温泉地にて

 準備をするといっても、1日分の着替えを持っていけばいいだけだったため、さほど準備に時間はかからず、今日に備えて、昨日はゆっくりでき、今日になる。

 陽菜と朝ご飯を食べ、準備が早く終わった俺は着替えが入ったバッグを持って玄関に向かう。


「陽菜。そろそろ行くぞ〜?」

「はーい!」


 陽菜の服装を見ると、この前俺と一緒に買いに行った時の服を着てくれていた。


「その服、着てくれたんだな」

「はいっ! 初めてはパパって言ってたじゃん! だから、今日着てみたよ!」

「確かにそうは言ったが、別にいつもの買い物行く時にでも着れただろ?」


 いつも買い物行く時は部屋着用として買った服か制服だったため、疑問に思った。


「確かにそうだけど、近い場所の買い物くらい、楽な格好で行きたいじゃん?」

「それもそうか。近くのスーパーに行くだけだもんな」

「はい!」

 女子なら近場でも着替えるもんだと思ってたが、案外そうでもないんだな。


「んじゃ、そろそろ行くぞ。電車の時間に間に合わなくなっちまう」

「そうだね!それじゃ、レッツゴー!」


 そう言って陽菜は俺の腕を組んで引っ張ったため、少し転びそうになる。


「ちょっ、自分で歩けるから。そんな腕引っ張るなよ」

「ご、ごめんなさい」

「おう。気をつけてくれよ?」

「はい!」


 俺が怒ると引っ張るのはやめてくれたが、腕を組むのは解いてくれないみたいだ。いつもの事とはいえ、一方間違えれば警察沙汰になっちまうよな。主に俺が。どうしたもんかな。


 なんとか時間内に駅に着くことができ、ほっと一息つく。

 家出るの後20分くらい遅かったら間に合わんかったな。次の電車でも行くことはできるが、早く行ってゆっくりしたかったため、間に合って本当に良かった。


「パパ。楽しみだね!」


 電車が乗ってしばらくしてから、唐突に陽菜が口を開いた。


「そうだな。温泉なんてここ何年か行ってなかったしな」

「お肌綺麗になるかな?」

「なるんじゃないか? って、今のままでも十分なくらい綺麗だし、さほど変わらんか」

「あ、ありがと。でも、全然綺麗じゃないよ?」

「高校生が何言ってんだよ。まだ若いんだから、悩む問題でもないだろ」

「若くても、悩むものは悩むの!」

「そ、そうなのか」

「はい!」


 うーむ、俺的には今のままでも十分綺麗だと思うんだが。それに肌も白いし。やっぱ女はわからんな。


「パパはもっと女性のことを学んだ方がいいよ!」

「お、おう。といっても、ほんとのことを言ってるだけなんだが。俺は陽菜の肌は十分綺麗だと思う」

「そ、それは嬉しいけど、女性はみんな肌のことでも悩んでるのっ! 少しでも綺麗になりたいって思うもんなの!」

「そ、そうなのか。なんかごめん」

「わかってくれればいいんです」

「おう」


 気にしすぎるのも俺的にはどうかと思うがな。そもそも肌の何が気にくわないのかもよくわからんし。俺が男だからってのもあるか。


「女の人はみんな化粧してるでしょ?」

「確かにみんなしてるな」

「それと同じだよ!」

「何が?」

「肌を綺麗にしたいって思うのは! 化粧するのは綺麗になった自分を見て欲しいからであって、肌も綺麗になったのを見せたいの!」

「陽菜もそうなのか?」

「そりゃーね。私も綺麗な姿を見てほしい、かな」

「俺は今の陽菜がいいけどな。変に化粧するより全然いいと思うぞ? って俺の意見は関係ないか。見せたい相手の意見じゃないとな」


 陽菜にもそういう相手ができたんだなと嬉しか思うのと同時に少し寂しくもある。これが娘に好きな子ができた時の親の心境なのかと、親にもなったことない俺が思うのであった。


「見せたい相手は、パパなんだけどね」


 ぼそっと言われたため、隣にいるにもかかわらず聞こえなかった。まぁ俺が気にすることでもないか。


 電車に揺られること2時間。やっと目的地のところに着いた。

 電車から降りると、腕を上げ背伸びをする。やっぱ2時間くらい乗ってると疲れるな。これは早く温泉に入って癒さねば。


「パパっ!次はバスだよね? 早く行こっ!」

「それもそうだな。バスが終われば歩いてすぐの所に宿があるからな」

「早く着いてお風呂入りたいな〜」

「そうだな。俺も早く入りたいわ」

「はい!」

「んじゃ、行くぞ〜」


 バス停につき、何分か待っているとバスが来た。それに乗り込み席に座る。

 席に座れたのはラッキーだったな。座れないことも覚悟してたからよかった。


「席に座れてよかったね!」

「そうだな。座れないかもしんなかったからな」

「そうですね!」

「まぁ20分くらいだから立っててもよかったんだがな」

「それもそうですね」

「おう」


 その後も色んな話をしていると、あっという間に到着した。

 バスから降り、歩いて宿に向かう。と言っても、ここからは5分くらいでつくから、もう目的地に着いたも同然だ。

 やっと一息いれれる。なんだかんだで疲れちまったからな。とりあえず休みたい。

 っと、その前に昼飯を食べないとな。腹減っちまったしな。


「陽菜〜。飯でも食ってからいかね? もう昼時だし、この辺観光しながら飯屋でも探さないか?」

「それもそうだね!実は私、結構お腹空いちゃってて」


 てへっとしている陽菜を見ると、やっぱり高校生らしくて可愛いなと思ってしまう。俺が同い年なら、今のでも恋していただろう。なんなら告白までして振られていただろう。


「そんじゃ、行くか」

「はい!」

「と言ってもどこが観光名所なのかわからんけどな」

「た、確かに。どうします?」

「なら、この辺をいろいろ見て回りながら、飯屋入るか」

「そうしますか! 今回は温泉が目的ですもんね」

「そうだな」

「なら、早くいこっ!」

「おう!」


 その後はいろいろな所を見て回った。お土産屋さんに入ったり、昼飯を食べたり、近くの神社を見て回った。写真なんかも沢山撮った。ツーショットを撮りたいと陽菜にいわれ、身体をくっつけながら撮ったりもした。


「色んなところ見れて、楽しかったよ!」

「そうだな。そんじゃ、そろそろ旅館に向かうか」

「そうだね! 1日の疲れを早く温泉で流したいよ〜!」

「ああ、そうだな」

「はい!」

 ちょっとした観光を終えた俺たちは旅館に向かって歩き出した。





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