オバサンはワケアリだった。

第023話『てんせいごろし 1』

「なぁ、みれあっ!! そちらの世界はどんな世界なんじゃ?」


 聖堂内の一室。俺とセルベリアが同室で、ティアとソフィアが同室である。


 セルベリアは俺が別世界からの転生者だと分かると、目をキラキラと輝かせて、質問攻めの猛攻が始まった。

 …………仕方ない、我々の世界の素晴らしさを教えてやろう。


 俺は魔法陣を構築し、『生成魔法』を使い、以前に見せた我が世界の最高傑作"ドリンクバー"を生成させる。



「これは以前にみたことあるぞっ?」

「あぁ。ドリンクバーっていってな。好きな飲み物をワンボタンで注ぐことが出来る近代技術の傑作だっ!!」



 因みに動力源は俺の魔力。

 今俺が元の世界に戻ったら絶対歴史に載るだろう。きっと夏目漱石あたりの隣にね。


 ついでに説明させてもらうが、この世界の灯などは『魔混石』というもので機能させているらしい。 流石は異世界。非科学の塊で世界が成り立ってやがる。



 セルベリアはドリンクバーと睨み合っていた。………まぁ、俺の好きなドリンクしか取り入れていないからそりゃ悩むよな。


 ……あ、これ使えばビール飲めんじゃん。 俺天才ですね。



「なぁ、みれあ。 キラーデビルの生き血は無いのか………??」


「―――――え。まずそれ飲み物?」



 こうして、今晩はこの様な和気あいあいとした雰囲気で過ごすのであった。


 ………明日もこんな楽しい毎日が続けばいいと思うのは無理なのだろうか。

 悪寒がして止まなかったのだ。


 ――――きっと明日は悪い事が起きると。








 ♢









 ティアとソフィアが仲睦まじく本を読み、ミレアとセルベリアが和気あいあいと騒ぐ中、マリアは自室で灯すら付けず、静かにソファーに座っていた。

 

 ………まるで魂を失った死靈騎士アンデッドのように。



『どうだい、マリア。 銀髪少女御一行様はそちらにお泊まりになったかい?』



 走馬灯のように神官ジェドリアの姿が現れ、マリアにそう話しかける。



「えぇ。浴場に睡眠の遅延効果魔法の霧を撒いておきましたので、もう少し経てば眠りにつくはずです…………」

『………そうかいそうかい。――――で、あんたの娘さんはどうするんだい?』



 そうジェドリアに問われるが、今のマリアはソフィアの母では無い。


 ………ソフィアの母であるマリアはルクセント教会襲撃の時に死んでいる。


 今の私は死靈騎士アンデッド

 ジェドリアに忠誠を誓い、生者を死に還すために動くまで。


 ………マリアは暗い部屋の中、卑しく笑う。



「………構いません、殺して下さい――――」




 しかし、それは心無しの言葉である。





 


 ♢







 就寝前、セルベリアはあることに気づく。…………それは体に起こる違和感。



「どうしたんだ? セルベリア。はしゃぎすぎて疲れたか?」

「…………いや。 そんな愉快なものではないらしい様じゃ」



 セルベリアは魔力を使い、青色の魔法陣を足元に構築し、発動させる。

 

 ………すると、先程まで眠そうだったセルベリアはすっかり眠気を払っていた。―――――ただ、眠気を払ったわけではないようだな。



「…………説明してくれ。 何が起きてるんだ?」

「………そうじゃな。 どうやらしい浴場に遅延効果の睡眠魔法が張られていたようだ。 徹底しているな」



 浴場に睡眠魔法…………?!

 そ、それって―――――――



「なんで俺は眠くならないんだ?!」

 

「今はそこじゃないじゃろう…………。 それはあれだ、『しゅじんこーほせー』という奴じゃよ。 そういうことにしておくのじゃ」



 おぉ、他の人に主人公呼ばわりされると謎の自信が湧いてくるぞ。

 ………ならそれを真面目な方向に利用しないとな。


 

 浴場に態々睡眠魔法を張る。

 それは今晩、殺戮教会が強襲を仕掛けてくるということに間違いはないだろう。―――――いや、



「………既にこの聖堂に――――」

「だいたいの事情は掴めたようじゃな。 なら早速、てぃあたちを助けに行くのじゃ」



 ………そうか。

 あくまでターゲットは俺だが、同じ建物にいるティアたちにも危害を及ぼす可能性だって有にある。犯人探しは後回しだっ。







 


 ♢


 


 




 ティアたちの部屋に駆け込むと、何故かティアは眠っておらず、ソフィアだけがベッドに寝ていた。

 

 ………俺たちが息を切らしてやってきたことを察してくれたのか、ティアは『精霊の玉峰』を手にした。


 真剣な眼差し。

 もしかしたら気づいているのかもしれない。



「………ソフィアちゃんから聞いて気づきました、マリアさんは――――――」



 そう。

 俺たちもソフィアが眠りについているところを確認し、確信が持てた。



 元からこの聖堂は可笑しかった。

 まず、難民たちが避難しているはずなのに、ここにはクルセドのシスターの姿が見当たらない。いるのはマリアさんとソフィアのみ。


 ………つまり此処は――――――



「――――へぇ。 気づいたんだね、嬢ちゃんたち」



 ティアが語る前に元凶・・が姿を現した。


 俺とセルベリアは背後に佇んでいたマリアさんから距離を取る。気配など一切感じなかった。………いや、当たり前だよな。


 マリアさんの手には血が滲んだ鋼のつるぎ。…………ははっ。 俺たちは既にハメられていたってわけかよ。


 死靈騎士アンデッドであったマリアさんは目が虚ろになりつつ、俺を指さす。



「………お前が、『転生者』ダナ。神官様の手を煩わせるマデも、ナイ。私が今すぐに連れて行って、アゲる。" 死"とイウ、"悦楽"に――――――」



 そう言って、俺たち目掛けて剣を振り翳した瞬間、



「…………『無邪気な黒蝶イノセントロード』」



 目を紅く輝かせ、背中に黒い蝶の羽を生やし、聖堂ごとマリアさんを黒い衝撃により吹き飛ばされ、聖堂が半壊した。


 黒いいかずちを右手に纏い、左手には身長の3倍はある刃渡りが広い大鎌。



「………たかが死靈騎士アンデッド風情が我と渡り合えるとで持ったか………?」



 ティアと俺はただただ言葉を失っていた。――――――これが『本気』なのだと。

 …………いやもうこれはギャグだな。


『魔王セルベリア』が今ここに降臨したのだった。


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