江戸の治安維持に関して水戸の若様に相談してみたぜ
さて、吉原の仲通りは、三和土で舗装し直したことで、レンガ道よりはずっと歩きやすくなった。
「うーむ、最初から三和土で舗装しておけばよかったかな。
まあレンガ道というのも、見た目は悪くなかったはずだけど」
三和土だと普通の土で踏み固められた道と、あんまり変わらなく見えるんだよな。
無論、三和土ならば、雨が降ってぬかるんだりはしないので、雨が降ったときでも、揚屋への移動のときに、泥で裾が汚れる心配や、転んだりする心配が、少なくなったのは間違いない。
そして今日は二代目藤乃の所に、水戸の若様が来ている。
先代の藤乃が引退したにもかかわらず、相変わらずうちに通ってくれるのは、ありがたいことだ。
そして俺はまた、藤乃付きの禿の桃香に呼ばれて揚屋に向かっている。
「水戸の若様が、戒斗様とお話しをしたいそうでありんすよ」
「おう、わかった今行くぜ」
とりあえず、俺達は揚屋の藤乃が持ってる部屋へ向かい、座敷に上がることにする。
「三河屋楼主戒斗、失礼致します」
すっと障子を開けて中を見る。
そして徳川光圀はニンマリと笑う。
「おお、楼主よ来たか。
この麻婆豆腐とやらはぴりっと辛くて美味いのう。
ぜひ私の付き人にも作り方を教えてもらいたいのだ」
「は、喜んで、伝えさせていただきます」
「うむ、それは助かるぞ」
「その代わりと言っては何ですが水戸の若様にお願いしたいことがございます」
徳川光圀はカカと笑った。
「うむ、申してみよ」
「はい、現状品川の公許遊郭化を進めておりますが、それとは別に根津・赤坂氷川・両国・深川などの門前に岡場所はたくさんできております」
俺の言葉に若様がうなずく
「ふむ、そうであるか、門前の見世物や芝居小屋とともに水茶屋などが春を売っていると」
「ええ、ある程度は仕方ないですがあまり堂々と行われるのであれば俺もそれらを潰すために動かざるをえません。
ですが、それを行おうにも、その数が多すぎ場所も散らばりすぎております。
そして明暦の大火の前は大川(隅田川)の東の、両国深川や神田川の北の浅草、西の甲州街道沿いや南の東海道沿い等は町人地はありませんでしたが、明暦の大火以降は町人のそういった今までの町人地以外への移住も進んでおります。
そこで現在の南北の町奉行様の所轄地域を元町と改めて、それに加えて神田川以北大川以西の浅草の北町、芝から品川までの南町、両国深川の東町、甲州街道沿いを中心にした西町と言う新たな管轄の地区を広げ、それに基づいてお奉行様や与力同心といった方々の、増員を検討してはいただけませんでしょうか。
同心には浪人や武家奴のような、職につけない方々を、引き立てることで治安をより良くできるかと思うのです」
俺の言葉に水戸の若様はうなずいた。
「ふむ、それは一理あるのう。
上様や老中などとも相談してみるとしよう」
「はい、どうぞよろしくお願いいたします」
江戸町奉行は、基本江戸の街の町人地の行政・司法を担当する役職で、現代の都知事と警視庁の長官と東京地方裁判所の裁判長を兼任しているようなものだが、部下で実働要員である与力は、南北奉行所に25名ずつ、同心は100名ずつで10万人規模の町人の人口に比べると南北合わせて250人程度しかいないというのは極めて少ない。
これは町奉行が、慶長の頃に設置され、そこから形態が基本的に変わってないからであるが、その頃とは江戸の町人の人口も、町人地の面積全然増えているのだ。
そして町奉行は、武士としては珍しく非常に多忙な職務で、過労死した人間も少なくなかったりするらしい。
吉原が岡場所を潰すように、奉行所に陳情してもなかなか動かなかったのは、門前町が寺社奉行の管轄であったりするのもあるが、実際は町奉行所の人員が少なすぎて動けなかったというのが正しい。
だから奉行所の範囲を広げ奉行を増やし、その下のものも増やすべきと俺は思うし、大奥に金をつぎ込むくらいなら、町奉行所の人員に金を使ったほうが、よほど建設的だと思うんだよな。
まあ、俺はただの遊郭の楼主に過ぎないんで、こうやって水戸の若様にお願いするしかないわけだが。
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