第022話『さつりくきょうかい 6』

「こみみに挟んだだけじゃが、『この世界には別次元からやってきた超人がいる』とレギオスが前魔王お父様と話していたような…………」


「えっ――――――?!」



 それはあまりに不意打ちだった。

 身体が勝手に反応し、ソファーから立ち上がってしまう。



「ど、どうかなさいました?」

「………い、いえ。大丈夫です」



 ドクドクと加速する胸の鼓動を何とか抑え、再び席につく。


 ………待てよ? 殺戮教会は最近になって活動を再開した。それは約一週間前のこと――――――



 …………"繋がる"。

 俺がこの世界に転生した時期と上手く重なる。セルベリアが言っていた『別次元からやってきた超人』。


 つまり、俺が持つ|聖剣や特殊能力というチートの恩恵を受けている人のことだ。


 ………そう考えればルクセント教会略奪については『俺のせい』である事が分かる。――――――が。それはそれであって、



「ルクセント教会が殺戮教会に襲われた時、魔法ではなく、奇妙な能力や武器を使っていませんでしたか?」



 ここで仮説を立ててみる。

 マリアさんはたしかに『ある人たち』と複数形で答えていた。

 ………つまりこれは俺以外にも異世界転生者がいる。という可能性がある。


 そして殺戮教会を率いている人物もまた、異世界転生者である――――――マリアさんが俺の質問に答えたのなら。



「………そ、そうですっ!! 恐らく左眼に傷があるお婆さんが殺戮教会の神官リーダーですっ!! そのお婆さんは仲間を剣で殺害し、殺された仲間を奇妙な能力で操作コントロールしていましたッ!! まさしくあれはゾンビでしたッ…………」



 当時のことを鮮明に思い出したのか、マリアさんは両肩を抱え、震え始める。



 …………生者を絶ち、死者として生かす。――――しかもそれは剣で斬られた時に発動した――――――



「………あったぞ。 確かにあった?!」



 俺はあの時のことを思い出す。

 ………そう、俺が異世界転生前に行った自身の初期設定について。

 

 その中の一つの選択肢『武器』についてだ。


 たしかにあの時、魂を喰らう剣『死魂剣ダーインスレイヴ』という武器が存在していた。


 当初は『なんだこの物騒な名前の武器は』と気になり、武器の詳細を確認していた。………あ、ちなみに聖剣『エクスカリバー』の詳細は見忘れてしまったため、正直どんな力があるかは知らないのである。


 ………と、それは置いといて。

死魂剣ダーインスレイヴ』の持つ効果は『死靈騎士アンデッド』と書かれていた。そう言った点で、殺戮教会の神官は異世界転生者でほぼ確定する。



 ただ黙り、長考する俺にセルベリアとマリアさんから緊張の視線が向けられていた。――――――そして俺は口を開く。


 ……震えながら・・・・・



「…………え、やばくね?」



 対処法を見つけるどころか、俺見たくチート能力者が敵と分かり、かなり絶望していた。








 ♢








 ルクセント教会を占領する叛逆神レゾリアの名を語る殺戮教会の一員が神官ジェドリアを囲んでいた。



「神官様っ、こちらが『別世界人』のデータであります」



 一人の男が、ジェドリアに資料を渡すと同時に、周りにいた信者達は地面に膝をつき、白十字に祈りを捧げていた。


 その中、ジェドリアはゆっくりと資料に目を通していく。



「ほう? 今年の転生者は『204人』か。 ………まぁ、どいつも能力を持て余して、女遊びやら金稼ぎ」



 溜息をつきながら、資料を捲っていくと、ジェドリアは手を止めた。

 ………そして、不気味な笑みを浮かべ始める。



「………ほう。 あの銀髪の少女には何か幸運補正でもついているのかねぇ」



 ジェドリアはたくさんの資料の中から2枚・・選出し、後は白十字の下で焚いてある暖炉の中に放り込んだ。



「この2人は私と同じく主人公・・・の才能があるようだね。―――だけど。主人公は一人で十分」



 ジェドリアは過去40年間、幾多の強力な補正を持つ転生者をこの『死魂剣ダーインスレイヴ』で屠り、従えてきた。


 そして今年も狩りの時間がやってきた。『主人公殺しの時間』が。








 ♢









 ――――ちゃぽん。

 この音、聞き覚えがあるだろう。

 そう、お風呂である。


 マリアさんに『子供が夜で歩くのは危険ですので、今晩はお泊まりなさってください』という親切心をありがたく頂戴頂いているわけです。



「我は暁闇の魔導師ウィザード、ソフィ―――――っ、いててぇぇ」

「あ、ごめんね?! シャンプーが傷に染みちゃったかな?」



 どうやらティアとソフィアちゃんは仲良しさんになったようで何より。



「………それにしても気になるよな」

「マリアの"暴力"についてか? みれあ」



 今日のお話では触れなかったが、どうもマリアさんの暴力が『病み』のものとも思えない。 なんせ、今日は普通に話し合いができていたし。

 この先、そんなことがなければいいけど。




 俺とセルベリアは聖堂に大きな浴槽で脱力し、湯の温かさに癒される。


 さて、このまま今日の話し合いについてでも話をまとめるか。

 ――――だが、その前に聞いておかなければならないことがある。



「……なぁセルベリア。 気づいてるんだろ?・・・・・・・・・



 なるべく自然に聞く。

 すると浴槽で足をパシャパシャ動かし始め、無邪気に笑いながらセルベリアは答える。

 

 

「『何をじゃ?』………と言うのはこの際野暮であろう……? 魔王ともなると相手の魔力量が分かるのじゃよ」



 魔力量が分かる、ね。

 少年漫画にある『強者は相手の気を悟れる』というやつだな。

 …………そりゃ分かっちまうよな。



「みれあの魔力はどうやら"そこ"がないようじゃった。 魔族でもありえないが人間なら尚更ありえない。………なら結びつくものは『異常イレギュラー 』な存在、ということじゃよ」


「ははっ、そりゃすげーわ。 あと普通に言葉わかるなら喋ろよな」

「………魔力を使わない限り、我は言葉も疎かになり、力も無いただの幼女なのじゃよ………」



『魔王セルベリア』。

 容姿のせいか、俺は此奴を見くびっていたようだ。


 普段あほ面かましているやつだが、俺なんかよりも頭が回り、更には実力もある。



 …………もう主人公交代して良くないか?


 

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