第75話 遭遇、勃発、黒魔力

「ちらっと見えたけど、街の南側は巻き込まれてないみたい。」


 アルテナの情報をもとに、おれたちは今からどうすれば良いか、

ジョンの屋敷の庭園で相談をした。



「全員で南へ行くのですか? 」


 全員で輪になって顔を見合わせた中、シアンさんが尋ね、


「北から南へ? 一度、街の外へ出た方が良いのでは? 」

「うーん、早めに南にいる者たちと合流しておいたほうが……」


 ジョンの言葉に、おれも会話に加わった。


「あの犬の遠吠えはなんだったんだ? 」

「このまま、ここに居続ける……わけにはいかないよね。」

「水や食料のこともあるし、魔物がまだ残ってるかもしれない。」

「本当に南側に被害はないのか? 」


 などなど、立場も関係なく

この場にいる全員でいろんな意見を出した結果――



 おれは美形だけど変な人に、

シアンさんはアルテナにお姫様抱っこされ、

四人で街の中を通って南側へ直行し、


 残りの全員は街の外から迂回して安全に集合することになった。



 なんでおれが、そんな危ない橋を渡るようなことを

しないといけないのか わからないけど、


「一緒に来なさい。」


 と、アルテナに強引に決められてしまった……


 おれが直行組だから変な人がそのまま抱きかかえて、ってなってしまうし、

バーントさんは、ジョンや屋敷の人達、迂回組を守らないといけないしね。


 お爺さんは魔法が使えるから迂回組に入ってもらって、

 シアンさんはブラウさん達がどうしてるか心配だったのもあって、

先ほどみたいにアルテナに抱っこされることに決まった。



 それにしても、異世界人って凄いな……


 足場の悪い瓦礫の山々を、人を一人抱えたまま、

ひょいひょいと飛び越えていくんだから……ん?


「あれは犬の群れ……? 」

「だねぇ。」


 街のあちこちに見える犬の群れを見て、


「っ!? 失敗した! 」

「アルテナ? 」

「? 」


 そう声に出したアルテナに、

おれとシアンさんは彼女へ顔を向けた。



 その声に反応したのか、

犬たちがおれ達に向かって吠えだして……


 げっ!?


 普通の犬やそれより大きめの犬、緑色の体毛をした犬、

犬たちの中で目立つくらいに大きな緑色の犬の魔物たちが、

おれ達に狙いをつけて駆けだしてきた。



「シアン、魔法を!! 」

「は、はいっ!! 」


 駆けだす犬の群れを見て、アルテナに言われ、

シアンさんは群れに炎の魔法を放った。


 魔法の直撃を食らう犬もいれば、魔法を避ける犬もいて、

でもおれ達を狙うのを諦める気はないようだ……


 おれやシアンさんを抱えたままじゃ、二人も戦えないし……


 かといって、少しでも数を減らさないと、

おれ達が犬の魔物の群れを、南側に引き連れて行ってしまう……


 って、アルテナが『失敗した』って言ったのはコレか!



 いや、それがわかったところで……どうすれば……


 そう思ってたら、犬たちの動きに変化が見えた。



 犬の群れがおれ達から顔を背け、

街の西の方で、何かに吠え立てているようだった。




「来るよ。」

「へっ? 」


 おれをお姫様抱っこしている彼が犬たちと同じ方向を見て呟き――


 視線を辿り、一瞬、景色が揺らいだかなと思うと――


「……タコ? 」


 ―― 緑色の大きなタコの魔物が姿を現していた。


 というか あのタコ、光学迷彩みたいに一瞬で色が変わったぞっ!?



 そうまじまじと見ているうちに、

タコは八本もある足のそれぞれで 瓦礫を持ち上げて……



「逃げるわよっ!! 」

「きゃっ!? 」

「うわっ!? 」

「ちっ! 」


 おれ達や犬の魔物の群れに、次々と瓦礫を投げつけてきていた。


 瓦礫が飛んでくるのマジで怖ぇーよっ!!


 タコ デカいから瓦礫の大きさもデカいしさぁっ!?



 アルテナの一声で、おれ達は逃げることを優先して、

逃げている間に、犬の魔物たちはタコの魔物と戦うことを決めたみたいだった。


 確か……魔物同士でも戦い合うんだったっけ?


 とにかく、瓦礫の雨や犬の牙からも逃げ切り、

街の南側へおれ達は進んで行くことに――



 ジョンの屋敷からまっすぐ進んでるものだから、

まだ何匹もの犬の群れに追いかけられたりしているけど、

南側は本当に無事なんだろうか……?





 呼ばれている。呼ばれている。


 不快――


 悲と怒――


 破壊せよ。破壊せよ。


 そのために、呼ばれていた。


 だが、すでに破壊されている。だが、敵がいる。


 呼ばれている。破壊せよ。敵がいる。


 襲ってくる四本足の群れを絞め殺し、作られた岩などで叩き潰し、

八本の手足でもって投げつけ、敵を殺す。


 呼んだのは――





 ミミズの魔物たちによって大損害を被ったノースァーマの街。


 犬の魔物の群れは進行方向にある村などを潰し、喰い、

街の、瓦礫の下で生き残っている者たちを食い散らかした。


 ミミズの、小型の魔物たちをもエサをした。



 突然現れたタコの魔物に群れの仲間がやられていき、

犬の魔物の群れの主である大きな犬の魔物は、

タコの魔物へと歩み続けた。


 犠牲となった人々の負の感情を、

ミミズの魔物をも食らうことで生物濃縮し、

犬の魔物の群れたちもが、負の感情を持ってタコの魔物へと向けていた。





 犬の魔物の群れとタコの魔物が殺し合う。



 犬の魔物たちが数で攻め、タコの足を食いちぎる。


タコの魔物は瓦礫を使い、犬の魔物たちを殴り潰す。


 次から次へと犬たちが攻撃に加わり、

タコの魔物は足を一本ではなく二本、三本と増やしながら応戦する。



 壊れた街の中央で、死と憎悪を重ねて殺し合い、



 どちらからともなく黒い粒子が湧きおこり、

煙のように空へと昇っていった。

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