保護したものの現状:内藤宿の飯盛り女の通の場合
吉原の代表の遊女達が夏の伊勢での盤双六の勝負の帰りに甲州街道を通り内藤宿に宿泊した際に戒斗が身請けした飯盛女のお通は現在吉原旅籠の中居として働いていた。
”お江戸日本橋七ツ立ち”などと言われるように江戸時代の旅籠の朝は早い。
日の出の少し前には起きて宿泊客の朝食の準備をしなくてはならない。
最も調理を行うのは無論料理人で仲居の仕事はそれを割り当てられた部屋に運び込み飯などをよそることである。
もっとも江戸時代の宿場町の旅籠の料理は、本来専門の料理人が作るのではなく下女が仕事の一つとして作っているので本来は特別に美味しく豪華なものというものではなかったのだが。
お通は起きたら顔を洗い、梅の入ったにぎりめしと大根の粕漬けで軽く腹を満たし接客の準備のために服を着替え、台所から膳を運ぶ。
「お早うございます。お客様、朝餉でございます」
旅籠の仲居の仕事は朝食を部屋に運ぶところから始まる。
お通はニコリと微笑みながら食事の乗った膳を部屋に運び込む。
お客様が良い朝だなと感じてもらえるようにするために、爽やかな挨拶と笑顔は大事だ。
膳には鰆の焼き物、調味料である煎り酒、大根と里芋の煮物、蜆の味噌汁が乗り、後はおひつにいっぱいの白飯と茶瓶には温かいお茶、小皿に餅をあんで包んだ福餅もある。
「うわー、すごいね~」
子供が福餅に目を輝かしている。
「さあ、温かいうちにお召し上がりください」
お通は皆の前に膳を並べて、おひつから椀に飯を盛っていく。
そして皆の前に飯が行き渡ると食事が始まった。
「ではいただきましょう」
「いただきます」
宿泊客が食事を始めるとお通はお客様が快適に食事をする事ができるように何か困っていないか、食べ終えたお皿等が邪魔にはなっていないか、ご飯のおかわりをしたそうではないか等に注意を払って其の様子を見ていた。
「おかわりー」
「はいどうぞ」
この時代は米を沢山食べるのは普通である。
そして可能な限りお客様がイライラしたりしないようにお客様がなにか言う前に行動に移せるよう準備するのが中居には大切なことだ。
食後に茶を飲み福餅を食べれば明け六つには宿泊客も笑顔で部屋を後にして行く。
「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
利用してもらったお客様へ感謝の気持ちと良い旅籠だった、また来たいねと思ってまた来てもらえるようにするにはお見送りは重要なものだ。
だから中居は玄関前にたち笑顔で宿泊客を送り出すのだ。
客がいなくなったら廊下や客室清掃を皆で行う。
布団を外に出して干したりするのである。
「綿の布団を使うなんてさすがは吉原ですよね」
この頃の木綿が入った布団は超高級品で1枚30両(およそ300万円)以上もするもの。
最も吉原の太夫などはその布団を三枚敷いていたりもするのだが。
掃除が終われば食事と休憩の時間。
「ふう、落ち着きますねぇ」
今日の昼ごはんは焼いた鰯に江戸菜の漬物、玄米飯と麸が入った味噌汁。
これでも十分に贅沢な部類なのが江戸時代の献立だったりする。
「ありがたくいただきましょう」
そして食事と休憩を終えたら自分の担当の部屋の最終確認。
「ん、大丈夫ですね」
そして夕刻に担当する客室のお客様が連絡の者を来させてそれをつたえるのです。
飯盛旅籠のようにお客さんを捕まえて無理にでも泊まらせようとする必要はないのは助かります。
「さて、ではそろそろ参りましょうか」
部屋に入った直後ではなく、少し待って落ち着いたであろう時間を見計らって挨拶に伺う。
部屋に入るときの襖の開け方や挨拶の仕方、お茶出しの礼儀作法なども大事です。
そして厠や温泉の場所などの説明もします。
「温泉に入られてから食事にしますか?
それとも食事を先になされますか?」
「食事を先にしておこうか」
「かしこまりました」
厨房にそれを伝達て料理をつくってもらい膳に載せて部屋に運びます。
膳には切り干し大根、カレイの煮つけ、煮豆、納豆汁が乗り、後はおひつにいっぱいの白飯と茶瓶の中には温かいお茶、小皿に水菓子の蜜柑。
「さあ、皆様温かいうちにお召し上がりください」
お通は皆の前に膳を並べて、おひつから椀に飯を盛っていく。
そして皆の前に飯が行き渡ると食事が始まった。
「ん、このカレイの煮付けは絶品だな」
「すごいねー」
「おかわりー」
「はいどうぞ」
食事が終われば吉原温泉の場所を案内しその間に膳を片付けて、お部屋にお布団を敷きます。
「さてこれで終わりですね」
仕事が終わればお通も風呂に入って、軽く食事を取る。
献立はご飯、味噌汁、イカと大葉の天ぷら、大根の漬物だ。
「天ぷらを食べられるなんて、贅沢ですよね」
あとは翌朝またお客様にお食事を運ぶまではゆっくり寝ます。
「さて、明日もがんばりましょう」
お通は今の環境に感謝しながら眠りにつくのだった。
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