セルベリアの冒険

第040話『せるべりあのぼうけん side︰セルベリア』

 ―――――我は今、魔法士………いや、ゆうしゃが一度は夢見る魔王城の前に立っている。



「我の実家なので、じっさい里帰りみたいなもんじゃが」



 まず、魔王城に続く扉を開くにはゲート付属の電子版にパスワードを入力しなければならない。


 因みにこのパスワードは各国の市場で配られるチラシの裏に記されているため、かなり知れ渡っている。これらはレギオスの趣味という名の遊び心であるが、毎度"こうこくりょう"?とやらが発生し、無駄な出費が出て困っておる。

 

 手馴れた動きで20ケタのパスワードを入力し、扉を開く。



「………レギオスのしゅみにはこまったものじゃな」



 まったく、レギオスは各国の風潮に流されやすいやつなのじゃ。


 色々と趣味が変わるヤツではあるが、和風な物は未だに好いているようじゃ。ま、我も気に入っているが。


 魔王城のエントランスに入ると、目の前に巨大な階段、そしてその脇に二つの廊下。


 因みに魔王城を訪れた勇者たちが迷わぬよう、最終決戦の間までの城内図を入口にストックしておるのじゃが、



「もうすぐストックが切れそうではないか。 しかたない、我が刷っといてやろう」



 我は残り一枚となった城内図を手に取り、隣に設置してあるコピー機を使い、城内図を量産した。


 休日はバイトの魔族たちがいないため、魔王城運営はかなり大変なのじゃ。








 ♢








 我はさっさとみれあとてぃあの元に向かうためレギオスをちゃちゃっとぶっ殺さなければならぬ。


 我は非常口を使い、罠部屋を全て抜ける。いちいち罠を避けるのも、設置し直すのも面倒じゃからな。

 

 殺風景な非常口を抜けるとそこはもう最終決戦の間じゃった。


 久しぶりに黒扉の前に立つ前に、我は再び発注書に目を通す。

 

 ………う、うむ。見間違いではないな。なら休日でも扉は開くはず――――――――



 ――――――ゴゴゴゴォ――――――。



 ギシギシと床を引き摺る音を立て、巨人族でも容易く入れる最終決戦の間の扉が開く。…………我は生唾を飲み、レギオスがいる玉座へと向かった。


 そしてゆっくりと歩き進めていると、玉座の前に見覚えのあるメイド服を目撃する。………間違いなくレギオスじゃ。


 雰囲気は最悪で身体全体から銀色の刃物をむきだしに、更に挑戦者を威圧する邪なオーラ。


 そんな久しぶりの緊張感に我の体も疼く。…………これは本来、我の魔王としての感情だ。



「――――――『無邪気な黒蝶イノセントロード』ッ」



 故に魔王の風格たる魔蝶を広げ、異空間ディメンションから大鎌を顕現させ、レギオスに斬り掛かる――――――ッ!!


 ………だが先読みしていたかのようにレギオスは大鎌のひと振りを華麗に躱し、左足の踵に仕込まれている刃で我の背後を取ろうとするが―――――



「………我に不意打ちバックアタックは効かぬわいッ――――――!!」



 これは我の特性『覇王の威光ハーシュオブ・ライト』。


 視界に入らぬ攻撃は全て魔法結界により守られる。………しかしあくまで魔法結界で防いでいるだけであり、破壊される可能性だってある。

 

 そう。例えばレギオスの魔法補助エンチャントが付与された脚力とかな――――――



「………お戯れですか魔王様ッ。 これも魔法士として必要な試練なのですね?」

「―――――そ、そうじゃっ。 だから全力でこいッレギオス!!」



 我に魔王としての熱が甦る。

 ………きっと今の我は年齢・性別を踏まえず殺意に酔いしれた狂った表情を浮かべているだろう。


 ――――そう、我も成長したところをレギオスに見せないといけないのじゃ。


 だから今日、我はレギオスをぶっ殺す―――――――――!!









 ♢






 

「………はぁ、魔王様。 全く成長していませんね」



 ………うっぷ……。

 

 我は敗れた。

 途中までは激しい剣戟の中、ほぼ互角、いや我がかなり有利な状態だったはず。………な、なのにレギオスは――――――



「たべもので釣るのは反則じゃぞッ!!」


 

「……そう言われましても。ほら魔王様、あるゲームでは魔王に回復魔法を使うと特大ダメージが入るような――――――」


「我はそんな旧RPGのラスボス設定じゃないわいっ!!」



 ………このゲームヲタメイドめ。

 何故かゲームで例えられるのは無性に腹が立つ。


 ……ま、まぁレギオスが持っていたバナナに釣られたのは事実じゃが。



「………これはクエスト失敗、ということですよね?」

「う"ッ……ぐぬぬ」



 そ、そうじゃった。

 われはただ里帰りするためにここに来たわけじゃないのだ。


 クエストが失敗なら失敗で良い、早くギルドに戻り、みれあとてぃあの元に行くのじゃ―――――――


 ………と、何事も無かったのように扉を出ようとするが。



「お、おいレギオスっ。 扉を開けんかいっ!!」

「………嫌でございます。 今日は良い機会なので――――」



 ………と、何の冗談だと思い、レギオスの方に向き直すと、手に一枚の写真が握られていた。


 それをレギオスから無言で受け取ると、我は早速写真の人物を確認す――――――――



「………"顔"が割れたか」

「――――はい。そのようで」



 我は写真に映る銀髪混じりの男を酷く睨みつける。


 ………奴隷大国『プレアデス』新国王『ソルベガ』。


 此奴もまたみれあたち・・同様、『別世界から来た転生者』。


 ………そして他の転生者の殺傷を行う"主犯格"。――――今ならまだ間に合うだろうか。


 不意にレギオスと目が合う。

 ………ほう、協力してくれるか。



「レギオス、魔王城を長期休暇に。 今すぐに奴隷大国へ向かうのじゃ」

「―――――はい。 仰せのままに」



 別に転生者を部外者とは思っておらぬ。

 

 ………だが、無闇にこの世界を荒らす不届き者を我は絶対に許さない。


 特にみれあとてぃあに危害を加える奴らは。

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