廃業した大見世の後始末・その建物を内湯のある旅籠にしようか
さて、吉原の総会で料金や中見世以下では時間単位での切り回しをきっちりやることで今までのような振りや振り廻しなどは行わせないように決めた。
これは大見世と中見世以下とをはっきり分けるという意味もあるが実質的に名目の代金で昼見世と夜見世一人ずつでは全然稼げないので回しをせざるをえないので、現実に即した形に変えるという意味合いもある。
もちろん客から金をもらっておいての振りや振り回し、同時に客を取る廻しと言った行為は店側の信用を損なうからやるべきではないがな。
俺が廃業に関する書類などを片付けていると、妙が茶と茶菓子を持ってきてくれた。
「お疲れ様でした。
総会の方はうまく行ったようですね」
俺はありがたく茶を受け取ってそれを呑み、その後頷いた。
「まあ、後は各見世が通達をきっちり守るかどうかだが」
妙は首を傾げた。
「そうですね、でも大見世でも廃業しているとあれば守らざるをえないのではないでしょうか?」
俺は頷く。
「そう思いたいところなんだがな。
実際に各自が通達をきちんと守るかどうかの問題だが通達を守らない見世は悪評が噂で広まって結局潰れるだろう。
二代目西田屋のやり方をしていた大見世が結局廃業したようにな。
楼主については正直世間を甘く見すぎだと思うから彼らについては同情もしない」
「しかしとりあえず見世の遊女たちを何とかしてやらんとな」
「そうですね、行先がないというのは可愛そうです」
廃業した大見世の遊女たちは大見世で引き取ろうと考えていたのだが、実際はこれ以上引き取れる余裕はあんまりないようだ。
「なら仕方ねえ、一つ大見世を立ち上げるか」
「大丈夫なのですか?」
「まあ、大丈夫だろう」
結局廃業した大見世ではたらいていた遊女については格子太夫はそれぞれ二人ずつ、合わせて4人いたので三河屋と玉屋で一人ずつ迎え、それ付きの新造、禿についても三河屋や玉屋で抱えることにした。
「はああ、三河屋さんに来れるなんて わっちは幸運ですわ」
「おう、これからよろしくな。
お前さんはこれから菫(すみれ)と名乗ってくれ」
「菫ですか、いい名でありんすな」
菫も混じって飯を食うようになったが、その献立内容に最初驚いてその後喜んで食べたのは言うまでもない。
「ああ、こんなに沢山おまんま食えるなんてうれしいですわ」
まあ、いくら格子太夫でも客が来なきゃ飯もろくに食えなくなるもんな。
しわ寄せはいつも雇われる方だ。
それとは別に十字屋という名前の大見世を1つ立ち上げて、建物は廃業した見世の建物を使うようにして、残りの二人の格子太夫を十字屋の遊女頭に据えて、格子や若い衆、針子などの下女の半分ほどもそこで働かせることにする。
留袖新造や残りの格子や下女は希望者は万国食堂や吉原歌劇で働いてもらったりもするが、残りは中見世に引き取ってもらおうと思ってる。
若い衆についてはかわいそうだが解雇だ、まあ男は仕事を見つけるのは難しくないはずだしなんとかなるだろう。
置屋や揚屋には部屋数の制約がある以上雇える遊女の数にはどうしても制限があるのだよな。
三河屋について言えば、生理休みや危険日休みなどで遊女の休みが多くなったからそれを補うために数を増やす必要は有った。
玉屋は鈴蘭と茉莉花を俺に売ったから格子太夫がタダで手に入って有り難い様子だな。
「しかし、せっかく大見世に入って稼げるようになったと思ってたならかわいそうだが仕方ないよな」
とは言え、大見世に入れれば稼げるって時代じゃなくなってきてるのも事実だ。
粋だ野暮だと言っていても悪い感情を持てば客が離れるのは自明だしな。
これからは町人客も増えるだろうし中見世のほうが稼げるようになるかもしれないな。
さて、廃業した大見世の置屋と揚屋の一つずつは新しく立ち上げた大見世のために使うとして、もう一つずつは余ることになる。
「ただ壊したりするのももったいねえし、昼間は宴会が可能な茶屋、夜は旅籠の建物にでもするか」
中見世や小見世、切見世は切り回しにする以上一番最後に入った客は町の木戸が閉じる時間になっちまうやつもいる。
勿、武士が夜に町中をうろつくのは許されないから、基本は昼見世か夜中であれば泊まっていくのが普通なわけだが、町人に対しても最近は少しうるさくなってる。
遊女と一緒に寝るというのは、遊女がしっかり寝られないという意味もあって、宿泊料は別途で貰う形にしたがその金額は安くない額にしてある。
ちなみにこの時代にはラブホテルの元祖である出会い茶屋というものが有って、男と女がデートをたのしむ貸座敷なんだが、男女が二人で一緒に入る場合もあるし、一方が先に来て待ち合わせる場合もある。
部屋には2つの枕を並べた布団が敷いてあり、大抵は池のほとりに建っていて個室からはきれいな池が望める様になっている。
上野の忍ばず池あたりにはこういった茶屋がいくつかある。
21世紀と違い男女が一緒に楽しむとなると芝居小屋などぐらいしかなかったのでそういったものを見た後で出会い茶屋に入って楽しんだりしたわけだ。
まあこういうのはたいがいは、親の許しのでない男女や不倫する人妻、浮気する夫など公然と一緒にはいられない連中が使うものだが、吉原の中ならまあ目立たなくもあるわな。
「もう少し安い金額で気軽に泊まれる場所があったほうが町人も安心だろうしな」
というわけで廃業した大見世の置屋と揚屋を宿屋にして比較的安く宿泊できるようにすれば町人が夜遅く遊ぶ時に帰れなくなっても安心というわけだ。
「値段は一部屋一泊朝食付きで200文(おおよそ5000円)、朝食なしなら一部屋100文(おおよそ2500円)かね」
妙が俺の言葉に答える。
「はい、それならいいのではないでしょうか。
旅籠などの価格もそのくらいのはずですし」
俺はさらに付け加える。
「内湯に入るなら追加で100文、更に女に背中を流してもらうなら追加でさらに1000文ってとこか」
それを聞いた妙が苦笑した。
「それですとそれが目当てに来るお客さんとかもいそうですね」
俺も苦笑する。
「ちげえねえ」
この時代湯船のある内湯と言うのはかなり貴重なので料金も高めにしたが、ついでに権兵衛親方にスケベ椅子もしくはくぐり椅子と言われてるソープ用の椅子でも作らせてみるかね。
案外流行るかもしれねえな。
結局廃業した大見世の下女や若い衆の一分もなどはここで働かせることができそうだ。
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