第53話

 神叢木刹刃が駆る巨龍アズライグは上昇し、間もなくして逆律の万魔殿の至近領域へと到達した。

 万魔殿を覆っているのは、一種の時空歪曲面だ。その内側を支配するのは、天地真逆の重力。

 魔刀によって時空歪曲面を切り開き、かの領土内への侵犯を果たした刹刃。そして万魔殿が実装する数多の防衛機能が、示し合わせたかのように迎撃を開始した。

 撃ち上げられるおびただしい数の光弾。さらにファンタズマと思しき翼竜の軍勢までもが出現し、アズライグへと群がり始めた。

 それらをアズライグはかわし、鋭い顎で喰い散らし、そして背に跨がる主――刹刃からの斬撃によって、次々に斃されていった。

 都市上空には、彼の生まれ故郷が逆さまに映る。そして眼下に忽然と居を構える、ダアトの居城。だが今やインディゴとアバトラのみとなった敵魔術結社には手に余る領地である。立ち並ぶ都市に臣民の気配はなく、建物はさながら墓標めいていた。

 大地と宇宙とを光柱で繋ぐ巨塔が、都市中央にそびえ立っている。おそらくあそこが始原魔導器の祭壇――連れ去られた魔女たちが囚われているのだとわかる。塔の頂上から基底部までを貫通する光の柱こそが、始原魔導器の力をもってこの現実界とイ界の融合を進める、大魔術式そのものなのだ。

 巨龍を伴い、刹刃は塔の頂上を目指した。

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