餅つきが終われば吉原遊郭も休みだ、というかそろそろ休んでもいいよな

 さて、浅草の観音市もおわって12月19日、俺は三河屋の見世のみんなを集めていった。


「お前さん達。

 今年一年ご苦労さんだった。

 今年の張り見世は今日で終わりにする。

 明日からは年越しの準備に専念するぞ」


 藤乃が首を傾げて聞いてきた。


「こんなに早くから店仕舞いしてもええんでっか?」


 俺はその言葉に頷く。


「いいんだよ、今年はもう十分皆働いたろ。

 後はゆっくり休もうぜ」


 藤乃が頷いていう。


「まあ、若旦那がそういうならわっちらはむしろ有り難いでやんすが」


 俺はその言葉を聞いて一応、言っておくことにした。


「まあ、予約が入ってるやつは揚屋で客をとっても構わんぞ」


 藤乃を始め他の遊女たちも首を横にふる。


「いやいや、わっちらもやすみますがな」


 その様子に俺は苦笑していった。


「まあ、そうしておけ。

 みんな休めるときに休んだほうがいいぜ。

 あと来年は八日から初見世だ。

 その代わりに大晦日と来年2日に吉原歌劇場で催し物をやるけどな」


 やはり藤乃が首を傾げて俺に聞いてきた。


「一体何をやるんでっか?」


 俺はそれに答える。


「ああ、大晦日は歌劇場で大見世対抗の歌合戦。

 年明けは羽子板や競技歌留多の大会をやるぞ」


 それを聞いて遊女たちは顔を見合わせた。


 しかし藤乃は面白そうに笑う。


「なるほど、それも面白うござんすな」


 それに俺は頷く。


「だろ」


 まあ、俺もいい加減まともに連休取りたいしな。


 もともと風俗で働いてる時は休みは週に1日で年末年始もそれは変わらなかったりするからなれてるっちゃ慣れてるが。


 とりあえず遊女には危険日や生理休みを作ったから月に8日程度は休みがあるが、俺や若い衆の休みは実質無いに等しい。


 実際3月に俺がこの時代に来てからほとんど休んでないしもう休んでもいいよな?


 そして俺は吉原の総会で年末年始に催し物をすることを他の見世にも伝える。


「とりあえず三河屋と西田屋でやるのは確定だ。

 その他の店も参加してくれると有り難い」


 三浦屋はニヤッと笑っていった。


「おう、おもしろそうじゃねえか。

 その話乗ったぜ」


 玉屋も笑っていった。


「ああ、なかなか面白い。

 うちも参加させてもらうよ」


 木曽屋も笑う。


「うちだけ不参加じゃ逃げたと思われるだろうなぁ。

 俺も参加させてもらうぜ」


 俺も笑っていう。


「ははは、お前さんたちのりがよくて助かるぜ。

 じゃ、まずは大晦日の正午から吉原の劇場で歌合戦の開始と行こうぜ」


 三浦屋が笑う。


「おお、優勝はうち三浦屋の高尾がいただくがな」


 俺もにやりと笑う。


「そいつはどうかな?」


 他の見世の楼主たちもにやりと笑う。


 どの見世の楼主も皆見世の売上ナンバーワンである”お職”の太夫や格子太夫と言った太夫格の歌の技量には自信があるだろうな。


「ああ、太夫だけじゃなくて禿にも歌わせようぜ」


「まあ、それもいいかもな」


 太夫の歌合戦だけだとギスギスしそうだしな。


 そういった年末年始の催し物の大会の開催告知は劇場や美人楼などで行う。


 劇場は暖を取りに来ている町人なんかが結構いるし、そこから井戸端会議で広まっていくんじゃないかな、武家は年末年始はあいさつ回りなどで忙しくてこれないと思うが。


 そして翌日20日になると吉原でも餅つきや松飾りの飾り付けが始まる。


 大見世や中見世では自分たちで餅つき道具を用意して見世前で掛け声ををかけながら若い衆が餅をつき、遊女たちが餅をコネて鏡餅などを準備する。


 小見世や切見世は馴染みの米屋に引きずり餅を頼んだり何件かの店で共同で餅をついたりしてる。


「よいさ」


「はいはい」


「よいさ」


「はいはい」


「よいさ」


「はいはい」


 店先で飯炊き女がもち米を蒸し上げて、それを臼に入れて若い衆が餅をつき、遊女が餅をこねたり、つきあがった餅を、他の遊女が鏡餅にしたり、できた鏡餅をそれぞれの部屋に運んだりしている。


 禿はお茶や握り飯などを台所から運んできて、餅をついたりコネたりしているものたちに差し入れをしてりしている。


「おつかれさんでやんす。

 差し入れでやんすよー」


「おお、ありがてえ。

 ちょっくら一休みするか」


 そんな感じで皆和気藹々と餅つきをしている。


 三河屋のほうが終われば小見世の餅つきをやって、その後は若い衆と一緒に切見世の餅つきもやってやる。


「ああ、もちつきをやってもらえるんはありがたいですな」


 切見世の遊女たちは嬉しそうだ。


「まあ、お前さんたちも今年頑張ったしな」


 三河屋の次に面倒を見ることになった連中だし俺も感慨深いぜ。


 そして、この日は遊女から二階番や見世番などの自分に関わっている若い衆に対し祝儀として衣服を贈るんだ。


「お前さん達いつもありがとうでやんすよ」


「へえ、藤乃の姉さんこちらこそありがとうごぜえやす」


 その他の若い衆に対しては俺から服を贈る。


「お前たち、今年中よく頑張ってくれたな。

 来年もよろしく頼むぜ」


「へえ、ありがとうごぜえやす」


 そして昨日宣言したとおり今日から来年の8日までは張り見世はやめて見世は休みになり正月の準備はするが仕事は休みだ。


「やれやれ、なんだかすごく久しぶりにのんびりできるな」


 妙が笑っていう。


「本当にご苦労様でした。

 たまにはのんびりと心と体を休めてくださいな」


 まあ、何もせずに何も考えずのんびりするのもたまにはいいものだよな。


 まあ、25日には歳暮の付け届けをしたり、大晦日には歌合戦が有ったりするから完全には休めねえが、店が休みだと気分は楽だな。

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