ある日の大奥・竹千代の乳母の一日
私は竹千代様の乳母をしているものでございます。
大奥において一番下の女中の「お末」は暁七ツの寅の刻(おおよそ午前4時)に起きて水汲みを開始しますが私も明るくなり始める同じ時間に起き、同じ頃お目覚めになった竹千代様にお乳を上げるために黒覆面を顔につけるのです。
この時乳を与える私とはまた別に竹千代様を抱く女中がいてそちらも同じように覆面をして竹千代様を抱くのです。
このようなことになったのは先代様(三代将軍家光)の
悲しいことではありますがこれも仕方なきことでございます。
「竹千代様、お乳の時間でございますよ」
「ばー」
嬉しそうに笑う竹千代様はとても可愛らしいです。
このまますくすく育っていただきたいものです。
そもそも覆面をすることで白粉をする意味があまりないこともあり私は白粉はしておりません。
聞いたところだと白粉は良くないものであるそうですね。
竹千代様が夜中に目を覚まされて泣き出すことももうなくなってまいりました。
寝る前にお乳をたっぷりのみ明け方までぐっすりとお眠りになるようになって私も助かります。
竹千代様が生まれたばかりのときは、ちょっとお乳を飲んではお疲れになって眠ってしまい、起きてはちょっとお乳を飲んではお疲れになって眠ってしまいの繰り返しでしたからほとんど一日中授乳をしていたように思います。
「あー」
どうやら竹千代様はお腹がいっぱいになったようでございます。
「ではしーしーしてくださいませ」
「あー」
さらしを竹千代様の下半身に何重にも巻き付ける「巻きおしめ」もそろそろ必要なくなりそうです。
竹千代様がお腹いっぱいになり排尿排便がすんで一度お眠りになれば私たちは房楊枝で歯磨きをおこない、糠袋で顔を洗います。
それが終われば
それが終われば御台所様の入浴を終えたのを確認してから入浴です。
桶に入ったお湯に糠袋を浸してそれで体を洗ってお湯で糠を流して終わりですが。
入浴が終わったらお目覚めになった竹千代様に乳を上げる時間です。
「竹千代様、お乳でございますよ」
「ぶー」
ブーと言われても特に嫌がられているわけではないですよ。
やはり覆面をしながらたっぷりお乳を飲んでいただきます。
お腹がいっぱいになっても十分寝たあとでございますのでちょこんと床におすわりされた竹千代様は左右を見回していらっしゃいます。
「これでございますか?」
「あー!」
どうやら竹千代様はガラガラを鳴らしたかったようでございます。
小さな両手でガラガラを持ってそれを上下に振って楽しんでいらっしゃいます。
そして遊び疲れてお眠りになったら私たちは朝食です。
御台所様ほどではないにせよ私もかなり良いものを食べられます。
私の食べたものが竹千代様の飲む乳になるのですから当然ともいえますが。
「ではありがたくいただきましょう」
麦飯、落とし卵の味噌汁、焼き魚、香の物、出汁のかけられた豆腐などが膳で運ばれてきましたのでそれを頂きます。
「ごちそうさまでございました」
朝食が終わったら、うがいを行います朝の総触れのために軽く眉を描き紅を引きます。
朝四ツの巳の刻(午前10時頃)の朝の総触れが行われました。
御年寄、御中臈などといった
これが終わると上様は中奥へ戻り、御台所様も居室へ戻られます。
「あーん」
お部屋に戻ると竹千代様がキョロキョロ左右をみながら泣いていらっしゃいました。
「竹千代様、少々お待ちを」
「あー」
すぐに覆面をしてお乳を差し上げます。
「うー」
やっと泣き止んでくださったようです。
「あー」
そして畳の上に降りると竹千代様が畳の上を小さな手足を動かしながらハイハイすることを楽しそうにされていますね。
そしてある程度動いたらことりと眠ってしまいます。
私達はその合間に昼食を取ります。
竹千代様が起きたら授乳し暫く遊び相手を勤めて寝たら自分たちも少し休みを繰り返し日が沈む前には赤小本を読んで差し上げます。
「ぶぶぶぶ」
竹千代様はとても楽しそうに聞いていらっしゃいます。
そして寝る前の授乳を終えたら、竹千代様は赤子寝台でぐっすりお休みになるのです。
「今日も竹千代様がお元気で何よりでした」
自分たちも夕食を取ったらゆっくりと眠れます。
たまに夜中に竹千代様が目覚めて泣いてしまった場合は私達も起きて竹千代様がまた寝るまであやしたりすることもありますが、そういったことも少なくなってきました。
それではおやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます