ずっと
ずっと一緒だよ。
それが君の口癖だった。
僕から告白した時も君の答えは「ずっと一緒に居てくれるならいいよ」だったし、ちょっとしたことで喧嘩してしまって、だいたい僕の方から謝ることになったけど、その時も君は涙を浮かべながら「ずっと一緒だよ」っていたずらっぽく笑った。
二人はずっと一緒。生まれる前から決まっていたことなのかもしれない。
そう思えるようになった頃、僕はプロポーズをする決意をした。
自分にしては頑張って買った指輪と雑誌にもたびたび取り上げられる人気レストランを用意して僕は彼女を車で迎えに行った。
そして事故は起きた。
赤信号を無視したトラックが僕の車に突っ込んできたのだ。
気が付いた時には病院で、あのデートの日から何十日も経っていた。
そう、彼女の葬式にさえ僕は出られなかった。
病院から自宅に移った後も僕は毎日泣いた。こんなことなら一緒に死にたかった。
一人は嫌だ。ずっと一緒に、そう言ったのに。
最悪の決断が頭をよぎり始めた時、僕はあることに気が付いた。
目には見えなかったが、いつも何かがいるような気配を感じたのだ、この部屋に。
考えられるのは、そう、彼女だけだ。そうだ、そうに違いない。
彼女は僕を見守っていてくれるのだ。あの約束通り、ずっと。
それに気付けたおかげで僕は少しずつ立ち直り日常を取り戻すことが出来た。
そしてそれから数年という月日が流れたある日、ふいに僕は彼女の姿を目にすることになった。
最初はぼんやりと、しかし時間と共にその姿ははっきりと見えるようになっていった。僅かにずれていた波長が何かしらの拍子にピタッと合った、そんな感じだったのかもしれない。
久し振りに目にする彼女の姿。彼女は泣いていた。僕も涙を禁じ得なかった。
やがてとぎれとぎれに彼女の声が聞こえてきた。映像の時と同じようにそれは時間と共にはっきりと聞こえるようになっていった。
わ、かっ、いたよ。あな、いるこ、と。
やくそ、まもってく、んだね。ありが。
でもね、もう大丈夫だよ。君の分まで私ちゃんと生きるつもりだから。
……えっ?
君の分まで生きる? それって……。
その瞬間、僕の中を何かが通り過ぎていった。それは失っていた記憶の流れだった。
そうだ、あの時、あの事故で死んだのは僕の方だ。見守っていたのは彼女じゃなくて僕の方だ。
君とずっと一緒に居たいという意識に僕は支配されていたんだ。だから肝心な部分を忘れてしまっていた。
だから見えなかったのだ。君の姿が見えていたら僕は死んだのは自分の方だという事実に気付いてしまっていただろう。だから無意識に僕は見えないようにしていたのだ。
真実を知ってしまった。もうここにはいられない。
目の前に光が見えた。あれが僕の行くべき場所。彼女には見えていないようだ。もうお別れだ。
最後にこれだけは伝えたかった。
僕は彼女の耳元でそっとつぶやいた。
もう一緒には居られないみたいだ。でもずっと君を想っているよ。
消え行く僕は振り返った君の泣き顔を見ながらもう一度だけ「ずっと」とつぶやいた。
(了)
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