第006話『もりにて 5』
魔獣の遺体を火魔法『
その間、かなりキツい腐臭が漂うためティアたちには鼻と口をおさえてもらう。
この匂いに慣れるのはまだ早いからな。……かといって俺がこの臭いに慣れているわけでもないが。
主人公補正の魔法による火力の為、魔獣の火葬は10分ほどで終了する。
灰となったものは近くの木辺りに振り撒き、肥料として扱った。
「て、手慣れてますなぁ………」
「ん? いや、そうでも無いさ」
馬車引きのオジサンが感嘆していた。
これも主人公補正のお陰というか、力があるお陰で何となく自信がついてやったまでだし。そんなつまらない話は後にして。
「この落石を退かすから後ろ下がってろ。 馬車と一緒に20メートルは離れてくれ」
そう俺が声を掛けるとオジサンは馬車を引いて、背後に下がっていく。
身の程を弁える奴は得するよオジサン。―――――――そう、オジサンは。
「………ティア。下がってろ。 危ないぞ?」
足が震えながらも俺の後ろに立つティア。だがどく気配は全くない。
「わ、私も魔法士になるんですっ! こんなことで恐れているわけにはいかないんですッ!」
「いや、気持ちはわかるが―――――」
そう退散を促そうとすると、ティアは俺に深々と頭を下げた。
―――――ただひたすら無言で。
………本当、頑固だなティアは。もし俺に妻が居たらこんな娘を持っていたのかな?
…………なら仕方ない。
娘の我儘を聞くのが親の務めってもんだよな。
「………怪我しても知らないぞ」
「あ―――――は、はいっ!!」
決して頑固なことは悪いことじゃない。………その善悪を決めるのは周りにいる人間だ。――――だから俺はティアの頑固を善と判断した。
背後にティアが居ることを配慮しながら安全重視の魔法を考える。
――――――安全………魔法による二次災害を避けるための魔法…………。
――――岩を浮かせる。
…………そうだ、岩を浮かせれば安全に。
なら早速―――――――と、言いたいところだが。
「………なぁティア。 こうものを浮かせる魔法ってなんて言うんだ?」
名称が全く思い付かない。
こういう時は若人に聞くべし。
するとティアは鞄から魔法の名称が書かれた
「え、えと。 『
「うーん。 ま。なんとかなるっしょ」
なるほど『
あのよくテレビで見る胡散臭いエスパーたちがやるあれだろ? スプーン曲げる奴しか知らんが、実際あれは『物質に干渉しなくとも物質を操作できる』って解釈でいいのかな?
物は試し。やってみるか。
岩に向けて強く念じる。
―――――目の前にある落石を道端に動かす…………。そう強く念じ、魔法を発動させるッ―――――――!!
「「………あっ」」
ティアと声が重なる。
…………それもそうだ。
岩が宙に浮き始め、次々と道端へと岩を移動させる。
魔法で予め信号を与えていたせいか、こちらはただ眺めているだけで落石が回収され道が開通していく。―――――便利だな『
「す、凄いよっミレアッ!!」
「お、おい…………キャッ?!」
不意にティアに抱き着かれ、地面に倒れ込む。…………ちょっ?! 胸っ?!胸がモロ当たってるッ!! ―――――それに女の子特有の甘い匂いが…………――――――――
「…………こ、これ。らめぇ―――」
「え。え?! ミレアッ?」
絶頂に達した。
―――――傍から見たら只の百合だがな、 中身はオジサンなのよさ。
…………こりゃ効くわ………色んな意味で。
♢
落石が全部撤去された後。
俺はティアとオジサン協力のもと馬車に乗せられ、何とか王国に進行することができた。
そして空が茜色に染まる頃、大きな街が見えてくる。
あれが王国―――――――えと。王国―――――――
「ルクセント王国が見えましたよ、ミレアッ!!」
「………お。そうだなッ!! ルクセントッ!! そう、ルクセントだなっ」
幼体型になっても忘れがちなのは変わらないんだな。
こういう時、歳というものを思い知らされる。30歳超えてから物忘れが酷くなってよく上司に怒鳴られてたなー……………。
そんな過去の他愛ないことを考えているうちに馬車が止まる。
「着いたぜ嬢ちゃんたち」
オジサンがにこやかに親指を立てると、俺たちは馬車を降りる。
そして目の前には西洋建築物を彷彿させる街が広がっていた。
………と、その前にオジサンにお金渡さねぇと。
「あ、金入らねぇぞ? 助けてもらった借りがあるしなッ! 立派な魔法士になれよッ!!」
それだけ言ってオジサンは馬車を引き、王国を去っていた。………またいつか会える。そんな気がした。
「今日はもう遅いですし、ギルドは明日にして宿を探したほうがいいですね」
「そうだな。 あ、飲み屋ってあるのかな? 俺はそっちに行きた―――――」
「ふふっ。ミレアは未成年でしょ? お酒はダメだよ?」
うぐっ…………。
今更ながら恨むぞこのロリ体型。
こうして俺ら『美少女』(強調)二人の魔法士になるための物語が始まるのだった。
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