詩『友よ、馬鹿者となれ』

 もうすぐこの地は馬鹿者で溢れることでしょう。 


 自身の二度とない未来を、ただのシステムとしてのそれに、まるで使いきりの潤滑油のように流されていくことをただ幸いと願う馬鹿者たちで。


 もちろん世間は馬鹿だけではない。 利口な者も小利口な物も居る。


 そしてその馬鹿者達の中にも素朴で純粋な者達もいるでしょう。


 だが馬鹿は馬鹿ゆえに影響力が高く、また後先を考えないのでその馬鹿に染まらぬものを迫害、あるいは害を与えるために徒党を組むことであろう。


 友よ、我が敬すべき友よ。 馬鹿者となれ。


 君が君自身の命と生活を守るために、一時の間、馬鹿者となり、その者達の中に埋もれなさい。


 小利口な者こそ、大きな理想を掲げ、正論を口ずさんで馬鹿者達を扇動する。


 しかしながら小利口はその小癪な利口さゆえに自身の利を巧みに隠し、込めてその薄っぺらい言の葉を存分に吐き出すだろう。


 そして馬鹿者達はそれに乗せられ、なぜそうなってしまったのかを深く考えずにその波に乗るであろう。


 人は生活の過酷さに応じて知性を無くしていくのが条理だ。


 それもまた人ゆえであり、愛しく、そして愚かしいことである。


 だが友よ、君はそれに簡単に乗せられはしないだろう。


 その誠実さゆえに人を信じ、奔走するかもしれないが戦局は甚だ劣勢である。


 非難の雨に対峙することなどない。 


私が願うのは君が大樹の下の一人の大衆に偽装することだ。


 君は私を軽蔑するだろうか?


 それとも罵倒するだろうか?


 あるいはこの悲観主義者めと袂を別つだろうか?


 それでもよい。 それでも良いのだ。 


私が友好を感じ、友と呼ぶ君の命が長らえるのならそうなっても良い。


 この馬鹿騒ぎの結果がどうなるのかはわからない。


 皆が皆、ぼろきれを羽織り、かつてのように余所者たちにコビを売りながら日々の生活を長らえていくのだろうか?


 それともますます増長して、小利口な者達にさらに踊らされることになるだろうか?


 いずれにしてもやがては揺り戻しが来るだろう。


 そのとき、そのときこそが友よ、君の出番だ。 


涙を流し、怒りを肥やしに芳醇に拵えた君の言葉で今を叫べ。


 だが忘れるな友よ、君が丹念に情熱的に向き合おうとすればするほど、小利口な者達は身を翻して今度は君達の味方をするであろう。


 そのときには決然と、きっぱりと擦り寄らせず、ただ決然と非難せよ。


 でなければ君もまた別の形の馬鹿者そのものとなるだろう。


 もはや朝焼けは夕焼けとなりつつある。 


 私の居ないその先が友の手によってまた朝日が昇ることを、朝露の一滴に等しい私はそれを切に願うのだ。

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