒の表情に ソーマは半歩後ずさりし、
取り巻き二人は飛び退き、パンプは慌ててバーントに指摘した。
「あぁ……すまない……」
指摘され、うつむきながらバーントは剣と表情を納め、
―― お前 何も言わねぇで相手に事情を
わかってないとか言ってんじゃねぇよっ!!
「―― っ……」
ソーマの言葉を思い出して、そのまま地面に膝をついていた。
「ば、バーントさ―― ん……? 」
そんな突然の行動に驚き 半歩戻り、心配の声を上げたソーマは、
バーントに抱きしめられ そのまま立ちつくしていた。
「すまない……すまないソーマ……おれは……」
「え……? 」
「おれは、お前を殺そう だなんて思ってなかったんだ……」
ソーマの胸に顔を埋めたバーントの告白に、
「っ!? 」
パンプはギョッとした表情で 二人を見ていた。
「あの時、止めに行けなくてすまなかった……
お前のことを 考えてやれなくてすまなかった……」
あの森で、仲間に殺されそうになっていた時のこと。
黒い魔物が死んだ後、魔物に捧げていた祈りを汚したこと。
「守ると言いながら、すぐに助けに行けなくてすまなかった……
守ると言いながら おれは……おれは……」
元使用人たちに襲われた時、ソーマが錯乱した時、
そして教団や魔物たちが襲ってきた時のことを謝り――
「おれはっ! 自分の無力さを思い知らされるのが嫌で お前からっ!
お前から おれは逃げてたんだっ!! 」
―― それを言いながら、震えるほど強くソーマを抱きしめていた。
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