第005話『もりにて 4』

 後悔はしていない。


『他所様の家庭の事情に首を突っ込むのは良くない』と昔から母に言い聞かされていたが、今回ばかりは許してくれ、遠い世界にいる母さんよ。それと終活ファイト。



 俺はもうサラリーマンという"人生のレール"をただひたすら歩むだけの人生は終わったんだ。


 オッサンから銀髪ロリ美少女に性転換し、強大な力と武器を手に入れた今だからこそ言える。―――――案外、レールから外れても道は進めるんだと。







 ♢









「あ、ありがとうございましたッ!!」



 翌朝、俺は食卓に招かれると早速、ティアが俺に深々と頭を下げ、お礼を述べる。


 少々戸惑いつつ、両親の顔色を伺う。

 双方とも清々しい笑顔で俺に視線を送っていた。―――――きっと決意したんだろう。



「俺も別に魔法士ってわけじゃない。 だからこそ一緒に学んでいこうぜ、ティア」



 男口調で話すが相変わらず萌えボイス。―――――締まりがなくて困る。


 だが思いは届いた。

 朝食中にも関わらず、ティアは立ち上がり、用意された鞄から一枚の紙を取り出す。地図のようだ。



「魔法士の資格が取れるのはここから一番近くて『ルクセント王国』です。 今日出れば夕方には着くはずですッ!!」

「………は? 今日行くのかよッ?!」



 全く、好奇心旺盛なのは結構だが、昨日の今日だぞ? もう少し魔法士について調べてからの方が…………というかまず俺は魔法士どころかこの世界のルールも知らないわけでして…………。



「馬車なら用意しているぞ」

「二人分のお弁当、用意してますよ〜」



 もう準備されているとあれば仕方が無い。 早めに朝食を済ませ、ティアは大きなリュック、俺は聖剣を担ぎ、馬車へ向かった。








 ♢








「どうすれば魔法士になれるんだ?」



 馬車に揺られる中、俺はティアに質問をする。


 推測に過ぎないが、魔法学園的な施設に入学する的なものだと考える。

 久しぶりの学園生活もいいものだなぁ。


 高校の時なんかは100回告白を断られて『レジェンド』というあだ名をつけられたな。女子からは目つきが悪いことから『悪魔』や『淫魔』とよく言われていたものだ。

 ………あれ? もしかしてロクな思い出なくないか俺?


 過去の傷を勝手に抉って傷ついていると、ティアはある本を俺に見せてくれる。


 題名は『魔法士職に就くため知っておきたい100のこと』。


 異世界らしからぬ題名のセンスだなこれ。資格勉強の本を彷彿させる感じである。



「まずはギルドという場所で自身の魔法士カードを発行して貰うんです」

「え? それって無条件で魔法士には・・なれるってわけか?」

「は、はいっ。 でも最下位『Fランク』から始まり、高難易度な仕事は受けられないんです」



 本にある程度目を通し、ざっくりまとめる。


まず初期位は『F』ランク。またの名を『無印級』。

そしてクエストをこなしているうちに『緑印級』と呼ばれる『E』ランクに昇格し、更にクエストクリアをしていくと『D』の『赤印級』、そして『C』の『白印級』へと昇格する。


………で。ここからの昇格システムが少し複雑である。

まず、次ランクである『B』の『銅道級』に昇格するには禁忌指定の魔物を討伐しなければならない。


そしてAランクの『銀道級』と最高ランクである『S』の『金道級』は存在はするが、昇格条件は伏せられているとか。

…………この本に書かれているのはこのぐらいだな。


「なぁティア。 こういう昇格システムを設けてるってことは、ランク別に貰える報酬金の増減があるってことだよな?」


「は、はいその通りです。新人魔法士の一番の壁がそこなんです。 生活ができなくなってしまい、やめてしまう人が多いんです 」



要は魔法士として生活したいならクエスト受けまくって出世しろってわけだ。

 これは学校というよりは会社に近いなこのシステムは。わかり易くて有難い。だが、肉体的にも精神的にも辛そうだな、魔法士。


 興味深くティアと本を読みあっていると、不意に馬車が止まる。………ん? なにかトラブルか?



「………済まないな嬢ちゃんたち。 見ての通り落石だ」



 馬車を引いていたオジサンの指さす先を見ると、落石で道が塞がれて閉まっていた。


 たしかここは山道の一本道。………ルートを変えようにも王国までの道は無い。

 ―――――困ったな。



「最近、魔獣が多くてねぇー。 困ったもんだよ」

「魔獣ってここらへんにそんないるのか?」



 正直、数以前に魔獣という存在に驚き、発言した。

 すると、オジサンは苦笑いを浮かべながらこちらを向き、



「…………ほ、ほら。あんな奴だよ」



 震えた声でオジサンが喋る。

 ――――――何事かと目の前を見てみると、



「――――ま、魔獣・・ッ?!」



 ティアが悲鳴を上げる。

 ―――――こりゃたしかに悲鳴上げたくなるわ。


 馬車を有に超える身長。8メートルぐらいだろうか…………?

 

 そして紅い眼に鋭い牙・爪。―――――例えるなら巨大化した凶悪熊だ。


 俺は至って冷静にティアに質問をする。



「アイツ、襲ってくるのか?」

「は、はいっ。今は辛うじて馬車によって私たちの姿が確認出来ていないようですが、見つかったら最期、あの鋭い爪で……………」

「…………そ、そか」



 バリバリ危ないヤツじゃないか。

 オジサンはどうやら馬車の後ろに回り込んだらしく見当たらない。

 

 …………こりゃ、道を切り開く以前の問題として魔獣を討伐するのが必須のようだな。


 俺は聖剣を片手に持ち、パニックに陥るティアの頭を撫で、



「…………ちょっくらデカブツ斬ってくるわ」



 幼女という事を忘れ、狩りを楽しむ狩人イェーガーの眼に変える。


 ―――――さて聖剣。

 実力を見せてもらおうか。


 馬車から飛び出し、魔獣の目の前に姿を現す。…………早速獲物を見つけた魔獣は耳鳴りが残りそうな激しい咆哮を空に向ける。


 そして鋭い爪が俺に向けて繰り出される。――――――だが俺はそれを華麗に躱し、魔獣の背後を取る。


 爪が直撃した地面は地割れを起こしていた。…………おっかねぇな。


 ―――――では早速実力の程を。

 魔獣がこちらに振り向く前に俺は空中へと飛び、剣先を魔獣に構える。


 そして聖剣に強化魔法を施すと同時に眩ゆい光を放つ。これが『聖剣』の力―――――!!

 

 …………そうだな。名付けるなら―――――――


 

「喰らえぇ!! 『聖剣突エクスカリバー』ぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!」


 

『いい歳こいたおっさんが』とは言わせない。

 流星の如く魔獣の背中に剣先を向け、光の閃光を纏いつつ、腹を貫通させる。


 力尽きた魔獣が仰向けに倒れると同時に俺は美しく血振りを行う。

 

 ……………ここで思わずドヤ顔。

 強化魔法というものを『念じる』のみに徹したところ、魔法は成立。魔獣を貫く刃と化した。無詠唱って奴だ。――――便利だが、かなりの集中力を有するため、できる限りは詠唱をした方が良さそうだ。


 案外、魔法は格闘ゲームのコマンドより簡単なのかもしれない。


 刹那の如く魔獣を軽々しく討伐した俺をティア、更には馬車引きのオジサンまでもが絶句していた。



 改めて知る。

 どうやら俺は強いらしいです。

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