この頃の農民の生活は統治者によって様々だった・その二

 外様・島津氏薩摩藩の場合


 麦粥をすすりながら農民が遠い目をする。


「はあ、俺達も米が食いてえなぁ」


「そうだなぁ、死ぬ前に一度くらいは食いたいもんだ。

 死んだあとだけ供えられてもな……」


 薩摩藩では米を「葬式の米」と言っていたが、葬式の時だけ、米は死者に対してお供えするものだったからだ。


 薩摩の島津は豊臣に逆らい戸次川の戦いで豊臣軍へ大きなダメージを与えたためか、豊臣家にも徳川家にも大きな脅威と考えられており文禄4年(1595年)に行われた、石田三成による検地で、島津領国の石高は検地の結果、それまで約22万5千石であった石高が約56万9千石余となったとされたが実質は約35万石ほどと推測されている。


 そして、島津の家臣団は新たな石高にもとづいて所領が割り当てられ、多くは所替えすることとなった。


 やり方としては検地前は100石だった武士に移動したら200石にしてやるといって移動させたが、島津家領内の石盛り、要するに俵に米を詰めることだが、よそと違って籾のままで行われ、他藩と同様に玄米で計算すると37万石程度しかなく、鎌倉時代などよりは石高は増えていたにしても石高が相当水増しされていた。


 これが理由の一つで秀吉が死んだ慶長4年(1599年)薩摩藩では、「庄内の乱」という内乱が起こり、それが関が原に兵を出せなかった理由でも有ったのだが、この太閤検地でだまされて移動させられたりした武士たちの怒りの爆発だったのだ。


 しかし、これには理由もあり島津の領地には九州統一寸前にまで行ったときの北上で服属させた武将・侍たちを抱えており彼らを含めた武士が8万人ほどが存在していた。


 この「太閤検地」は石高を精査することよりも朝鮮出兵での、その土地からの動員数の資料とされたいたので本来であれば玄米高1石と基準数値を(玄米高の倍の量目となる)モミ高1石として石高を算出させたのだ。


 それ故に江戸時代初期の薩摩藩の年貢の率は八公二民と言われ特に大隅の住民は島津と争って負けたあとに臣従したとみなされたことも有って薩摩藩から被征服民の扱いを受けた。


 薩摩藩は農民一揆のなかった藩と言われる。


 ただしそれは薩摩が豊かだったからではない。


 半兵半農の下級郷士や農民は辛うじて雑穀と最近入ってきた水戸芋で命を食いつないでいる状態であった。


 このような状態で半農藩兵の下級郷士や農民の抵抗がおこらないわけはないのだが農村を支配する庄屋、漁村を支配する浦役は必ず上級郷士が任命されていて、常に庶民の生活を監視していた。


 まとまった一揆などを起こせるわけもなく、貧しい農民に残された道はそっと夜逃げするか身売りするかしかなかった。


「やっぱり娘を売らんともう無理だなぁ」


「ごめんな、ごめんな」


「わかってるよ……おとん、おかん」


 こうやってまた娘が一人島原などに売られ新たな遊女が生まれていくのだった。


 外様・南部氏盛岡藩の場合


 出羽庄内藩と対象的に盛岡藩の農民は悲惨であった。


 盛岡藩の農作地では春から夏に吹く餓死風がしふうや、やませとよばれる冷たく湿った東よりの風が吹き付けてくることで気温が上がらず最高気温が20℃程度を越えない日が続くことも珍しくない。


 特にこの江戸時代では米が農業の中心であったが寒冷に強い品種改良が進んでいなかったこともあり、やませの長期化によって東北地方の太平洋側では度々凶作を引き起こした。


 特に盛岡藩は小氷河期の江戸時代前期では水稲北限地域外で有ったにも関わらず無理に水稲生産を強制したため、連年凶作に見舞われ、冷害で米がひとつも取れない年も多々有った。


「はあ、今年もだめだったなぁ」


 真夏であるというのに底冷えのする風を受けて農民は気温が低すぎて花をつけない米を見てため息をつくばかりだったことを思い出す。


 そして冬になると雪に埋もれた家に閉じ込められるのも毎年のことだ。


「それでも会津のお殿様が下すったというジャガタライモはありがたいねぇ、寒くてもなんとかなるし」


「ああ、味噌汁に入れて食えば案外うまいからな。

 会津のお殿様には足を向けて寝られねえな」


 その為、粟、稗、陸稲、麦、蕎麦、大豆、山芋、それと会津藩より送られたというジャガタライモなどがメインの食事となったが、なかなかその備蓄すら作れなかった。


 この土地の名物である南部せんべいは本来は非常食であったりする。


 日本の津々浦々まで生活水準が上がるほどにはまだまだ至っていないが薩摩芋とジャガ芋の存在は本来よりは多くの人間を救っているのだろう。

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