今年の吉原は去年よりだいぶ明るいぜ・藤乃の囲碁の腕を上げるために師匠をつけてもらったぜ

 さて、俺は本格的に年が明けると先ずは吉原の総会を行った。

 そして藤乃が吉野太夫との囲碁勝負に負け、夏に吉原と島原で対抗戦をすることを説明する。


「去年はみんなおつかれさんだった。

 今年も頑張ろうぜ。

 で、勝手に決めちまってわりいが今年の夏には島原と吉原で碁の勝負をすることにした。

 互いに5人ずつ代表を出してどっちが多く勝つかで勝敗を決める。

 吉原の大見世の太夫が京にも負けないって知らしめてやろうぜ」


 三浦屋が不満げに胃う。


「おいおい、お前さんのところの太夫が負けたからって一緒にしてくれるなよ。

 うちの高尾なら負けることもなかっただろうに」


 山崎屋も同じようにいう。


「全くだ、うちの勝山なら勝っただろうに」


 俺は苦笑して言い返す。


「いやいや、藤乃だって決して弱くはないんだぞ」


 三浦屋が皮肉げに笑いながら言った。


「まあ、いい、詳しい期日や場所は後ほどだろうがどの見世の太夫が大将になるかそれをいずれ決めるんだろう?」


「ああ、碁が一番強いやつが対抗戦の大将になるべきだしな」


 三浦屋は言う。


「じゃあ、そういったすり合わせは三河屋に任せるぜ。

 京の連中をガツン!とやるいい機会だ」


 山崎屋も頷く。


「京の連中は江戸の下らない連中と俺達を見下してるからな。

 その鼻っ柱へし折ってやろうぜ」


 一同が頷いたところで総会は解散。


 そして一月十六日の藪入になった。


「妙、今日は実家でのんびりしてきてくれな。

 とはいっても身重だしくれぐれも体には気をつけてくれ」


「はい、ではいってまいります」


 妙も朝方からなるべく体を冷やさないですむようにと俺が用意させたこたつ付きの屋形船で久しぶりに実家に帰ってのんびりしているだろう。


 遊女屋の内儀というのは意外と忙しいのでたまにはのんびりするのもいいはずだ。


 そして今日はどこの店も休みで皆のんびり過ごしている。


「さて、今年は俺も少しゆっくりするかね」


 去年はまだまだ忙しすぎて年末年始はろくに休めなかったが、今年は去年よりはまだちょっと余裕ができてきた。


 吉原全体も昨年より全体的に明るい雰囲気になってきた。


 俺は当然だが俺の見世に所属している遊女たちの食い扶持稼ぎを最優先してるが、他の大見世、中見世などでも付き合いのある大名家や旗本・御家人の奥向きでの遊芸を行ったり諸芸や教養の教師として雇われたりしているし、小店や切見世の遊女を手伝いに雇う遊郭以外の店が出てきたようで体を売るということ以外での金を稼ぐ手段が増えてきてるのは良いことだ。


 もちろんこれは俺が望んでいたことだし、結果が出てきているのは正直嬉しい。


「後は俺の代わりに見世を統括できるやつをもっとそだてないとな」


 小見世を熊に任せてみたり、西田屋には三代目に人事権を戻してみたりしたが四宿の統括もするとなれば吉原の統括代行も必要だ。


 三浦屋なり玉屋なりにやらせてみてもいいんだが正式に三浦屋個人にやらせると吉原の乗っ取りとか企みそうでちょっと心配なんだよな。


「玉屋を見張りにさせれば大丈夫だとは思うけどな」


 それはともかく夏には島原の太夫たちと囲碁勝負をするわけだから碁の腕を磨かせんとな。

 いまのままでは藤乃が吉野太夫に勝てるようには思えん。


「とは言え俺は藤乃よりより弱いしな……とりあえず藤乃と直接相談してみるか」


 俺は藤乃の部屋に向かった。


「おーい、藤乃はいっても大丈夫か?」


 中から声が戻ってくる


「大丈夫でやすよ、どうぞ入りなんし」


「じゃあ、遠慮なく邪魔するぜ」


 実のところ平安時代では囲碁は女性の教養とされていたのだが、現在では公家や大名などと対局する機会がある大店の太夫くらいしか女性で囲碁を行うものはいなかったりする。


「なあ、藤乃、島原の連中と囲碁でやりあって勝てると思うか」


「現状では難しいかと思いんすな」


「だよな、どっかの囲碁の家元とかに教わるとかしないとやっぱ難しいか」


「わっちもそうおもいんすな」


 となるとやっぱりお武家様を通じて家元にコネを作るべきか。


「んじゃあ、水戸の若様とか会津の殿様とか家元に縁がありそうな方に手紙を書いて仲介をお願いしてみるか」


「あい、それがよろしんすかと」


 そして後日、水戸の若様経由で藤乃に碁を叩き込むべく本因坊道悦を送ってくれたのであった。


「うむ、はなしはきかせてもらったぞ。

 吉原が京の島原に負けっぱなしというのは武士の沽券にもかかわるゆえ、必ず勝つようにせよと父上もおっしゃられている」


 水戸の若様がそういうと本因坊道悦もいう。


「私が教えたにも関わらず負けたなどということになれば本因坊家の名折れとなります。

 絶対に勝っていただきますぞ」


「あい、わかっておりんすよ」


 この日から本因坊道悦による碁の特訓が開始されたのだった。

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