ゴールデンウィーク前日

 水原さんとご飯を食べた日から1週間ほどたち、明日からはゴールデンウィークに突入する。久々の長い休みのため、俺は仕事中、度々ニヤついていた。


「秋本。そんなにニヤニヤしてると、気持ち悪いぞ?」


 隣から野田が冷めた目で俺を見たくる。

 だが今日の俺はなんと言われようと気にしない。


「うっせ。明日からゴールデンウィークだろ? 仕事しなくていいと思うと、嬉しさが顔に出ちまうんだよ」

「そういや毎年この時期になると秋本はニヤニヤしてたか」

「まぁな。休みがあるってのは誰だって嬉しいだろ?」

「確かにな。と言っても、家にいても1人だから落ち着かないし、こうやって仕事してる方が俺はいいかな」

「野田はわかってないな。休みがどれだけ貴重なものなのかを考えた方がいいぞ?」

「そんな大袈裟な」


 野田は少し困ったような素振りをして俺の方を見ていた。

 どうしてわかってくれないんだ。ずっと家でゴロゴロできるんだぞ? 最高だろ。


「長く寝れるんだぞ? 何時に起きてもいいんだぞ? 最高じゃないか?」

「確かにそうだけどさ。ってあれ? 陽菜ちゃんとどっか出かけたりしないの?」

「今んとこなんの予定もたててないけど、もしかしてまずかった?」

「いや、まずくはないだろうけど、どっか連れてかないのか? 秋本が言うように長い休みなんだぞ? 遊びに行く日くらいは何日か作らないと」


 野田に言われて気づいた。

 陽菜がいるとはいえ、ごろごろして休みを過ごそうとしてたからなぁ。やっぱそれじゃダメだよな。と言っても、どこに行けばいいかなんて俺にはさっぱりわからん。


「確かに、それはそうだな。って言っても、どこがいいと思う?」

「うーん、ちょっと遠い所に行くのもありだと思うし、遊園地とかでもいいんじゃないか? まぁ陽菜ちゃんに聞くのが1番手っ取り早いとは思うが」

「それもそうだな。帰ったら陽菜に聞いてみるわ」

「それがいいと思うよ」

「だな」


 野田と話し終えた後、仕事が終わる時間までずっとどうしようか考えていたが、結局遊園地以外、何も思いつかなかった。





 最近、残業続きであまり早く帰ることができていなかったため、今日は早く帰れる事に少しホッとする。


「ただいま」

「おかえりなさい! 今日は早く終わったんですね!」

「まあな」

「ご飯にします? それともお風呂にします? それともわ・た・し?」


 よくドラマとかであるような、鉄板ネタを言われるとは思ってなかったため、少しビクッとした。

 ったく、どうしていつもいつもびっくりするような事を言ってくるんだよ。


「な、なぁ。どこでそれを知ったんだ? というか、それを使っていいのは結婚した人や、恋人同士だけだぞ?」

「えっ? そうなんですか?」

「当たり前だろ。むしろ最後のやつ選んでいいのは恋人からじゃないとダメなやつだからな?」

「なんで? パパには私を選んでほしかったのに」


 なんか悲しそうな顔をしている陽菜だが、普通そこは悲しむ所じゃないだろ。

 というか、そういう問題じゃないだろ。


「もう少し自分を大事にしてくれ。それに、そーゆーのは、大人になって恋人できた時に言ってやれ」

「はーい」


 陽菜は渋々理解してくれた。

 陽菜はガードが緩いのか? 誰かに誘われたら一瞬でホテルとか行きそうで心配なんだが。もう少しガードが固くなればいいんだが。


「そういや、明日からゴールデンウィークだろ? どっか行きたいところとかあるか?」

「うーん、温泉に行きたいな!」

「温泉かぁ〜。温泉って言っても沢山あるし、どこの温泉に行きたいんだ?」

「草津温泉とか?」

「草津温泉かぁ〜。確かに、いいかもな」


 旅館で美味いご飯でも食べながら、のんびりするのも悪くないな。なら、1泊くらいしてもいいな。

「お泊りもしたいなぁ〜」

「旅館に泊まるか。美味い飯でも食べながら、ゆっくりしようぜ」

「でも、それだと結構お金かかっちゃうんじゃ」

「金の心配はすんな。せっかく温泉に行くのに日帰りだと落ち着かないだろ?」

「そ、それはそうだけど」

「なら気にすんな。っと、どっか予約できるか電話してくるわ」

「なら、先にご飯の盛り付けとかしときますね」

「おう」


 陽菜との会話をやめ、電話をかける。この時期に予約できるかどうかは微妙だがな。


「もしもし、銀みなみですか? 秋本って言います。予約を取りたいなと思いまして」

「予約ですね? 何名様ですか?」

「2人です」

「わかりました少々お待ちください……明後日なら、一部屋だけですがキャンセルがあったので空いてます。どうしますか?」

「ならそれでお願いします」

「わかりました。予約しておきますね」

「ありがとうございます。それでは」

「はい」


 電話を切った俺は、ふーと一息つく。

 危なかった。キャンセルがあったお陰で予約とることができたぞ。

 まぁ普通は何週間か前に予約とんないといけないんだが、今回は運がよかったな。

 一部屋しか取れなかったがまぁ大丈夫だろ、と考えながらリビングに向かった。


「パパ。どうだった? 予約とれた?」

「おう。一部屋だけだがな。なんとかとれた」

「ってことは一緒に寝れるね! それに部屋にお風呂付いてたら一緒に入れるね!」

「あほか。なんで一緒に風呂入る気満々なんだよ」

「えへへ、でも、温泉だよ?」

「温泉だからどうしたって話だ」

「混浴とか最高じゃない?」

「何言ってんだよ。そんなこと言うようなら温泉なしにすんぞ?」

「えへへ、冗談だよ。パパ以外の他の人に肌なんて見せたくないしね」


 最後の方が声が小さく聞こえなかったが、どうせまた変なことでも言ってたのだろう。

 ほんと、どんだけ変態なんだよ。男の俺もびっくりだわ。やっぱ、女子の方が男子よりも6倍変態っていうのは本当だったんだな。


「ならいいが。明後日だから、準備は明日するか?」

「そうだね! 楽しみだなぁ」

「そうだな。温泉なんて何年も行ってなかったからなぁ。楽しみだ」

「はい!」

「そんじゃ、飯食うか」

「そうだね。もう腹ペコだよ!」

「ははっ、俺もだよ」


 色々な事を話しながらご飯を食べた。

 その日の食卓は、いつもよりも賑やかだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る