第95話 バーントの怒り 守りたかったもの

 バーントは、剣を構えて囲んでいる者達から

ソーマを守るために、掴み合っていた彼から離れた。



「……お前ら……何者だ。」


 ソーマより前に出て、彼らに声を掛けたバーントだが、


(こいつらが黒魔導教団の連中か? )


 異様な、とも 受けとれる雰囲気の男達を見て、

そう考えていた。



 だが――



「あいつか……」

「黒いな……」

「奴だ……」

「……っ……」


 ぽつりぽつりと声を漏らす彼らの敵意殺意は、


(ソーマを……連れ去りに来たんじゃないのか……? )


 と、バーントは直感したのであった。



「おいおい、どういうことだこれは……? 」


 先ほどまで掴み合いをしていた かつての仲間親友が、

バーントの、ソーマの背中を守るような位置で呟いていた。


 彼の取り巻きの二人も それにならって、

ソーマを中心に円陣を組む形となっていた。



「パンプ。」


 バーントは彼に声を掛け、


「なんだよバーント? 」

「ソーマを連れて逃げろ。」

「バーントさん……」

「は? お前はどうするんだよ。」


 バーントの言葉にソーマもパンプも心配そうな表情をしていた。


「ソーマは、おれが守る。」


 そう言って、バーントは剣を鞘から抜いた。



「あの黒いのを殺せぇっ!! 」


 囲んでいた者たちの中から声があがり、


「おおっ!! 」

「ぶっ殺せぇっ!! 」


 それに呼応して、彼らは一斉にソーマへと襲い掛かった。





(こいつら……冒険者じゃないのか? )


 橙色の髪をした男―― パンプは武器を持ち歩いていなかったが、

最初に自身へ剣を振りまわしてきた男から武器を奪って返り討ちにし、

自ら踏み込んで行って数人を斬り捨ててから、再びソーマを守る位置についた。


 パンプの取り巻きであるオーカーとカーキーも傷を負うことなく対処し、

隙を見て パンプが斬り捨てた相手から剣を拾い上げて、それを使っていた。



(バーントは……)


 最初から武器も持ち 鎧も着ていたバーントは、何人も斬り捨て殴り飛ばし、

襲ってきた者達もさすがに 迂闊に攻め入ることができないでいるようだった。



(ソーマとか言ったか……)


 今、パンプたちが守り、彼らが殺そうとしている彼女。


(確かに黒い髪が目立つといえば目立つ……)


 と、その後ろ姿を見てパンプも思ったが、



 ―― 何があったかは知らないけど、こいつを諦めるんじゃねぇよっ!!



(命を狙われるほど、悪い奴とも思えねぇよな……)


 はぁ、と ため息を吐いて、パンプは気を張り直していた。


(連れて逃げろと言われたが、こうも囲まれてたらな……)


 状況はまだ、不利であった。





 集団彼らを相手にしながらバーントは、


 あまりにも剣を振るのに慣れていないのがわかる剣の振り。

集団で動くことも、単独で戦うことにも慣れていない彼らの動きを見て、


「お前ら、街の人間だろ……なぜソーマを狙う! 」


 彼らが何者かがわかって、声を張り上げた。



「う、うるさいっ! 」

「そいつさえ街に来なかったらっ!! 」

「街がこんなことにはっ!! 」

「おれの家族は……」

「きっとそいつが魔物たちを呼び寄せたんだ!! 」



(酷い言いがかりだ……)


 次々とわめく者たちの言葉を聞きつつ、

バーントは ちらりとソーマの様子を見た。



「……っ……そんな……」


 彼はいきなり敵意殺意を向けられ、

目の前で広がった戦闘と彼らの言葉に動揺し、

体を震わせ怯えていた。



 思い込みで『彼』を、複数人で囲んで殺そうとした。


 そう思うとバーントは、無性に怒りがこみ上げてきていた。



「髪が黒いのは、そいつも魔物だからだっ!! 」

「―― っ!? 」


 それを聞いて、ぎりぃ と、歯ぎしりの音が鳴らし、


「お前らがソーマを殺そうとするのなら!!

おれがお前らを殺してやる! 死にたいヤツから かかってこいっ!! 」


 バーントは剣を構え直し、彼らに向かって怒声を上げた。



「わああぁっ!? 」


 バーントの鬼気迫る声と表情、そして雰囲気に男達は圧倒され、


「ち、ちくしょうっ!! 」

「くそっ!! 」

「っ……仇を……」


 バーントを相手にできないと察して、男達は皆 我先にと逃げていった。



 バーントは、彼らが戻ってこないことを確認して、


「……」


 ソーマの方へと振り向いて、彼の正面、すぐ傍へと近寄った。


「っ……」

「「ひぃっ!? 」」

「おい、顔! 」


 バーントの憤怒の表情に ソーマは半歩後ずさりし、

取り巻き二人は飛び退き、パンプは慌ててバーントに指摘した。


「あぁ……すまない……」


 指摘され、うつむきながらバーントは剣と表情を納め、



 ―― お前 何も言わねぇで相手に事情を理解さわからせない癖に、

わかってないとか言ってんじゃねぇよっ!!



「―― っ……」


 ソーマの言葉を思い出して、そのまま地面に膝をついていた。


「ば、バーントさ―― ん……? 」


 そんな突然の行動に驚き 半歩戻り、心配の声を上げたソーマは、

バーントに抱きしめられ そのまま立ちつくしていた。


「すまない……すまないソーマ……おれは……」

「え……? 」

「おれは、お前を殺そう だなんて思ってなかったんだ……」


 ソーマの胸に顔を埋めたバーントの告白に、



「っ!? 」


 パンプはギョッとした表情で 二人を見ていた。



「あの時、止めに行けなくてすまなかった……

お前のことを 考えてやれなくてすまなかった……」


 あの森で、仲間に殺されそうになっていた時のこと。

黒い魔物が死んだ後、魔物に捧げていた祈りを汚したこと。


「守ると言いながら、すぐに助けに行けなくてすまなかった……

守ると言いながら おれは……おれは……」


 元使用人たちに襲われた時、ソーマが錯乱した時、

そして教団や魔物たちが襲ってきた時のことを謝り――


「おれはっ! 自分の無力さを思い知らされるのが嫌で お前からっ!

お前から おれは逃げてたんだっ!! 」


 ―― それを言いながら、震えるほど強くソーマを抱きしめていた。

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