オランダ人の接待の次は花鳥茶屋だ

 さて、オランダ人カピタンをオランダ料理でもてなしたら次は花鳥茶屋へ案内するとしよう。


 カピタンは食事についてはそれなりに満足そうだ。


「ふむふむ次は何かね?」


「次は花鳥茶屋をご案内します?」


「花鳥茶屋とはなんだね?」


「まあ、珍しいと思う動植物などを見られる茶屋ですな」


「ほう見世物フリークスショーか、期待してよいのかな?」


「ええ、ぜひ期待していただければと思いますよ」


 大航海時代には、アフリカやアメリカ大陸を始めとして世界各地から珍しい動物や鳥、植物などなど多種多量にヨーロッパに持ち込まれた。


 動物ではカナリア、インコ、オウムと言った飼いやすい小型の鳥類は特に人気があったし、植物ではトルコ原産のチューリップはバブルを引き起こすほどの人気になった。


「ほう、こんなところで鉢植えのバラを見ることができるとはね」


「珍しい花は客寄せにぴったりですからね」


「うむ、そのとおりであろうな」


 植物園も密かに人気のあるスポットだしな。


 また日本でも猿回し等があるし、西洋では猛獣使いがサーカスでもてはやされるように芸をする動物は人気があったし、芸をしなくてもパンダやコアラなどがもてはやされるように珍しい動物を見るというのも娯楽の少なかった時代では一般市民に人気があった。


「ふむアシカに芸を仕込んでいるのか」


「まあ簡単なものですけどね」


 アシカは普段は水槽にいるが手を鳴らすと水の上にはいあがって、俺の呼びかけにたいして、アーと鳴いて答えたり両ヒレを打ち鳴らしたりしたらフナやドジョウなどの魚をご褒美にあげる。


 21世紀のアシカのショーでもほぼ同じようなことはしてるんだけどな。


 見世物というのは、洋の東西を問わずに珍奇さや禍々しさを売りにして、日常では見られない芸、変わった獣や人間を見せる娯楽だったのだ。


「うむ、孔雀は美しいな」


「ええ、孔雀は優美です」


「それを眺めながらのんびり茶を飲むのも悪くはないものだ」


 孔雀茶屋は孔雀を眺めながらのんびりお茶を飲むというくつろぎの空間として人気だ。


 ウサギや猫を膝に抱えたり、セキセイインコを手の上に乗せたりすることも楽しまれている。


 そして意外なことに江戸では珍獣奇獣として親しまれてるのが鹿だったりする。


「これを食べさせれば良いのかね」


「ええ、鹿専用のせんべいです」


「ほほう、うまそうに食べておるな」


「まあ、鹿の本来の食べ物は草なので大して腹は膨れないようではあるんですがね」


「その分何度も買わせることができるということか」


「まあ、そんなとこです」


「ははは、なかなかあくどいな」


「そういう言われ方は心外ですな」


 奈良の公園や寺院などで普通にうろうろしているほど鹿は人には親しまれてるが、シカは家畜化できていない。


 その理由は群れを形成する動物には、個体間で序列性を作り、自身よりも序列が上である個体の行動に倣うという習性を持つ種とそうでない種がおり、鹿はヒツジやヤギ、ウシや馬と違い、シカには群れのリーダーがおらず、それによりリーダーに従って行動するという性質がないため、人間をリーダーとしてしつけることができないからだったりする。


 ただし家畜にはできなくても餌付けや飼育自体は可能なので生きたまま捕まえた鹿は檻の中で飼われて野菜くずや鹿せんべいなどを食べさせたりすることはできる。


 狐なんかもそれに近いな。


 せんべいの材料は米ぬかと小麦粉でそれを円盤状にして焼いたもの。


 因みに鹿せんべいの歴史は実はかなり古く、江戸時代の1670年代にはすでに販売されていて、1791年に出版された『大和名所図会』の春日の茶屋では、茶屋の客が鹿に鹿せんべいを与えている光景が描かれていたりする。


 一応奈良の寺院や公園の鹿は野生生物何だけどペット感覚の人間もいるかもな。


 で、奈良などと違い江戸の町には鹿はいないから特に珍しく思われていたりするんだ。


 カピタンもなんだかんだで満足してくれたみたいだぜ。

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