第044話『どれいたいこく 3』
「……え。着いたのか?」
あのピンク空間でティアはぐっすり眠るもの、俺は一睡もできなかった。
………いっそ船のデッキで寝れば良かったと思うぐらいに眠い。
そのせいで今朝から元気が無いが、これでも驚いているのだ。
船が止まった先にはテーマパークの様な明るいゲート。………何か奥で観覧車が回ってるし………。
「まさに遊園地、ですね………」
「………テンション低い時に、こりゃキツいわ………」
到着したのは翌朝。
………しかしながら街はライトや曲がガンガン流れ、五感全てに悪影響を及ぼしそうだった。
事前に身支度を終えていた俺たちがデッキで降りる順番街をしていると、何故かニコニコしながらディルソードが近づいてくる。
「お気づきかと思いますが、この客船の方は全て観光客であり、"子供のみ"なのです」
『これが我が国の売り!』と言わんばかりな商品紹介番組のレッテルのような意気込みだ。 相当好きみたいだな、この国が。
たしかに見渡す限り大人の姿は無い。
――――四方八方子供たちだった。
「この国の国王とかも子供だったり………?」
何気ない質問をしてみる。
「いえ。国王様は大人です。 しかし奴隷大国新建国者故、国民からは好かれております」
………へぇ、新国樹立からまだ数年。
――――そして今までの反応からするに以前よりかなり改革されたようだ。
才能のある権力者なら貧乏会社を超有名企業に仕立てしまうものもいないことは無い。………しかし今回の件は『偏り過ぎ』なのだ。
なにせ"絶対小児制"という子供限定の国を作るのは不可能だからだ。
――――政治の歯車とも言える『大人』を出し抜いて子供が動かす政治など認められるわけがないのだ。
つまり新国王は才能的統治力ではなく何らかの『能力』を使い、この国を変えた――――――そう考える他ない。
………なかなかに深いじゃないか、俺たちの冒険。
そして流れるままに国の入口たるゲートに着くと、受付の人が立っていた。
………しかし、その人は子供ではなく大人の男性――――――
「………ディルソードだ。この二人は僕の客人でね。 特別客のゲートを開けてくれ」
「―――――ッ?! か、かしこまりましたッ」
ディルソードが人声かけると男性は急いで別ゲートを解放し、俺たちを通してくれる。………これが顔パスってやつか。
「(………なるほど。事前にシグルドさんやティアに聞いていたが、本当に大人は奴隷扱いなんだな)」
俺たちを通した後の男性の顔は恐怖に押し潰されそうな青ざめた表情で震えていた。
………遊園地とはいったものの、そんな楽しい雰囲気ではなさそうだなこれ。
「なぁディルソード。 お前はこれからどうするんだ? てかお前………ティアを捕えないまま国に戻っちゃってよかったのか?」
「いえ、ご心配なく。僕はこのままこの国の警備に戻ります。基本、国王は不在ですのでじっくり対応策を考える時間はありますので」
常に国王が不在って………。
まぁ、そんなことよりだ。
つまり国王がいない今、俺たちがやれるのはこの国の下調べ程度、ってわけか。
………だがそうなるとディルソードは――――――
「結局、戦うことになるんですね」
ティアが鋭くディルソードに言葉をぶつける。……まぁ実際、最善の対応策をとっても命が助かるぐらいだろうからな。結果的にまた俺たちと対立することになり得る。
そして少し黙りをしたディルソードだったが、こちらに向かって笑顔を浮かべる。
「ま、まぁ。 み、ミレアさんはその…………ですのでッ!! だからこうして国の下調べをしてもらい、ハンデというかそういうのを与えようと思っただけですっ!!」
………いや、そこはモジモジせず、かっこよく言ってもらいたかったところだが、こいつなりに正義を貫いているんだろうな。 ………ったく、そんな善意のある奴がなんでこんな国なんかの犬な成り下がっているんだろうな。
――――ま、そんなわけで勇敢な彼にご褒美をあげようかな。
「………やさしいのね。貴方」
「いやその―――――ひぇっ?!」
俺のいらやしい手つきでディルソードの顎を撫で回す。
そばにいたティアの顔は爆発しそうなぐらいに赤面していた。
………ご褒美はまだまだあるぞ?
俺はディルソードの耳元に近づき、そっと呟いた。
「………君の股間に、"
「あ、あのっ、これ以上は――――――え?」
そして最後のご褒美に取り掛かるため、両手でディルソードを突き放し、背中に担いでいた聖剣を振り上げ、ディルソードの股間を――――――
「―――――うりゃぁぁぁぁはっはっはぁぁぁあ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!」
周りの目など気にせず、俺は狂ったように笑い、ディルソードは生々しい雄叫びを上げ、地面に突っ伏した。
そんな倒れ込んだディルソードの傍に座り込み、悪魔のようなニヤつきをする。
「女の子に股間刺激されたんだぜ? もっと喜べよ、な??」
「………あ、悪魔ですねミレアちゃん」
さすがのティアでもここら辺の知識はあったらしく先程からずっと顔がオーバーヒートしっぱなしだった。
そしてなにより、あたりに野次馬を作る純粋無垢な心を持った子供たちの視線が何より痛い。
銀髪美少女たる自分が『聖剣』を『性剣』として扱ったことを少し後悔しました。
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