第5章 能力判明

「では、二階のこの部屋を使ってください」

 食事の後、クエスタに案内されたのは6畳くらいの木組みの部屋だ。

 純白のベッドと木の机、そして大きな窓がある。


「ありがとうございます、クエスタさん」

「クエスタでいいわ、純騎さん。貴方の方が年上なんだし」

 にこりとほほ笑むクエスタ。

 落ち着いた態度からは15歳と想像できない。

 それに、あの少女、いや、ヒュノの妹ってことが想像できない……。ふつう逆でしょ。


 なお、部屋を決めるときに、ヒュノは

『純騎は私と一緒に寝るなのー! 私さんと一緒なのー!』とジタバタ暴れていた。

 子供か。


「たまには姉さんとも一緒に寝てあげてください。姉さん、純騎さんが相当気に入ったみたいなので」

「はい、わかりました」

「では、また明日ね。純騎さん」

 クエスタは一礼すると、そのまま部屋を出て行った。


 ひとり、部屋に残される俺。

 とりあえず疲れもあったのでベッドに横たわることにした。


 純白のベッドは手入れがなされていてふかふかで、すぐにでも夢の中へ行ってしまいそうなほどだ。


 ゴロンゴロンと動きながら今日一日を振り返ることにした。


 ――ニーパの残した副賞。本当にこれだけなのか?


 ポケットに入れられていたメリケンサックを取り出して眺める俺。

 もしもこれだけだとすると……、ニーパの野郎、もしかしてよほど運がよくないと生きさせる気がないんじゃないかとも思ってしまった。


 といっても、当のニーパへの連絡手段はないし……。


「あー、ニーパの野郎に一言文句言ってやりてぇよ」

 俺はそうぼやいて布団に潜り込もうとした。


 すると、手の中に何かがあることに気付く。


「ん?」

 握られていたのは薄い板のような物体。

 そう、俺が転生する前によく使っていたもの『スマートフォン』だ。


「これ……もしかして」

 俺がスマホを操作してアドレス帳を開くと、そこには『ニーパ』という文字が。

 どうやら電話番号が登録してあるらしい。


 とりあえず使ってみるか。つながらなかったらその時はその時だ。

「よっし、かけるか」

 軽い気持ちで通話ボタンを押す。


 一コール、ニコール……。


『は~い、ニーパです~』

 転生する前に聞いた、あの女神の声が聞こえた。


「ニーパ? 俺だよ。純騎だよ」

『は~い、元気~、……え?』

 ニーパはおっとりした声を上げたかと思うと、急に我に返ったような声を出す。

 そして、動揺しながらこう言った。


『ちょ、え!? なんで貴方が私のプライベート電話番号知ってるの!?』

 これ、プライベート電話番号だったのか。

 そういう突っ込みは心の中で思うことにして、俺は話を進める。


「ニーパ、俺への副賞ってなんだ? あと、この世界には漢字があるのか?」

『副賞を気にする人はいても、漢字を気にする人は初めてです……。まあ、この際だから全部話しちゃいます~』

 電話口からニーパがそう言うと、元のおっとりした声で話し始めた。


『え~と、貴方に渡した副賞、それは【無限錬成】という能力です~』

「無限……錬成?」

『はい~』

 さらにニーパは言葉をつづけた。


『無限錬成は、作りたいものを何でも、いくらでも作り出せる能力です~。質量保存の法則や対価なんてものもありません~』

「ハァ!?」

 思わず大声を出してしまう俺。

 いや、ニーパが言ったことが本当だとするなら、俺は神にも等しい力を手に入れたことになるぞ?

 ……大丈夫なのか?


 手が震えている俺を知ってか知らずか、ニーパはマイペースに言葉をつづけた。

『漢字の件は、私の能力です~。魔力を脳に作用させて、異世界の文字を日本語に変換してます~』

 ……今一瞬、恐ろしい言葉が聞こえたような気がしたが、気のせいだと信じたい。


『ほかに聞きたいことはありますか~?』

「……いや、大丈夫だ」

『は~い、では、よい異世界ライフを~』

 そのまま彼女は電話を切った。


 真っ黒な画面のスマホ。

 それを見つめてこうつぶやいた。


「……俺、やばい能力身に着けたんじゃないか?」

 一時はどうなることかと思ったが、これはいける。


 異世界で、好き勝手遊んでやる!

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