詩『かつての最愛の人よ』

 あなたのその柔らかい手に指を絡ませた時


 あなたのその小さく暖かい身体に抱きしめられた時

 

 私は私という存在を初めて優しい目で見つめることが出来ました。


 あなたは私がかつて愛した人。 それゆえにもはや交わることの無い線と線。


 あなたのその少し高い声を耳元で聞き、


 あなたのその肌に自身の手の甲を滑らせるのが大好きでした。


 けれど私とあなたは運命的とも言える様々なことを乗り越え、そしてまた運命的な結果によって離れることと相成りました。


 それでも良いのです。 それで良いのです。


 私は私を止めることは出来ず、あなたはあなたをやめることはできない。


 強く編まれ結ばれた最後のひとかきは決定的なまでにズレていて、それに気づくことが出来たからこそのいまの私なのですから。


 あなたよ、今は遠き地で別の誰かと住まう君に幸あれ。


 私よ、今のこの薄汚れた部屋で一人ボンヤリと思索にふける私にはせめて才あれ。


 ただ、ただ、あなたと過ごしたこの部屋で過去とこれからに向き合いながら、悲しみとも喜びにも似たこの感情をくれたあなたのこれからが幸いに満ち、そして二度と私達が出会わないことをここに願う。

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