決勝




 いよいよ決勝戦だ。ここまで本当に長かった。


 高校に入学して初めて出会ったオピュラクギフペイというスポーツ。友達に誘われて入部した時は本当に不安だった。


 でも厳しくも優しい先輩方に出会い、信頼できる同級生や後輩にも恵まれ、ついに三年生最後の大会にキャプテンという立場で望むことが出来た。


 そして俺たちはこれから全国大会の決勝という舞台に立とうとしているのだ。まさに夢のようだった。


 でも、もし敗けてしまったら……。


 ふとそんな不安が自分の頭によぎった瞬間、誰かが俺に声を掛けてきた。


「おい、キャプテン。表情が硬いんじゃないか? ビビってんのかよ」


 そんな軽口を叩いたのは自分と同じ三年でコデュチッデという守備的ポジションを務めている加藤だった。頭が悪いくせにここぞという時は鋭いのだ。全くこいつには敵わない。


「うるせえな。大丈夫だよ、心配するな。それより今日の相手はギルセンチョピャを巧みに操る強豪だ。油断するなよ」


「おう、わかっているさ。任せとけって」


 ギルセンチョピャというのは1059通りあると言われているオピュラクギフペイの作戦の一つであり、チーム人数37人のうち32人を攻撃に回すという超攻撃的なフォーメーションだった。ここまで多くの強豪校と戦ってきた自分たちもまだ経験のない相手だったし、自分たちが得意とする攻撃陣と守備陣が3秒ごとに入れ替わるオヤダワクウックというフォーメーションは一般的にギルセンチョピャに対して不利だと言われていたので俺は少し神経質になっていたのかもしれない。


「キャプテン、しっかりしてよね。ここまで来たんだから思いっ切り暴れてきてよ」


 今度はマネージャーの朋美が俺の肩をパシッと叩いてそう気合を入れてくれた。彼女は攻撃的マネージャーであり、俺の恋人だった。


 ギルセンチョピャでは実際に試合をする37人の他にマネージャーの応援参加が認められており、攻撃的マネージャーである彼女の役目は「おかしな仮装をしてフィールドの外で踊り回って相手選手を笑わせること」だった。


 現に目の前の彼女は「白の全身タイツにモヒカンヘアスタイル、両手には団扇」という奇抜な格好で見慣れているはずの俺ですら直視できず、出来るだけ目を合わせないようにしながら「おう」と答えることしか出来なかった。まったく、頼りになるやつだ。敵じゃなくて良かったと俺は心の底から思えた。


 ちなみにマネージャーには守備的なポジションもあり、相手チームには「審判の目を盗んで一瞬だけ試合にこっそり参加する」というマネージャーがいるらしかった。要注意の情報だ。


 俺は改めてゆっくりとチームメイトたちを見回した。四畳半の控室にギュウギュウ詰めになった38人の仲間たち。みんな緊張のせいか汗ばんでいたし顔が紅潮しているように見えた。


 その時、ガチャリと控室のドアが開いた。


「よし、時間だ! 行くぞ、みんな!」


 監督が俺たちに号令を掛けた。


 さあ、勝負の時だ!


「みんな、最後まで全力で行くぞ!」


「おう!」


 俺の掛け声にみんなが答えてくれた。もう怖いものなんてない。


 俺たちは光り差す三角錐型のフィールドに飛び出していった。


 ハーフタイムまで41時間に及ぶ俺たちの戦いがいま始まろうとしていた。




              (了)






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