懺悔
誰が聞いているか私にはわからないけど。
でもきっと誰かが聞いてくれていると信じて。
懺悔したいと思う。
私には生まれ付き不思議な力があった。
上手く説明できないけど、簡単に言うなら「好きになった相手の心を侵食する」といった感じだろうか。
初恋は幼稚園の時、近所に住む男の子が相手だった。
私と彼はとても仲が良くていつも一緒に遊んでいた。
そして気付いたのだ、彼がだんだん私そのものになっていくことに。
もちろん見た目は彼のままだったが、彼の心はちょっとずつ私に置き換えられていった。
卒園の頃には元々あった彼の心は跡形もなく消え去り、男の子の姿をしたもう一人の私が誕生していた。
そして小学校に入学した私はまた恋をした。体育が得意な背の高い男の子だった。
無論、彼も私になった。さらに話はそれで終わらなかった。
幼稚園の時に私が恋をした彼、今や私になっていた男の子も恋をしたのだ。
相手は私の親友の女の子だった。
誤解してほしくないが、オリジナルの私本体、つまり私は女の子を好きになったことはない。彼は精神が私でも身体が男だったから、それに強く影響されたのかもしれない。
当然のごとく私の親友は私に変わった。
四人の私。私たちは中学生になり高校生になり大学に進み社会に出た。
その間、私たちは数え切れない恋をした。そう、本当に数え切れないくらい。
もう私たちは四人ではなかった。八人でも十六人でもない。
そう、私たちはもう数え切れない。
人類全体のうち何パーセントが「私」になったのか、調べるすべはない。私にすらわからない。
私はとんでもないことをしてしまった。私が生まれてきたこと自体が罪だった。今はそう思っている。
許して欲しいとは言わない。
でも。
せめてこれを聞いているあなたが「私」じゃないことを願っている。
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます