第78話 夜の空、地上の暗闇、人々は何を見るか?

「待たせたな。」

「別に良いわよ。」


 ソーマとシアンに何があったかを推察していたアルテナは、

その夜、バーントをパプル家の屋敷の、建物の外に呼び出していた。



「それで、聞きたいこと……とは? 」


 無表情ながら呼び出されたことに関して興味のあったバーント、


「……ソーマの首と腹についた痣。」

「―― っ」


 そんなバーントの目が見開いて驚く動きに、

アルテナは確信を得て、


「知らないとは言わせないわ。あの時の動きを見ればね。」


 そう たたみかけて追及した。



 バーントはアルテナの様子に少し言うべきか迷っていたようだったが、


「すまない。」


 頭を下げて、そう答えた。



「それで、ソーマに何があったの? 」

「実は―― 」


 アルテナは、バーントから聞いた出来事に、


「あんたやジョンに落ち度があるのはわかった。

けど、ソーマを襲った連中が、あんなバラバラになってたなんてね……」


 なんとも言えない表情で、そう呟いていた。


「……」


 話し終えたバーントもなんとも言えない表情でうつむき、


「私はこれ以上、あんたに問い詰めたりしないわよ。」


 目を伏せる彼に、


「ソーマのこと、守ろうとしてくれてるのも見たからね。」


 アルテナはそう声を掛けて、屋敷の建物内へと戻っていった。


「……、……、……」


 バーントは、しばらくその場所に立ちつくしたままであった。





 アルテナがバーントと話をしていた頃、

マルゼダは、街の南の出入り口のところで一人立ちつくしていた。


 ただ夜風に当たっていた。


 ―― わけではなく、彼の隣に足音もなく忍び寄る影があった。



「よく街中で生きていたわね。マルゼダ。」

「街の中か外か、どっちにいたんだ? セロー。」


 影の―― 声の主に彼はそう返し、


「外よ。ちょうどこちらへ来ようとしていた頃だったかしらね。」

「そりゃちょうど良かったな。」

「そんなに怒らないでよ。」


 マルゼダの言葉に彼女、セローはなだめるように声を上げた。


「怒ってはないさ。」


 マルゼダは声の方には顔を向けないまま、


「こういう時、何もできなかったって思ってしまうのが嫌なんだ。」


 空を見上げて、ため息を吐いた。


 遠い夜空には雲一つなく、月のまわりに星々がきらめいていた。


 ノースァーマの街で、本当なら見れたであろう地上の煌めきは、

街の南側にしかなく、街のほどんどが暗闇に覆われていた。



 悲しみに暮れる声や、やりきれない怒りの声、理不尽に絶望する声。



「オレに、戦う以外に何ができる? 」


 マルゼダの言葉に、セローは返す言葉が思い当たらなかった。





「おれに……何ができた? ……おれは……」


 立ちつくしたままのバーントは、地面を見つめていた。


「守ると……言ったのにおれは……」


 両手を、両腕を見る。


 その両腕の上に今、彼はいない。

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