おじさん、絡まれる①

翌日。


「今日は物資の輸送が済んだらラッキービースト3型に会ってきてくれ。そろそろ作業員の入場許可期間が切れる頃だからな」

「3型?ラッキービーストって他にも種類があるんですか?」

「普通のラッキービーストは外を歩き回ってる青いやつだろ?3型はデータ管理の仕事をするもんで普段は外にいないんだ。まあ、パークガイドの人に聞けば案内してくれるさ」


ブラインドシャッターから射し込む朝の光に照らされるオフィスで、男は自分と同じ作業着の上からまた別のジャケットを羽織った、しかし自分よりも歳のいった白髪の男性から話を聞かされていた。


ここは世界最大の総合動物園ジャパリパーク……に物資を運輸する会社の一つで、パークの外から必要な物を文字通り運び込んでいる。


かつては『セルリアン』と呼ばれる謎の怪物がパーク内に現れた影響で経営が完全にストップしてしまっていたが、そのセルリアンがほぼ完全にいなくなってからは無事に経営を再開できるようになっている。


「……たぶん、工場近くの事務所とはまた別の……恐らくパーク内の事務所に3型はいると思う」

「……そうですか」


どこか申し訳なさそうに言葉を曇らせる白髪の男性に対し、男は声のトーンをほんの僅かに下げる。

白髪の男性はそれを聞き逃しておらず、男の肩に手を置いた。


「……中に入り辛いのを分かっていながら、すまないな」

「……いえ。いつまでも引きずっていると、それこそ妻や娘に顔向けできません。それに仕事に私情を挟むのも良くないですし」


男は顔を上げて語気を強めると、白髪の男性に向き直り少しゴツゴツした顔に笑みを浮かべる。


「……それもそうだな。よし、今度一杯奢らせてくれ。新しく出来た店があるんだよ」

「……いいですけど、無茶しないでくださいよ?」

「ばっかお前、これでも若い頃は『鋼の肝臓』なんてアダ名を付けられてたんだぞ?」


白髪の男性のおどけたような態度に今度は苦笑いを浮かべる男は、軽く頭を下げてオフィスを後にする。


そしてトラックに乗り込み、昨日と同じように工場へ向かい、ラッキービーストの指示通りに荷物を運び込む。

小屋の中にいる女性ガイドからサインをもらって少しの世間話をした後、男は少し息を整えつつ話を切り出した。


「あ、それとすいません。そろそろ入場許可期間が切れるそうなんで、ラッキービースト3型に会うように言われてるんですが……」

「あ、もうそんな時期ですか?分かりました。ちょっと待っててくださいね」


女性ガイドは小屋の奥にあるカウンターの後ろ側の部屋へ姿を消し、ほんの少しの間を置いて再び男の元へ戻ってくる。


「すみません……3型が今ちょうどメンテナンスに入っちゃったみたいで、大体一時間ぐらい待たなきゃ終わらないそうなんです……」

「あ、そうなんですか……」


運悪く3型はメンテナンスに入ったという知らせを聞かされた男は少し声のトーンを下げる。

待ちぼうけになって暇になる事に慣れていない男は、3型と出会えるようになるまで何をすべきか思索しようとする。

そこへ女性ガイドがおずおずと男に声をかけてきた。


「あの……もしよろしければ、ここの裏側がちょうど水辺エリアに繋がっているんで、時間まで覗いてみますか?」

「え……そんな、いいんですか?」

「勿論です!」


女性ガイドは目を光らせ、男との距離を一気に縮める。


「工場と会社を行ったり来たり、でもパークの中へは入れない!それってかなり、いいえとても残酷な事だと思うんです!仕事熱心なのはいい事ですけど、パークの中で生活するフレンズさん達の素晴らしさをあなたのような人にも知ってもらいた、く……」


まるで火が付いたようにまくし立てる女性ガイドは、呆気に取られている男の面食らったかのような表情に気付く。

対する男は、あまりにも突然の語りにどうリアクションを返していいか困惑し、ただただ圧倒されているのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る