第13話
もう互いの声も聞こえない。目が眩んで何も見えない。
なのに、意識が途絶える直前、誰かに手を握られたような気がした。
【―――――――――――だいじょうぶ?】
それが不思議と暖かくて、この〝僕〟は――――。
【平気よ、深呼吸して? そう、落ち着いてね。不安なんて気のせい。あなたのお話はハッピーエンドになったんだから。あとはゆっくり、自分のこと思いだすだけでいいの】
そんな声が聞こえた。どこか聞き覚えのある小さな女の子の声だ。
真っ白に飲まれた記憶の奔流が、さながら劇場で映画が始まる瞬間のように闇へと還る。
これはただの夢。
でも頬に添えられたその手に触れ、確かに彼女の体温を感じたんだ。
「えっ…………」
僕の口から、思わずため息がこぼれた。
「きみは……だあれ……?」
〝彼女〟の姿を見たのは初めてだ。僕の頬に小さな手を添えたまま、心配げな視線でじっとこっちを見つめていた。
妖精さん? 喩えるならまさに、そんな雰囲気をした女の子だった。
生え始めが銀、先っぽは燃え盛る朱――そんな複雑なグラデーションに染まる髪の毛は、地べたまで届くほどの長さだ。
そのいく房かが、女の子の痩せた肩から滑り落ちて、くるくると巻いた毛先が僕の鼻先をくすぐったかと思えば、宝石色の瞳がまん丸く見開かれる。
驚いた口を慌ててふさいで、途端に妖精さんは僕から後ずさってしまった。
誰なんだろうこの子?
見た感じ十歳そこそこのあどけない顔つきだけど、こんな女児との繋がりなんて僕にはない。
そもそもこの子ってどう見ても妖精としか思えないほどの美人さん――完全に異国の人の顔つきをしてるから、言葉が通じてるのかも怪しい。
そしたら慌てた妖精さん、両手で口元で隠したまま「
なるほど、この子ってもしかしたらエンジンの妖精なのかも。だって息づかいから、あのとき「イマージュを見せて」って問いかけてきた声の主だってわかったから。
そっか、彼女が僕を認め、祝福してくれたんだ。
だったらこれは、やっぱり夢なんかじゃない。
そんな刹那に垣間見た夢の先に、僕が降り立つべき未来がずっと待ちわびている――。
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